第276話 クリスマスプレゼント

―林さん視点―


 自分の部屋の机で本をぱたんと閉じる。思わずため息が漏れた。すごい物語だった。


青野先輩の最新作を読ませてもらった。

 文芸誌に初めて載った短編小説。先輩からは見本を送るよと言ってもらえたけど、私は丁重にお断りして、本屋さんで発売日に買って、何度も読み直している。


 尊敬する先輩が一気に小説家としての道を駆け上がっている。それを私は後ろから見ているだけなのに、どうしてこんなに幸せな気持ちになれるんだろう。やっぱり、すごいな。素直にそう思った。


 もうすぐ単行本の発売だ。

 本が出たら、サインをもらわないと……


 そんなことを考えていると、彼と本当に仲直りができてよかったと思った。それも全部、場を用意してくれた一条さんのおかげだ。ふたりは、どんどん仲を深めていっているように見える。私は横で微笑ましく見ているだけだけど。


「恋人か」

 もうすぐクリスマスだからそんなことを考えてしまう自分もいるけど、残念ながらできる気配はない。でも、あんなにすごい先輩と一条さんと仲良く過ごせる高校生活は充実している。


 ふたりに私の書いた小説を読んでもらって感想をもらったりするのも楽しい。もし、機会があったら一条さんと遊びに行きたいな。映画とか雑貨とか本屋とか。行きたい場所が多すぎる。


 そんな幸せな妄想をして、思わず考えてしまった。

 部長は今の状況をどう考えているんだろうかと。


 部長の嫉妬については本物だったと思う。青野先輩がすごすぎるけど、部長だって間違いなく才能があったはず。私から見れば、高いレベルの戦いだと思っていた。それに、普段の二人はとても仲が良かったように見えた。


 なのに……


 それに一つだけ皮肉なところがある。

 あれだけ酷く憎んでいたのに、おそらく、先輩の才能を一番理解して評価していたのは部長だったはずだ。何もなければ、もしかしたら、彼の横でこの状況を自分のことのように喜んでいたかもしれない。


 そうしたら、私も……


 そんなことを考えて、暗い気持ちになった。

 スマホが鳴る。よかった。暗い気持ちにならなくて済んだ。そう思ってスマホを見ると、一条さんからのメッセージだった。


 珍しいと思って、嬉しくなる。

 そして、内容もまるでさっきまでの自分の願いを神様が叶えてくれたかのような内容で……


「よかったら明日ショッピングに付き合ってもらえないかな?」

 そんな短いメッセージだったけど、私は「うん、いいよ」と即答する。

 この季節ならきっと、彼へのプレゼントの相談だと直感して、私はすぐにネットを開いて、先輩が好きな作家の新刊について調査を始めた。


 二人きりでお出かけするなんて、嬉しいな。明日は特別な日になりそうだ。



―――――

(作者)


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