第275話 クリスマスの予約
センパイの家に向かうと、玄関をお母さんが掃除していた。
さきほどの村田さんのことを思い出して、複雑な気分だったのに、お母さんの様子を見ると安心してしまう。
もう何度も抱きしめられてしまっている。将来の娘として、かわいがってもらっている。私にとってはもうひとりのお母さんみたいな存在。
「あら、愛ちゃん。いらっしゃい。寒くなってきたわね」
いつものように優しい笑顔を見せてくれる。涙が出るほど嬉しい瞬間。
「おはようございます。はい、もうすぐクリスマスですからね」
「そうよね。あと1か月でクリスマス。もう少ししたら年末ですもんね。愛ちゃんと出会ってから、もうすぐ3か月か。そうは思えないくらい仲良くなれて嬉しいわ」
たしかに、私もこんなに他の人と仲良くなれるとは思ってもいなかった。
少なくとも、私たちはほとんど家族同然になっている。
「あ、あのお母さん……クリスマスイブ、キッチン青野のディナーを予約してもいいですか? 2人で」
センパイに聞いていた。クリスマス1か月前に予約ができると言っていたのを覚えていたので、恥ずかしくなりながら聞いてみる。
お母さんはすべてを察して、笑っていた。
「三人じゃなくていいの?」
察して言ってくれたとわかって余計に照れてしまう。
「お父さんは、たぶん仕事を入れると思うので……」
「そうなの。ちなみに、お相手さんの予定は聞いている?」
こちらの反応を楽しんでいるようにお母さんは微笑んでいる。
「まだ、です……予約が取れたら誘おうと思って」
「そっか。愛ちゃんみたいなかわいい子にそんなに思ってもらえて、あの子は本当に幸せね。もちろんよ。うちでいっぱい楽しんでね。どのコースにする?」
お母さんは、窓に貼ってあるクリスマス特別ディナーのメニューを指さしながら聞いてくれる。
でも、すでに予習済み。去年のクリスマスメニューが口コミサイトに載っていたので、それを見てセンパイと一緒にそれを食べる想像をずっとしていた。
「Aコースで」
前菜は、シーザーサラダとパイに包まれたホワイトシチューとスモークサーモンや生ハム。メインディッシュは盛り合わせで、カモの胸肉のコンフィと和牛のヒレステーキ、ホタテとカキのドリア、カニクリームコロッケ、エビフライ。食後に、ケーキと紅茶。
「あら、一番いいコースじゃない。いいの?」
「はい。いつもお世話になっていますし、それに初めてのクリスマスだから……」
お母さんにそう素直に伝える。彼女は嬉しそうに頷いた。
「ご予約ありがとうございます。承りました。それと……」
少しだけお店の責任者の顔になった後、お母さんはいつものように満面の笑みで……ぎゅっと抱きしめてくれた。
「ありがとう。愛ちゃん。英治のために頑張ってくれて。大好きよ」
その言葉を聞いて、朝からの嫌なことはどこかに消えてしまう。
私はこの優しい温かさに包まれながら、恋人との初めてのクリスマスを幸せに過ごそうと決心した。
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