第270話 宇垣のおじさんと英治

 久しぶりに用事もない土曜日の午後。本を読みながら過ごしているとスマホが鳴った。宇垣のおじさんだった。


「少し話がしたい」

 簡単なメッセージだ。おじさんらしい。「わかりました」と返事をすると駅前の駐車場を指定された。男同士で話をしたいのだとわかった。俺は家を出て、駅に向かう。外はすっかり冬の足音が聞こえているくらい寒かった。


 ※


「急に呼び出してしまってすまないね」


「いいんですか。愛さん、今日はおじさんと一緒に映画を見るって言ってましたよ。昔から、週末は家族で映画を見ていたとか」


「そんなことまで話しているのか。恥ずかしいね」

 簡単な受け答えをして、俺たちは黒塗りの高級車の後部座席に潜り込んだ。

 運転手は黒井さんだった。


「さすがに、爆弾があるからね。運転は控えているんだ。なに、そんなに心配しなくてもいいよ。今すぐどうにかなるというものじゃない」


「無理はしないでください。何かあったら愛さんも俺たちも南のおじさんもみんな悲しみますから」


「ありがとう。もう少ししたらキッチン青野にも挨拶に行かせてもらうよ」


「話途中で終わってしまいましたね。映画大丈夫なんですか?」


「ああ、問題ないよ。うちでは夜に映画を見るのが好例だからね。今は愛が夕食を作ってくれているから、それを食べた後だね」


「それはよかった」

 そういうと俺たちは笑い出した。


「英治君は相変わらず優しいな。そこまでに気にしてくれているのか」

 おじさんは、くすくすと嬉しそうに笑う。


「そりゃあ、愛さんのあんなに楽しそうな顔を見たらね」


「そんなに愛は楽しそうにしてくれていたのか」

 照れているようにはにかんでいる。おじさんは昔のように柔らかい表情を見せてくれている。なにか重荷を下ろしたかのように、さっぱりとした顔だ。


「ええ、なにを見ようか悩んでいましたね。俺にもおすすめを聞いてきたりして」


「へぇ。ちなみに、英治君は何をおススメしたんだい?」


「『リバー、流れないでよ』ですね」

『リバー、流れないでよ』とは、邦画で2分間のループを繰り返すコメディ作品だ。あまり重厚な作品はまだ二人には重いかもしれないと思って気軽に見ることができるコメディ映画をおススメした。


「話題になっていたな。まだ見ていないから楽しみだ」


「愛さんが採用するとは限りませんよ」


「するさ。キミがおススメしてくれたんだから、愛は絶対にその映画を見る準備をしているさ」

 そう言われると照れてしまう。


「楽しんでください」

 俺はそんなことしか言えなかった。不器用な自分を見て、誰かを思い出しのだろう。たぶん、昔の親友を……おじさんは目を細めていた。


「英治君……ありがとう。どんなにお礼を言っても足りないというのはわかっている。たぶん、愛は君と離れることなんて想像もしていないし、たぶんそんな選択肢を選ぶこともないだろう。親ばかとはわかっているんだが、できれば私もそうあってほしいと思っている」

 俺はゆっくりと頷いた。

 まだ、言えないけど……愛さんとの約束もある。俺だって離れるつもりなんてない。


 それからは思い出話を中心にゆっくりと時間が流れていった。



―――

(作者)

明日、11月10日は『人生逆転』のコミカライズ1巻が発売日です!

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