第263話 近藤の審判
―近藤視点―
「どうして、嘘を言うんだよ」
何とか絞り出した言葉は震えていた。力強く手を握っても震えが止まらない。
慌てて裁判官が「近藤君は静かに」と言って、こちらを注意する。そんなことを言われても、美雪の裏切りが衝撃的過ぎて何も考えられない。
美雪はそれに反論するかのように言葉を絞り出していた。
「嘘じゃない……嘘を本当にするって言われて、いきなりあざを作られて、それを写真に撮って……いつの間に拡散されて……」
今までの願望がすべて崩れ落ちていく。どういうことだよ、どういうことだよ。ここでそれを否定しちゃったらダメだろ。そんなことしたら、俺のプロサッカー選手の夢も女をたくさんはべらすという願望も……今まであったはずの満ち足りた生活も全部失っちゃう。
どうして、お前は本当のことを言ってしまうんだ⁉
「わかりました。証人、最後に確認です。加害者の発言は虚偽ですね?」
あえて、裁判官は俺の名前を出さずに、加害者という言葉を使ったのがわかった。そちらのほうが美雪が証言しやすくなるという判断に見える。
なんとかそれを制しようと立ち上がろうとして、両隣の二人の警護官に押さえつけられた。
「虚偽です。ずっと彼は嘘をついていた。嘘を本当だと思い込もうとしていた人です」
力がふっと抜けていく。吐き気と怒りが猛烈に湧き出てくる。でも、どうすることもできなかった。
「それでは、証人は退出してください」
美雪はゆっくりと俺の横を通り過ぎる。
「お、おい。美雪。待て、待ってくれ」
隣の警護官は「やめろ」と言って、俺を注意したが気にせずに、美雪に手を伸ばす。だが……
美雪はそれを酷く哀れんだように見つめて、冷たい視線をこちらに向ける。「ごめんなさい」と感情がこもっていない明確な拒絶の言葉を向けられた。美雪はそのあとは一瞥もしないでどこかに消えていった。
隣の警護官はまるで俺をゴミでも見るかのように軽蔑した視線を送ってくる。
「おい、嘘だろ。俺は次期、日本サッカー界の宝で……」
「それは審判には関係ないね。先ほどの証言に反論はありますか?」
裁判官からは、あきれたようにそう言い返された。
「嘘だ、嘘だ。そうだ、美雪は誰かに脅されているんだ。そうであるに違いない!」
俺の叫びが部屋に響き渡る。
「それでは、他の生徒たちの証言はどうかな?」
裁判官は検察官に目くばせして、他の生徒の証言を読み上げさせる。
「廊下で嘘の噂を流されたことに抗議した被害者を殴り飛ばした目撃例が多数。他にも、サッカー部のタイムラインに自分から先ほど偽証したというあざの写真を送り付けて拡散を暗にほのめかしたという証言もありますね。他にも……」
今までの悪行が耳を覆いたくなるくらい次々と暴露されていく。
「近藤君、それでも認めないかい? 被害者に悪いとは思わないのかい?」
裁判官は証言を聞いた後に、こちらに確認する。
俺は心がボロボロになっていて、もう何も考えることができなかった。それでも、出てくる言葉は一つだ。
「俺は悪くない。その証言は全部嘘だ」
その瞬間、ほとんどの大人が大きなため息をついたように見えた。どうしてだ。
「もうこれ以上の議論は不要でしょう。結論に入ります。すでに、客観的な証拠は出そろっているうえに、本人の弁以外は矛盾がない。罪状のほうは疑いようがない。そして、加害者である彼は一切の反省がなく、自己弁護の矛盾した証言ばかり行い、反省もしている様子がないね。弁護人、異議はないか?」
おい、俺様のことをおいて、勝手に話を進めるな。
「私もしっかり反省して罪を認めるべきだと説得はしたのですが……彼はこのようにパラノイア的な性格で、精神的に不安定な可能性も……」
弁護士の爺は、最後の可能性にかけるような言葉を綴るが、本人もダメもとで自分の責任を果たすような投げやりな感じがした。
「そうか。だが、医者の見立てもそれを否定している。むしろ、このような若者にはしっかりとした更生が必要じゃないか」
「……」
裁判官の言葉に、弁護士は何も言えない様子だ。じゃあ……俺は……ダメなのか?
「それでは、結論を伝えます。少年院送致が妥当だと考えます。理由は……」
その言葉を聞いて、俺は床がぐにゃぐにゃになるのを感じる。バランスがうまく取れない。口から何かがでてくるのがわかった。でも、身体がうまく動かずにそれをぬぐうことすらできない。
俺の人生が終わってしまった。
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