第262話 美雪の結論

 私は弁護士に呼ばれる。今回は、先輩の裁判の証人として呼ばれることになっているため、その説明を受ける形となっていた。


「どうして、自ら証人に立候補したんだ。これはきみにとっても不利な証言になるかもしれない。すでに、あなたは別の民事裁判を抱えているよね。今回の証言は、その裁判にとって不利に働くことになりかねない」

 先輩の件で、検察の人たちに呼ばれた時、「裁判で今回の事件の発端となったDVが本当にあったのか。そのあとで何があったのか証言してほしい」と言われた。私は何も言えなかった。学校よりも公的な場所で自分の罪を証言するというのは、どうして怖かった。


 あの日のことを思い出す。検察庁の会議室に呼ばれて、女性検察官に切り出された。


「正直に言えば、酷な話をしていると思う。証人は原則、拒否できない。だから、強制的に証言をさせることもできるが……まだ、未成年のキミにそこまで無理をさせてもいいのかって、我々の間でも議論はあるんだ。まずは、キミの率直な気持ちを教えて欲しい」

 女性検察官は、凛々しい言葉遣いだったけど、それでも私のことを心配してくれているのがわかった。


「たぶん、私にしかわからないことを言えばいいんですよね」

 私は低く冷たい声が出ていた。


「そうだね。おそらく、今回の被害者である青野君、加害者の近藤君、そして、その間にいた天田さん。この3人しかわからないことを……そして、あなたが一番客観的に証言できると思うから」

 その一瞬にたくさん悩んだはずだ。拒否しようかと思っていなかったといえば嘘になる。自分の評判が地の底に沈むのが怖い。近藤先輩の運命を決定づけてしまうのも怖い。そして、ずっと逃げ続けてきた自分の罪と向き合わなくちゃいけなくなることが怖かった。


 でも……その瞬間は、それをすべて乗り越えていた。私が考えていたのは、ずっと温かさをくれていた青野家やお母さんの顔だった。


「わかりました」

 声は震えていた。それでもやっと言えた言葉だったと思う。もっと早く言わなければいけない言葉だったのに。


 ※


 そして、裁判の場に立った私は、震えている近藤さんを見つめた。

「どうして、嘘を言うんだよ」

 彼は叫んだ。嘘か。やっぱり、そうなんだ。

 彼にとっては……先輩は数人の警護官に取り押さえられた。


「嘘じゃない……嘘を本当にするって言われて、いきなりあざを作られて、それを写真に撮って……いつの間に拡散されて……」

 彼は嘘を本当にすることができると思っていたんだと思う。実際、彼の作戦によって、嘘は本当のことだとして扱われて拡散された。私はそこから逃げてしまった。大好きな人を裏切ったうえに最低の行為をしたと思う。


 こんなことをして赦されるわけがない。赦されていいわけがない。

 でも、これ以上、英治に悪評が付いて回ることは避けたかった。それだけは……ダメだと思った。


「わかりました。証人、最後に確認です。加害者の発言は虚偽ですね?」

 裁判官さんは優しくそれでも鋭い言葉をぶつけてくる。


「虚偽です。ずっと彼は嘘をついていた。嘘を本当だと思い込もうとしていた人です」

 それは完全な決別宣言だった。

 絶望した表情の近藤さんは、何かが壊れたような表情をしていた。



―――

(作者)

次回、近藤の判決です。

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