第261話 少年審判

―家庭裁判所―


 どうやら、今日は俺の裁判らしい。少年審判とか何とか言っていたけど、たいていの場合は、1回だけ1時間程度、裁判所で話して、解放されるか少年院に行くか決まるらしい。あのムカつく弁護士がそう言っていた。


「俺が少年院なんかいくわけがない」

 そう自分を鼓舞して、車で裁判所に来た。そして、簡単な宣誓をした後で、裁判が始まった。母さんが横にいる。ただ、なにもしゃべろうともしない。冷たい目をしているし、ずいぶんと痩せている。まるで、自分の子供に興味がなくなったとばかりにずっと前を向いていた。


 そうかよ。やっぱりそうなんだな。こいつは親でも何でもない。


「それでは、聞かせていただきます」

 裁判官の老人は、穏やかに確認するとばかりの表情だった。


 老人はゆっくりとした口調で、青野英治に対する暴行事件やあいつに関する誹謗中傷、そして、捜査から逃げる際に警官を傷つけてしまったことに間違いはないか確認された。これで警察でも何回も聞かれたことだから、イライラしてしまう。


 俺はぶっきらぼうに答えた。

「だから、あれは隣にいた美雪を守るためで、誹謗中傷に俺は関与してないって。たしかに、大げさに伝えてしまったことがあるけど……警察を傷つけるのも悪気はなかったんだって」


 それをふむふむと聞いた後で、裁判官は事務的に確認する。それはまるで、結論が決まっているからだと言わんばかりに。そうだよな。俺が少年院に行くわけがないんだから。横目で母親を見つめる。なぜか、絶望したような顔をしていた。


「なるほど。でも、警察の映像や証言では、被害者を一方的に殴っていたとようだけど」


「そ、それは、あいつの目がやばかったからで」


「なるほど。でも、キミは被害者が危ない人間だと思って、勘違いして殴ったと、そういうことかな?」


「そうだ。いつも美雪から、青野英治は日ごろからDVをしてくるって聞かされていたから、それで、それで‼」

 俺は、それらしい言葉を紡ぐ。

 そうだ、これで言い逃れができるはずだ。だが、横にいた弁護士のあいつは、まるで苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。なんだよ、どうして、そんな顔をしているんだよ。それじゃあ、俺が悪いみたいじゃないか。


「なるほど……では、証人の話も聞かせてもらいましょう」

 裁判官がそう宣言すると、一人の女が入ってくる。彼女はうつむきながら、青白い顔色をしていた。


 なんだよ、美雪がいるんじゃねぇか。なら、あいつだって口裏を合わせてくれるに違いない。だって、俺のことを愛しているんだからな。いいぜ、ここを出たら、お前を本命にしてやる。


 美雪は「嘘をつかない」という宣誓を同じようにしていた。そんなものに惑わされるな。そうすれば、俺と一緒の幸せがあるんだ。


 裁判官が、俺の話を簡単にあいつに伝える。


「彼の話は本当ですか?」

 最後にこう付け加えられた。そうだ、そうだよな。


 いつもの気の弱い美雪なら本当だというはずだった。あいつは臆病だから。俺がDVの証拠のあざをつけたときも、あいつは驚いたような表情をした後で、何も言わなかった。

 

 写真を撮っているときも、あいつは「その写真を何に使うの?」とすら聞かなかったのだから。


 俺は勝ちを確信しながら次を待った。

 だが……


「そんなの嘘です。私は一度も英治から暴行なんてされていないし、そんな相談を先輩にしたことなんてありません」

 美雪は涙を浮かべながら、それでも力強く、俺を否定した。


――――

(作者)

次回、美雪編です!

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