第260話 ホラー映画に挑戦する一条愛
「本当にいいのか、愛さん、ホラー苦手なのにさ」
映画館のチケット売り場の前で、念のためにもう一度確認する。
たしか、以前、林さんとホラー映画を見たときに怖くなって、大変なことになったはずだ。
「だ、だいじょうぶです。大好きな監督の初挑戦のホラー映画だから……我慢します。それに……」
愛さんは少し震えながら、薄っすら目に涙を浮かべていた。かわいいけど、反応が心配過ぎる。
「それに?」
「センパイと一緒ならたぶん乗り越えられると思うから」
そう言われてしまったら、もう立ち止まれない。たしかに、俺もこの映画は気になっていた。原作は、もともとウェブ小説で、突出した描写力が恐怖を駆り立てて、大きな話題になったんだ。そのまま発売された小説は空前の大ヒット。その勢いのままに、実写映画化となったわけで、業界期待の若手映画監督が初めてホラージャンルに初挑戦と言うことで映画界隈でも話題になっていた。
その監督の大ファンだったから劇場で見たい。でも、ホラーは苦手だから一緒に来てほしい。そういうわけで、デートに誘われたんだけどさ……
テレビで見るホラー映画よりも音響がいい劇場で見るホラー映画のほうが怖い。本当に大丈夫かなと心配になって、俺たちは劇場に入った。
※
「……っ」
横の席の愛さんは、声にならない悲鳴をあげている。正直に言おう。思った以上にこの映画は怖かった。映像にこだわる監督だから、よく計算されていて原作以上にリアルな恐怖を感じる。
それも少しずつ恐怖の深淵に迫るタイプの映画だから、どんどん怖くなっていく。
最初は大丈夫そうだった愛さんも、中盤からは俺の腕を握って離そうとしない。
さらに物語が進むと、限界に達したのか、完全に目をつぶって、顔を俺の腕に押し付けて震えている。いつもの凛とした彼女を見ているせいか、このギャップに正直、驚く。プルプルと震えながら、それでも他のお客さんの迷惑にならないように悲鳴を抑えている。
俺がジェスチャーで、外に出ようかと提案したけど、彼女は必死に顔を横に振った。
その様子を愛おしく見ていたら、映画は終わった。
エンドロールが終わって、劇場が明るくなったところで愛さんに安全を知らせるために肩をたたいた。
「もう終わったよ。目を開いても大丈夫」
愛さんはその言葉に安心したのか、強く閉じていた目を開く。キョロキョロと周囲を見回して、安心したのか、ため息をついて顔を真っ赤にした。
「さっきのは、忘れてくださいね」
涙目で伏し目がちにそうお願いする愛さんの姿を俺は強く心に刻み込んだ。忘れることはできなそうだ。
「今日、一人で眠れるかな……」
そんなカワイイ心配が横で聞こえてきた。
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