第259話 夏特別SS「苦手なホラー映画を見てしまった一条愛」

※IFストーリーです


「こんばんは」

「あら、愛ちゃんいらっしゃい。席はいっぱいだけど、休憩室空いてるからそっち使って。ねぇ、英治、愛ちゃんが来たわよ」

 俺が店を手伝っていると一条さんがやってきた。

 たしか、今日は林さんと映画を見る約束とかで、珍しく帰りは別々だったんだ。たしかに、学校帰りに駅前の映画館から帰ってきたらこのくらいの時間だよな。


「どうも」

 一条さんは恥ずかしそうにこちらを見ていた。どうして、そんな反応をするんだろう。


「どうしたの?」

 俺は少し時間をくれと兄さんと母さんに言うと、お前も一緒にご飯を食べてこいと言われてしまった。気を使ってくれたんだろう。


 もしかしたら、なにか大事な話だろうか。だから、あえて遊びの帰りに寄ったんだろうか。ちょっとだけ、緊張して愛さんと休憩室に座ると……彼女は神妙な顔で「笑わないでくださいね」と言った。


「えっ?」と意味も分からずに、聞き返すと、彼女は恥ずかしそうにぽつりとつぶやいた。


「林さんと一緒にホラー映画を見たんですが、怖くなってしまって、気づいたらここに来てました」

 そのかわいい悩みに、俺は思わず吹き出してしまった。


「笑わないでって言ったのに……」

 彼女は、ちょっとだけ怒って抗議してくる。その様子もいつもスキがない彼女とはかけ離れていて、おもしろかった。


「ごめん、ごめん。じゃあ、今日はここでご飯を食べていくといいよ。帰りも送っていくからさ」

 

「あ、ありがとうございます」

 彼女は伏し目がちにそう言ってお礼を言ってくれる。やはり、恥ずかしいのか顔が真っ赤になっていた。ホラー苦手なのに、林さんの手前言いだしにくかったみたい。たしかに、一条さんとの映画トークでホラー映画が話題に上がったことはなかったな。


「何が食べたい、今日のおすすめはシーフードグラタンだけど?」

 安心できるメニューを思い浮かべて、熱々のグラタンが最初に思い浮かんだ。一条さんはちょっとだけ食い気味に言う。


「あ、グラタン食べたいです」


「了解」

 俺が注文を伝えようと店のほうに行くと、一条さんが「センパイっ……」と叫んだ。こちらが振り返ると、彼女は不安そうな顔で「できるだけ早く帰ってきてくれると嬉しいです。お店を手伝っていたのに、わがままを言ってごめんなさい」と言っていた。


 俺はうなずいて、休憩室のドアを閉めた。

 あの反応は、かわいすぎるだろう。


 ※


 グラタンを食べて、食後の紅茶を飲みながら談笑して、遅くならないうちに彼女を家に送る。


 彼女はさっきから申し訳なさそうにしている。

「本当は、車で送ってもらうこともできたんですけど……」

 一条さんは少しだけ言い訳気味に言葉を漏らす。


「そんなに気にしないでいいのに」

 そう言って笑う。母さんも本当に嬉しそうだったから気にしないでいい。むしろ、このまま一人で返したほうが怒られるまである。


「ありがとうございます。でも、やっぱり心細いときほど、センパイの顔が見たくて……」

 俺は何とかごまかした。直撃を免れたけど、あやうく致命傷になりかけるところだった。


「今日は眠れそう?」

 俺はあえてそう言ってごまかすと、一条さんは心細そうに首を横に振る。


「ならさ……夜、眠くなるまで通話しようよ」

 ちょっとだけ勇気を出して、そう告げると、彼女は「いいんですか‼」と珍しくわかりやすい嬉しそうな表情になっていた。


「もちろん」

 できる限り一緒にいられるように、ゆっくり歩くことにした。

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