第257話 遠藤の未来と日常

 映画が終わるまでずっと手はつながれていた。

 この手は絶対に離したくない。もう、二度と……


 ゆみはこんな小さな手で、俺を地獄から救いだそうとしてくれた。そして、一度否定してしまった俺に、それでも手を差し伸べてくれた。あの復讐が終わった後、俺は結局何をしようとしていたんだろう。たぶん、なにも見出すことができずに、そのまま死んだように時間を使っていただけだったと思う。


 だから、あの後にこんな幸せな時間が訪れるなんて思わなかった。

 それも全部、ゆみのおかげだ。


「ゆみを幸せにしたい」

 誰にも聞こえないように、言葉にならないセリフを宙に溶かしていく。

 映画はクライマックスを迎えようとしていた。どんどん感情移入して、涙があふれてきた。


 今後は人の役に立つ仕事がしたいな。おかげさまで、浪人はしていても成績はいい。顧問の先生も言ってくれた。


「この1年の差は、遠藤君にとっては大きいのかもしれないけど、私たち大人にとってはそんなに差はないよ。もちろん、大学への入学や就職にも大きなハンディにはならない。だから、この高校生活をたくさん楽しんでほしいと思っているんだ。そして、今からでは遅いなんてことはこれっぽちもないんだからね」

 顧問の老教師にそう言ってもらえたから、俺はあの部活に入った。

 両親は、学業に復帰しただけで、とても嬉しかったらしく、高校の後は好きにしていいと言ってくれていた。大学に行きたいなら支援するし、勉強が好きならその先に行ってもいい。応援している。


 もちろん、高校を卒業して就職するのもすごいことだと言ってくれた。

 少しずつ、自分の未来というものが自分の手元に帰ってきたように思えた。


 映画はエンドロールに到達した。


 ※


「とってもおもしろかった。もう何度、泣いちゃったかわからないよ。映像もすごくきれいで、主人公がとっても優しくて」

 ゆみは、興奮しながら感想をまくしたててくれる。その様子に俺は安心して笑う。よかった、自分が好きなものを認めてくれるのは嬉しい。青野の時もそう思ったけど、今回は一緒に映画館で観賞した後でこんなに喜んでくれるのだから。


「だよな。俺の引きこもり時代の中でも屈指の面白さだから」

 あえて、自虐的に言うと、ゆみは少しだけ驚いて、すぐに笑った。


「どれだけ映画観たのよ、どうせ、夜更かししていたんでしょう。まったく」

 バレてしまって、俺は苦笑いを続ける。ごまかそうとしているのがバレバレだ。


「ねえ、ゆみ?」


「うん?」


「あのさ、大学に入学した後、少し落ち着いたらさ、校内を案内してくれないかな?」

 それは、小さな一歩だけど、俺の人生にとっては大きな一歩だと思う。より自分が未来を求めるようになったからだ。そして、それはゆみと一緒に歩んでいく未来だ。


 ゆみは、それに気づいたようで、目にうっすら涙を浮かべて、「もちろんだよ」と頷いてくれる。


「そうと決まれば、駅前のいつものところで、山盛りポテトとダブチ祭りしよう!」

 ゆみはそう言って、あの時のように笑う。日常と未来が本当に自分の手元に戻ってきたのだと思うと、俺はとても嬉しかった。

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