第255話 遠藤たちの初?デート
―遠藤視点―
近藤たちは逮捕されて、あいつの父親は総理大臣を含む大きな汚職事件に連座して、さらに大変なことになっていると聞いた。あいつらの会社は、すでに倒産。あと、あいつに残されたのはサッカーの才能くらいだけど、もうこんな大きな事件になってしまった影響を考えれば、社会的に抹殺されたと言えるだろう。
「これって復讐だったのかな」
青野のいじめに対する制裁で動いていたつもりだったけど、エリの件もあって、俺の私情が含まれていたのかもしれない。そう思うと少し怖くなる。
でも、あの絶望に負けていた引きこもり生活で苦しんでいた俺は、いつの間にか光があふれる場所に来てしまっていた。
「一樹、お待たせ!」
今日は恋人として、ゆみとの初デートだ。ゆみは、びっくりするくらい気合を入れて準備をしてくれたことがわかる。
思わず見とれて、何も言えなかった俺に彼女は苦笑する。
「せっかく、オシャレしてきたのに、一樹は何も言ってくれないの?」
そう言われて、俺はドキリとする。
「いや、思わず見とれていて」
あの事件の時は、誰にも言えずに嘘を押し通していたはずなのに、今ではそんなことができずに、自然と素直に話すことができた。この素直さがあれば、もっと早く弓と仲直りできたのになと思うと、思わず心がチクリと痛む。
「えっ……そんなにストレートに言われるなんて思わなかったから……ありがとう」
ゆみは、顔を真っ赤にして震えていた。その反応に、自分もどんなにキザなことを言ったのか思い知らされて、恥ずかしくなる。
「う、うん。じゃあ、行こうか」
甘酸っぱい初デートが始まる。
※
今日は映画を見ることにしていた。引きこもり時代に、俺はたくさんの映画を暇つぶしで見ていたから、結構詳しい。青野とも小説や映画の話で仲良くなった。あいつは、俺のおすすめの映画をすぐに見てくれる。
今日は青野にもおすすめしたことがある「バジュランギおじさんと、小さな迷子」という映画の再上映を見に来た。サブスクでしか映画を見てこなかったので、劇場でもこの映画を見たかったから、ゆみを誘った。
映画初心者のゆみをいきなりインド映画に誘うのは少し悩んだけど、「えっ、一樹が面白いと思った映画なんでしょ‼ 私も見たいし、デートってそういうものだよ」と言ってくれた。この映画はインド映画にしては比較的に短い2時間半だから楽しんでもらえると嬉しいな。
ストーリーはわかりやすい。インドの正直者な好青年がひとりの女の子の迷子を拾う。彼女は言葉が話せない障害を持っていて、自分がどこから来たのかも名前すらも話せない。女の子を助けようと奮闘する青年は、彼女がインドとは仲が悪いパキスタン出身であることに気づき、母親の元へと送り届けることに奮闘する話だ。
南アジアの雄大な自然が美しく切り抜かれていて、そして、現実の厳しさを描きつつもそれも超える一人の青年の善意が丁寧に描かれている。
物語も中盤。青年にはたくさんの困難が降りかかる。
「(ゆみ、楽しんでくれているかな?)」
心配になって、横をちらりと見ると、ゆみは大粒の涙をぽろぽろと流して、それをハンカチで抑えていた。俺もつられて泣きそうになる。
少しだけ動揺したのだろうか。一瞬目が合って、手が触れあった。
ゆみは、もう一度こちらを見て、目で訴えかける。
「少しだけ手、握ってくれない」
言葉にはしていなくても、俺は何となく察してうなずいた。彼女の温かい手がふんわりと俺の左手を握る。
そして、映画の上映中は、それが離れることはなかった。
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