第252話 近藤の絶望()

 ―近藤視点―


 今日はあの弁護士との面会の時間だ。

 結局、俺の拘留は続いている。どうやら、親父の事件との関係もあって拘留が長引いていると聞いている。それに、俺が最初から警察や検察と全面戦争を目指していたから余計にそうなっているのだろう。


「やぁ近藤君」

 あの弁護士は、いつものように笑っていた。


「いつになったらここを出られるんだよ。せめて、早く出してくれ」

 俺は精神的な疲弊によって、声まで弱くなっているのがわかった。


「それが残念なお知らせがあるんだね。少し覚悟を固めてくれ」


「どういうことだよ‼」

 俺は激高して叫んだ。


「まずね、君のお父さんの会社が完全に倒産した。不正蓄財やわいろのための裏金はもちろん税金を払っていなかったからね。財産のほとんどは仮の差し押さえ状態になっている。裁判所もそう決めたようだ」


「どういうことだよ。もっとわかりやすく……」


「だからね。君のお父さんの会社は、政治家への裏金のため悪いことをしてお金を隠していたんだ。それは悪いことだから、財産のほとんどを差し押さえられたということだよ。僕の報酬は、お母さんが払ってくれているけどね。つまり、キミが贅沢三昧に使っていたお父さんや会社の財産はほとんど差し押さえられているんだ」


「取り戻せるんだよな……」

 絶望した言葉でそう聞くが……「できるわけがないだろ。何度説明したらわかるのかな」という冷徹な言葉が返ってきた。


「じゃあ、おれはどうなるんだ……」


「そこでもう一つ問題があるんだ。キミは警察や検察を必要以上に怒らせている。だから、拘留は長くなるだろう。裁判前に保釈金を払って一時的に釈放されるとしても……さらに、暴行や傷害事件の場合は保釈金が数百万円クラスになることが多い。お母さんも、それは払わないと言っている。さすがに、今後の生活に不安があるんだろうね」

 ショックで開いた口がふさがらなくなった。


 母親に捨てられたということか。くそ。くそ。くそ。

 泣きそうになりながら、目の前が真っ暗になりそうだった。


 このままじゃ、ここを出ることもままならない。

「そして、もう一つの報告だ。これは君にはいらないことかもしれないけど。キミの暴行の被害者である青野英治君だけどね、有名な文学賞の候補に入ったようだ」

 そう言って、弁護士は新聞記事の切り抜きを広げた。


「君のお父さんが関わったトンネル崩落事故の被害者の女の子を主人公にした小説をネット小説の投稿サイトにアップロードしたところ大反響で、書籍化決定。そのまま、文学賞の候補入り。すごいね。この文学賞においては、ウェブ小説の候補入りは史上初、17歳での候補入りも史上最年少らしいよ」

 俺のサッカーはプロ以前の大学レベルでも通用しなかったのに、あいつの小説は……プロにまで評価され始めている。その残酷な結果に嫉妬のような感情が渦巻いて、自分の自己肯定感に大きな傷をつけていく。


「なんでこんなものを……」


「わからないのかい。キミの暴行の被害者がここまで大きな注目を浴びている以上、じきに君の事件もすぐに気づかれてしまう。そうなれば、青野英治君に大きな同情が集まって、キミはますます不利になる。覚悟を固めておいたほうがいいということだよ」

 バカにしていた青野英治に逆襲を食らい、ますます俺の自尊心は崩れていった。

 俺はもうだめかもしれない。ついに、むかつく弁護士の前で泣き始めてしまう。涙は止めようと思っても止まらなかった。

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