トランプ米大統領は5日、南米ベネズエラのマドゥロ大統領が米軍に拘束されたことを、同国の群衆が「祝っている」とする動画を交流サイト(SNS)に投稿した。しかし、この動画は実際には1年半前に撮影されたものだった。
トランプ氏は、米陸軍特殊部隊デルタフォースがベネズエラの首都カラカスに急襲をかけ、マドゥロ氏と妻を拘束して麻薬テロの罪で裁判にかけるため米ニューヨークに移送した2日後に動画を投稿した。
トランプ氏自身が創設したSNS「トゥルース・ソーシャル」を通じて拡散された動画には、建物やヤシの木の間に集まった大勢の群衆が映っている。それには「数え切れないほどのベネズエラ国民がマドゥロ政権崩壊のニュースを祝っている」とのキャプションが添えられていた。
この動画は数千件の「いいね」を集め、数百万回再生されたほか、極右インフルエンサーで陰謀論などを広めてきたサイト「インフォウォーズ」創設者のアレックス・ジョーンズ氏によっても拡散された。
しかし、英BBC放送の検証担当記者シャヤン・サルダリザデ氏によると、映像は実際には17カ月前の2024年7月に撮影されていた。当時、ベネズエラでは大統領選挙の結果を巡り不正疑惑が浮上し、マドゥロ氏に対する抗議デモが発生していた。
繰り返される誤解招く動画投稿
79歳となるトランプ大統領が、誤解を招く動画や捏造(ねつぞう)された動画を拡散したのは今回が初めてではない。
昨年5月、トランプ氏はホワイトハウスの大統領執務室での会談中、南アフリカのラマポーザ大統領に対し、同国で殺害された白人農民数百人の墓とされる動画を見せた。トランプ氏はこれを南アフリカの白人に対する大量虐殺の「証拠」だと主張した。
「これらは千を超える白人農家の埋葬地だ」とトランプ氏は会談の際に語った。「(映像内の)車は日曜の朝に祈りをささげるために並んでいる。そこに見える白いものはすべて十字架だ。だいたい千個はある。みんな白人農民たちだ」と語った。
しかし本紙インディペンデントが以前報じた通り、この動画は実際には2020年に南アフリカで殺害された農民2人への追悼行事を撮影したものだった。
また昨年9月にも、トランプ氏は民主党のシューマー上院院内総務とジェフリーズ下院院内総務が登場するAI(人工知能)生成動画を共有した。その動画の中でシューマー氏は、民主党は「われわれの『ウォーク(人種差別や偏見への意識が高い)』なトランスジェンダーに関するたわごとのせいで、投票してくれる者がいなくなった」と述べていた。
軍事作戦と法廷での応酬
マドゥロ氏と妻のシリア・フロレス氏への電撃的な拘束作戦は、マドゥロ政権に対する長期間の圧力キャンペーンを経て実行された。
ここ数カ月、米軍はベネズエラ近海で麻薬密輸船とされる船舶十数隻への攻撃を実施し、この数十年で最大規模の艦隊を同地域に集結させていた。また米政権は、ベネズエラ国内での米中央情報局(CIA)の作戦や、同国を出港した石油タンカーの拿捕(だほ)も承認していた。
トランプ氏はマドゥロ氏が米国への麻薬密輸を行っていると非難しており、マドゥロ氏はこれを否定し、米国が「新たな永遠の戦争」を捏造(ねつぞう)し、ベネズエラの膨大な石油埋蔵量を盗もうとしていると主張していた。マドゥロ氏は5日、ニューヨークの法廷に姿を見せた。
マドゥロ氏拘束後、トランプ氏は米国が無期限でベネズエラを「運営」すると述べ、米国の石油会社が「国のための金を稼ぎ始めるだろう」と付け加えた。
ベネズエラでは5日、副大統領だったロドリゲス氏が暫定大統領に就任した。ロドリゲス氏は当初、マドゥロ氏の拘束を国際法違反として非難していたが、その後、米政府への協力を申し出ている。
国内外での波紋
カラカスへの空爆を含む今回の軍事作戦には、民主党議員や世界中の指導者たちから激しい反発が起きている。その多くは、明白な法律違反であるとの見解を示している。
コネティカット州選出のマーフィー上院議員(民主)はX(旧ツイッター)で、「彼は、米国民が求めてもおらず、われわれの安全保障とも無関係な、ベネズエラとの違法な戦争を始めている」と批判した。
「マドゥロ氏の不当な選挙は、大統領に議会承認なしで侵略する権限を与えるものでもなければ、国家安全保障上の正当性を生じさせるものでもない。その主張は滑稽(こっけい)だ」とマーフィー氏は述べた。
ブラジルのルラ大統領もXで「ベネズエラ領土への爆撃と同国の大統領の拘束は、越えてはならない一線を越えている」と懸念を表明した。
複数の法律専門家もトランプ氏の行動を明白な違法行為であり犯罪だと指摘している。
対照的に、多くの共和党議員は軍事作戦を称賛している。
アーカンソー州選出のコットン上院議員(共和)は、「ニコラス・マドゥロは単なる不当な独裁者ではなく、巨大な麻薬密売組織を運営していた。だからこそ彼は6年近く前に米裁判所に起訴されたのだ」とXに投稿。「トランプ大統領と、この素晴らしい作戦に従事した勇敢な軍部隊および法執行官を称賛する」と述べた。
5日、マドゥロ氏と妻のフロレス氏はマンハッタンの連邦地裁に初出廷し、無罪を主張した。失脚させられたこの指導者は判事に対し、「私は無実だ。私はまともな人間だ」と訴えた。
検察当局はマドゥロ氏を麻薬テロの共謀罪で、さらにマドゥロ氏とフロレス氏をコカイン輸入と所持の共謀と、マシンガンや破壊装置の所持および所持共謀の罪で起訴した。マドゥロ氏は2020年にも同様の罪で起訴されていた。