第250話 美雪の現実&おかえりなさい

―美雪視点―


 前に進むことが怖い。だから、私はずっと立ち止まっている。

 部屋に籠りきって、何もせずにただ震えるだけの日々。


 時間だけがゆっくりと流れていく。


 夕方。スマホが鳴った。

 律からだった。出ないわけにはいかない。

 でも、腕が動かなかった。一度、電話が切れる。少しだけホッとしてしまう。親友からの電話なら、なにもなければすぐに出たのに。今は、それもできなくなってしまっている。


 また、スマホが鳴った。律からだった。


「はい……天田です」

 覚悟を決めて、私は電話を出る。

 律は聞いたこともないくらい冷たい言葉であいさつもなく言った。


「やっとでた……」

 生気すら感じられない声だ。


「律?」

 私はすがるように声を出した。せめて、彼女だけには……そんな甘い幻想は簡単に打ち破られる。


「気安く名前を呼ばないで。全部、美雪のせい。学校を退学になるのも、全部全部、お前がいけないんだっ‼」

 彼女は聞いたこともないくらい怒った口調でまくし立てる。私が言い訳をすることすら許さずに。


「ごめ……」

 せめて謝ろうと思って言葉を絞り出すが、それすら怒声に阻まれる。


「なんで……なんで、だましたの。親友だと思っていたのに……美雪が助けて欲しいと思ったから、私は……全部、お前のせいだ。あんたなんかと友達にならなければよかった。そうすれば、私はこんなことに巻き込まれなかった。返してよ。返してよ。私の人生、あんたのせいでめちゃくちゃよ」

 電話の向こうで何かが割れる音がした。律は変わってしまった。全部、私のせいで。


「ごめんなさい」


「謝って許すわけがない。あんたのせいで、私は犯罪者。親友だと思っていたのに、どうしてだましたの‼ あんたは、何がしたかったのよ!」

 泣きながら「ごめんなさい」を繰り返す。それでも、律は許してはくれなかった。


「さようなら。美雪とはずっと親友だと思っていたけど、もう二度と会いたくも話したくもない」

 最後に燃え尽きたように冷たい無気力な声が余計に胸に突き刺さった。


 自分がどれだけ最低のことをしたのか、どれだけの人生を狂わせたのか。その重い事実を突きつけられた。もう、私は許されるわけがない。


 だからこそ……

 罪を受け入れなくてはいけない。律の言葉は、私に厳しい現実を突きつけてくれた。


 ※


―宇垣愛視点―


 センパイをキッチン青野に降ろして、私はお父さんと部屋に帰る。

 本来なら東京の家に向かうべきかもしれないが、この状況ではゆっくり話すことはできないだろう。だから、お父さんには私の部屋に来てくれるように頼んだ。


 ここにお父さんを招くのは初めてだ。

 なんだか、不思議な感じがする。


 私が部屋のカギを開いて、先に中に入る。

 これだけは譲れなかった。もしかしたら、私はずっとこの瞬間を夢見ていたのかもしれない。


「おかえりなさい、お父さん」

 それを聞いたお父さんは少しだけ驚いた表情になって、そして、すぐに表情を崩した。


「ただいま、愛。遅くなったな」

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