第249話 幸せへと続く道
俺たちは車に戻る。不安定な坂道だ。俺は彼女に手を差し出した。
「ありがとうございます」
こちらのエスコートに彼女は素直に受け入れてくれた。俺たちは無言でゆっくりと坂道を降りる。木々は鮮やかに色づいていた。
「こんなにきれいな場所だったんですね」
彼女はぽつりと漏らした。
「うん」
きっと彼女はこの美しい場所の美しさを確認できないほど、弱っていたんだと思う。大好きな家族がバラバラになっていき、それが自分を助けるために母が犠牲になったことが発端だと思えば、自分のことを許せなくなるはずだ。
俺は、あの屋上に彼女がやってきた理由を聞いていない。自殺のためとは聞いていたけど、それが家族関係に起因するものだとはうすうす感じていたが……
そして、彼女は必死に自分を維持しようと頑張った。言われなくてもわかる。愛さんの性格を考えれば、我慢して、どうにか自分を許せないか、父に受け入れてくれないか、そして、もう一度、家族になれないか考えて、ずっと傷ついていたんだと思う。
この華奢な身体で、どんなに重い責任のようなものを背負ったのか想像すると、こちらまで苦しくなる。
今回の件で、愛さんはたくさんのものを失ったはずだ。
だからこそ……
「今日からだね」
自分が言ってもいい言葉だろうか。言ってから少し怖くなる。
愛さんのほうをちらりと見ると、彼女は優しく笑っていた。
「そうですね。でも、不思議とこれからが不安じゃないんですよ」
そう言われて、愛さんに前に言われた言葉を思い出す。
※
「あの日の屋上で見ず知らずの後輩のために、ずぶ濡れになりながら、命を張って助けてくれたじゃないですか。自分の命すら投げ売る覚悟で。あんなところで、暴れる人間を止めようとしたら、自分まで落ちちゃうかもしれないのに」
「今回の件で、センパイはたくさんのものを失ったと思います。私が偉そうに言うことじゃないけど。でも、すべてじゃない。あなたを信じている人はいます。それを知って欲しかったんですよ」
※
たしか、林さんとの和解をセッティングしてくれた時だったと思う。
あの日の夕日に照らされた彼女は、言葉を失うほど美しかったなと思う。
そして、関係は変わった。あの時守られていたのは俺だった。でも、今は違う。俺たちはお互いのことを守っていくことができるようになった。
愛さんは、いつも以上に表情が柔らかくなっていた。
彼女はつぶやく。
「だって、センパイと一緒だから、もう十分に幸せですから」
そう言われるとこちらが照れてしまう。
これからもっと幸せにしてみせるよ。
そう心に覚悟を固める。その代わりに彼女の手を少しだけ力強く握る。
「帰りましょう。みんなのところへ……」
「うん」
みんなの中に、宇垣のおじさんがいることへの幸せをかみしめながら、俺たちは幸せへと続く道を一歩ずつ進んでいく。
――――
(作者)
来週からは、イチャイチャをメインにしつつ加害者たちのその後を描きます!
引き続きお楽しみください!
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