〈女子高生の映像に「琉球を中国に返して」と“ウソの字幕”が加えられ…SNSに蔓延する「中国産フェイク動画」の“あまりにも粗悪な実態”〉から続く
日本の女子高生が笑顔で語る動画に「琉球は中国の一部」という驚きの字幕が被せられる――。今、SNS上で急速に増殖している「沖縄フェイク動画」の数々。その出来栄えは、一見して偽物とわかるほど稚拙で、ターゲット層すら不明瞭なものばかりだ。
なぜ中国側はこうした「ゴミ動画」を量産し続けるのか。過去のプロパガンダ事例から浮かび上がる“身も蓋もない現場事情”とは?(全2回の2回目/最初から読む)
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なぜ低クオリティなのか中国側でフェイク動画を作っている主体が、具体的に誰なのか、中国のどの部門なのかを明確に断言することは困難だ。ただ、台湾側の複数のシンクタンク関係者からの聞き取りや、海外の安全保障関連のレポートや報道から得た情報を総合する限り、これらは中国側の省や市といった地方政府レベルでなされている可能性があるという。過去の類似した事例から考える限り、これは妥当な指摘だと考えていい。
たとえば、ちょっと古い話だが、ゼロ年代から2010年ごろにかけての中国国内のネット掲示板には、当局寄りの世論工作をおこなうネット工作員(網絡評論員。通称「五毛」)が存在した。彼らの多くが地方政府のプロパガンダ部門(市の党宣伝部など)と連携する機関によって雇用されていたことは、当時の中国国内の報道でも明らかにされている。
「五毛」という通称も、当時のプロパガンダのポスト1件あたりの報酬が0.5元(5毛銭。現在のレートで約10円)だったことでついた名称だ。その延長線上で、現在は海外に向けたプロパガンダのSNS投稿や動画のポストがなされていると想像するのは、さほど突飛な話ではない。
事実、現在の沖縄フェイク動画にしても、極めて低レベルな出来であることを考えれば、現場で制作しているのは「市」程度の資金・組織のもとで雇用された人員だと考えるのがもっともしっくりくる。あえて著者の地元の地名に置き換えれば、滋賀県大津市とか彦根市くらいの自治体(注.中国の場合は「市政府」)の外郭組織から格安バイトで雇われた、非熟練者のネットオペレーターの仕事、というイメージだ。
沖縄フェイク動画が、なぜか中国語のものばかりで、ターゲット層がさっぱりわからない……、という疑問も、発信者たちがこうした人たちだと考えれば氷解する。おそらく、彼らのターゲット層は沖縄の人たちではなく、さらに言えば中国の一般市民ですらない。本当のお客様は、「上」(正確には彼らを管理する役人のさらに上にいる偉い人)である。
「上」が成果物をチェックする際に、日本語の動画では「上」の人が読めない。なので、中国語の動画ばかりがつくられる。また、「上」はさらに上部に報告をおこなう都合上、動画の出来のよしあしという定量化しにくい要素よりも、客観的にわかる数字をほしがる。
すなわち、「沖縄県民の中国帰属感情を刺激するエモい動画を作りました」よりも「ゴミ動画を3時間で100本作りました」のほうが褒められる環境ではないか。そのように推理できる。実際に過去の「五毛」の仕事も、そうしたものだったのだ。
中国企業や大使館にも共通する要素その結果、実際に沖縄世論を動かすうえではまったく効果がない低クオリティ動画が、大量に生成されるという結果が生まれる。日本の若い女性のショート動画に「琉球の祖国は中国」字幕が重ねられがちな理由も、サムネイルをおっさんにするよりも若い女の子にしたほうがPVを稼げる可能性が高いからだろう。同じパターンや文言の動画が多いのも、そのほうが作るのが楽だからだ。
中国の組織における「上」への忖度やアピールは、ターゲット層に対する訴求効果よりもずっと大事なことがあるのだ。現場で働く人たちとしても、成果それ自体を上げることよりも、「上」に褒められるor機嫌を損ねないことのほうが、インセンティブが大きい。われわれ日本人の感覚としても、お役所やJTCを相手に仕事をした経験がある人なら納得できる話である。
ちなみにこうした傾向は、中国の他の組織でも観察できる。たとえば、日本に進出している中国企業の広告には、日本人の感覚からはしっくりこないキャッチフレーズが使われるケースがすくなくない。
私が聞いた話によると、現場の日本語ができる社員はもっとこなれた表現のキャッチフレーズ(ひらがなやカタカナ語が多い普通の日本語)を作れるのだが、中国語しかできない上司が読めないのでダメ出しをされる。その結果、漢字だらけの変な言葉になってしまうことがあるのだという。
また、昨年11月の高市総理の台湾有事発言以降、中国大使館のXアカウントが、一般の日本人がさっぱり読まないような政治的ポストを大量に流し続けているのだが(結果、それが逆に日本側でネットミームにされて遊ばれている)、こちらも似たようなお役所事情を想像できる。つまり、彼らの目的は日本人に中国のメッセージを伝えることそれ自体ではなく、「そういうポストをたくさんおこなった」という事実を「上」に示すことなのだ。
「膨大なゴミの山」の恐ろしさもちろん、相手の行動が粗雑であっても、完全に舐めてかかっていいという話ではない。過去、2023年6月の習近平の琉球発言から1年ほど、中国の関係各部門はいつもの忖度ムーブにはしり、さまざまな形で対沖縄工作を繰り広げた。
当時は(おそらく福建省の地方都市の党宣伝部あたりが出している)沖縄フェイク動画の流布のほかにも、外交部は駐日大使の沖縄訪問や駐福岡総領事の頻繁な沖縄もうでを実行。さらに福建省は党委員会トップの訪沖を実行。インテリジェンス部門は在沖縄華人を動かして沖縄県議などにアプローチをおこなった。
ほか、琉球独立派の人物を盛んに中国に招待したり、彼らを中国側の報道に登場させたり、学界で琉球・中国交流史やサンフランシスコ平和条約の無効論(=沖縄の地位未確定論)を研究させる動きも活発になった。
当時のこれらの動きは、各部門でヨコの連携がほとんどなく、またクオリティが低いものも多かったので効果も出なかった。最大の動機が、沖縄そのものへの働きかけではなく「上への忖度」にあったためだ。だが、とにかく膨大な工作が繰り広げられた。一連の行動が、おおむね2024年夏~秋ごろにある程度は沈静化したことも、すでに書いた通りだ。
しかし、過去の動きにおける膨大なトライ&エラーのうち、ある程度の効果があると認識された手法は、今回の高市台湾有事発言以降の中国の対日攻撃政策のなかで復活し、活用されている。すなわち党宣伝部傘下の英語メディア『チャイナ・デイリー』などを使った琉球独立派の主張の英語での発信や、沖縄の日本帰属に異議を唱える学説の流布といった動きだ(参考:時事通信「中国、対日カードに「琉球」 官製メディアが沖縄帰属に疑義」2025年11月21日配信)。
現場レベルでは行動のターゲット設定すら適当なまま、膨大なゴミの山をまずぶつける。そのなかで使えそうなものを選択し、次に使うときはより戦略的な活用を考えはじめる――。中国の動きは、おおむねそのように説明できるだろう。
現在、日本の女性のショート動画が粗雑なフェイクに用いられている現象は、そのなかの「ゴミ」の部分であり、それ自体については大した懸念はない。ただ、全体としてはやはり警戒を緩められない。結論としては、そんな話になりそうである。
(安田 峰俊)

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