女子高生の映像に「琉球を中国に返して」と“ウソの字幕”が加えられ…SNSに蔓延する「中国産フェイク動画」の“あまりにも粗悪な実態”
昨年12月26日、『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)で、日本のアイドルの動画に「琉球(沖縄)は中国」とする中国語字幕を重ねたフェイク動画が拡散されていることが紹介された。
【画像】意図せず「プロパガンダの道具」に利用された日本人女性たちの動画
番組中で取り上げられたのは、アイドルグループ「#ババババンビ」メンバーの岸みゆの被害だ。サンタ帽をかぶってクリスマスを楽しんでいるだけのTikTok動画が中国側のショート動画サイトに無断転載され、「琉球が早く(中国に)返還されてほしい」という字幕が書き込まれていることが確認された。番組では他にも、東京スカイツリーを背景に歩く日本人女性の動画にかぶせて「ここは美しい琉球です。祖国(=中国)に連れ戻してほしい」といった中国語の字幕が加えられた例も紹介されている。(全2回の1回目/続きを読む)
女子高生の動画が「プロパガンダの道具」に
同様の事例は、TikTokや中国のその他のショート動画プラットフォームで大量に見つかる。私自身が確認したところ、日本の(女子高生を含む)若い女性が日本語で化粧のノリやその日の気分といった他愛のない話をしている動画の下に、「琉球人民は、琉球は中国の一部であり、祖国への復帰を望んでいると語っている」といった趣旨の字幕を付けられているケースをいくつも見つけた。
沖縄とは無関係と思われる普通の日本人女性のTikTok動画が無断転載され、「琉球人の女性は祖国中国に帰りたい」といった字幕が付けられている実例。
それ以外にも、明らかにAIで生成された「琉球人民による祖国復帰を望む声」といった動画や、沖縄の伝統舞踊や辺野古基地の反対デモなどを背景に、同様の字幕を付けた動画も多数ある。中国語ほどの分量はないが、英語の字幕を付けたものもみられる。
私は中国による対沖縄工作について、2023年から継続的にウォッチしてきた。中国では同年6月、習近平が琉球史に関心を示す発言をおこなったことで、それから1年ほど、外交部・地方政府(福建省など)・各種のインテリジェンス部門などの各部門がこぞって対沖縄工作を熱心におこなったことがあるのだ。
この手のショート動画が増えたのもこの時期からだ。正確にいえば、その後2024年後半から昨年10月にかけてはちょっと下火になっていたのが、11月の高市早苗総理による台湾有事発言以降に、動きが復活した形である。
対台湾のプロパガンダとの類似性
もっとも、大部分の動画のクオリティは極めて粗雑だ。中国語のものが圧倒的に多く、当事者である沖縄の県民世論が、これらの動画を通じて「親中的」に変わるとは考えにくい。英語字幕にしても、そもそもこの手のショート動画を通じて沖縄の情報収集を活発におこなう英語圏の人はさして多くないと思われ、やはり実効性には疑問符がつく。
一見すると、誰向けの発信で、どういう効果を期待しているのかがさっぱり意味不明な代物ということだ。
実のところ、これと似たフェイク動画を用いた中国の工作は、過去に他国でも観察されている。それは台湾だ。私は2023年1~2月に2回、2024年1月にさらに1回、台湾で認知戦の取材をおこなったことがある。認知戦とは、人間の認知を誤らせるディスインフォメーション工作のことだ。
私が2024年1月にシンクタンクの「台湾AIラボ」に取材したところでは、「台湾は世界で最もディスインフォメーション工作にさらされている場所」である。同ラボによると、当時の蔡英文総統のフェイスブックページに寄せられるコメントの3分の1は中国発のニセ情報とのことだった。台湾のネット空間に盛んにコピペ爆撃されている怪しげな情報の根源は、なんとたった3つのアカウントに集約されるのだという。
もっとも、この時期に私が観察した認知戦の実物には、かなり粗雑なものが非常に多く含まれていた。たとえば2023年、蔡英文政権下で「インド人移民が大量に台湾へ流入し、その結果、婦女暴行や犯罪が激増する」といった扇動的な内容の動画が大量に流布されたのだが、用いられていた字幕は台湾の繁体字ではなく中国大陸の簡体字(注.台湾と中国では漢字の形が違う)。これを見て騙される台湾人が多いとは思えない。フェイスブックに書き込まれるコピペ爆撃についても同様の粗雑さだ。
もちろん、この取材以降にAIを用いた翻訳や動画生成の能力が飛躍的にアップしたので、近年の工作の精度は当時よりも向上しただろう。また、台湾は二大政党制のもとで社会分断が深刻な国なので、たとえ中国由来のデマであっても政治的党派性からシェアする人もおり、意外と効果が出る場合もあって……と、台湾特有の事情も存在したりする。
ただ、「中国の認知戦工作は量が膨大だが粗雑」「相手側に合わせたローカライズをする発想が乏しい」という特徴は、今回の沖縄に対するフェイク動画の氾濫と、共通する要素として指摘できる。
〈なぜ中国のプロパガンダは「低クオリティのゴミ動画」ばかりなのか? “沖縄は中国領土”フェイク動画の背景に潜む「身も蓋もない現場事情」〉へ続く
(安田 峰俊)