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月給40万円清掃員求人は詐欺じゃなかった、「安い日本」の落とし穴

ジャーナリスト、千葉大学客員教授
ファーウェイの松山湖キャンパス写真:ロイター/アフロ

X(旧Twitter)で「深圳ホテル清掃員月40万円求人に詐欺疑惑の声」というトレンドが話題です。

(日本企業が)大手求人サイトで深圳のVIP施設清掃員を募集。月給35万~40万円、社宅・渡航費支給、土日休みなどの好条件だが、現地清掃員の月収が6万円程度とされ、7~10倍の高給が不自然だと指摘されている。(…)外務省の詐欺警告パターンに一致すると警鐘を鳴らし、台湾・韓国での類似被害も挙げられている。会社は実在し許可もあるが、ビザ実態や口コミが少なく、応募前に警察や外務省確認を勧めている。

(2026/01/04 12時時点)

という内容。多くの人が昨年話題となった東南アジアの詐欺団地向けの勧誘なのではないかと警告しています。

これに対し、詐欺団地に関する取材を続けているルポライターの安田峰俊氏は、「「月給4〜50万」は詐欺園区の仕事なら安すぎ。ボーナスなかったら年収600万の給料を「売り」に求人はしないはず」と疑問を呈しました。

さらに、深圳に関する情報サイト「Shenzhen Fan」を運営する荒木大地氏も、「話題の求人案件はShenzhen Fanにも現在掲載中ですが、これは深圳市内の某企業施設の清掃コンシェルジュ以外の何物でもありません。この業務を請け負っている会社はきめ細かな「日本品質」のメンテナンスを売りにしているため雑な性格の中国人ではダメなので、わざわざ日本の体力ある若い人材を東京でトレーニングして深センに派遣しています」と説明。詐欺疑惑は解消したと言っていいのではないでしょうか。

ファーウェイは広東省深圳市に坂田キャンパス、広東省東莞市に第二本社となる松山湖キャンパスを構えています。特に松山湖キャンパスは日本の日建設計が設計した、ヨーロッパの街並みをモチーフとした美しい建築です。私も中に入れてもらったことがありますが、(確か)スイスから取り寄せたレトロな列車が走っていたりと、ハイテク企業オフィスとは思えない作りです。

坂田キャンパス、松山湖キャンパスともに華麗なレセプションホールがあります。中国庭園風、ヨーロッパの高級ホテル風、京都の町屋風など、いくつかバリエーションがあります。主に商談で使われるとのことで、日本企業関係者も中に入った人は多いはずです。

今回、募集されたのは高級レセプションホールの清掃スタッフでしょう。ファーウェイは日本から多くを学んでいます。工場を視察した時に聞いた話ですが、定期的にトヨタ生産方式の講師を招き、カイゼン活動を取り入れているのだとか。工場内の掲示物を見ると、QCサークルで改善提案を出した社員が表彰されていました。

特に清掃、メンテナンスにおける日本式の評価は高く、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取りあげられた新津春子さんを講師に招いています。

プロのお値段

わざわざ清掃員として日本人を招くほどの細部へのこだわり、それがファーウェイの強みなのでしょう。それにしても、「給料出し過ぎ!」でファーウェイが日本でバズったのは今回が2回目です。2017年にはファーウェイ・ジャパンが初任給40万円で新卒者を募集し、話題となりました。

今回も「中国現地の清掃員と比べたら高すぎ、怪しい」という反応が多かったわけですが、人材を得るにはそれだけのコストを支払う必要があるという判断なのではないでしょうか。

日本は「安い給料でもまじめに仕事をする……はず」という前提があるように感じます。高級ホテルのスタッフやハイブランドの店員であっても、より安い価格帯のブランドの従業員とさほど給料は変わりません。

どんな給料であっても、与えられた仕事はしっかりこなして当たり前。この日本の常識は世界の非常識ではないでしょうか。四六時中監視していなくても、手を抜かずに仕事するマジメ人材にはそれ相応のコストがかかるのが当然です。

給料が安くてもまじめに働くのが当然。この社会通念は日本社会の美徳であると同時に、「安くて高品質で、だから給料が上がらない日本」にもつながっているのではないでしょうか。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト、千葉大学客員教授

1976年生まれ。中国経済、中国企業、在日中国人社会などを中心に『月刊文藝春秋』『週刊東洋経済』『Wedge』『WWD JAPAN』などのメディアに寄稿。『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書、梶谷懐氏との共著)、『中国“コロナ封じ”の虚実―デジタル監視は14億人を統制できるか』(中央公論新社)、『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和との共編)など著作多数

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