菅野完氏の『文字ベース公開討論』のお申し出に対する回答

菅野完氏から公開討論のお申し込みをいただきました。

ありがとうございます。

文字ベースの公開討論も受け付けているとのことでしたので、当方としては、既に記載している記事に対する反論を求めました。

しかし、文字数を3,500字とする点に拘られておられましたので、本稿において、文字ベースでの公開討論に応じることといたします。

なお、商業雑誌への掲載を前提とするものではありませんので、本文は原稿用紙換算ではなく、全角3,500字以内の文章として記載します。

当方としては商業雑誌への掲載は不要であり、こちらに記載する本文に対して、反論をいただければと考えております。

本文の内容は、既に提示しているnote記事において整理した主張を、公開討論用に再掲したものであり、太文字や外部リンク、画像等の装飾は全て省いています。

それでは、斎藤知事が公益通報者保護法違反であるという主張について、以下の本文に対する論理的な反論をお待ちしております。


はじめに

 先日当方は、消費者庁への電話相談において、「(3号通報は)体制整備義務を負うことにはなっておりません」との回答を得た。

 この回答を前提とすれば、3号通報について体制整備義務は存在せず、斎藤知事が体制整備義務違反となる余地はない。つまり、この点だけをもってしても、斎藤知事が体制整備義務違反に該当する余地はない。

 また、その後の処分についても、本件文書提供が仮に3号通報該当性を有するとして検討したとしても、公益通報者保護法上の保護要件を満たさない。

 3号通報の保護要件としては、通報対象事実の真実相当性が求められる。真実相当性の立証責任は通報者にあり、元県民局長は二〇二四年三月二十五日の時点で「当該文書は噂話を集めて作成した」と説明している。その後、合計六回に及ぶ事情聴取においても、この説明は一貫して変わらなかった。

 このことから、元県民局長が真実相当性の立証責任を果たしていないことは明らかであり、処分が公益通報者保護法違反として違法と評価される余地はない。

 つまり、斎藤知事による初動の文書作成者特定も、その後に行われた処分も、いずれについても公益通報者保護法違反には当たらないという結論になる。詳細については、「兵庫県文書問題遂に完結:斎藤知事は冤罪 ― 「公益通報者保護法違反」の主張が法的に成立しない理由」という別の記事で整理している。

 ところが、兵庫県を巡る一連の議論では、「3号通報にも体制整備義務がある」「したがって斎藤知事は体制整備義務違反である」という主張がなされている。

 しかし、この主張は論理の組み立て自体が誤っている。なぜなら、本来検討されるべきなのは、「3号通報に体制整備義務があるか否か」という点ではなく、斎藤知事の行為が、そもそも「体制整備義務違反」という法的評価の対象になり得るのかという、より根本的な問題だからである。

 結論から言えば、体制整備義務の有無を論じる以前に、斎藤知事の行為は体制整備義務違反という法的評価の対象にはならない。以下、その理由を順に整理する。

一 公益通報とは「文書」ではなく「行為」である

 最も基本的で、しかし最も軽視されている点がある。公益通報者保護法が規定している公益通報とは「通報行為」であって、文書そのものではない。

 公益通報者保護法は、「公益通報」を、「労働者等」が、「通報対象事実」について、「一定の通報先」に、「通報する行為」と定義している。

 すなわち、公益通報とは「誰が」「何について」「どこに」「どのように通報したか」という一連の行為であり、紙媒体であれPDFであれ、あるいは匿名文書であれ、文書そのものが公益通報になることはあり得ない。

 したがって、「三月の文書は公益通報文書である」といった言説は、公益通報者保護法の定義を根本から取り違えていると言わざるを得ない。公益通報者保護法が保護の対象としているのは、文書ではなく、一定の要件を満たした通報行為そのものである。

二 市中に出回った匿名文書の提供は、公益通報ではない

 本件で斎藤知事が受け取ったのは、匿名で、市中に出回っていた、実名で職員や企業を名指しし、虚偽内容を含む誹謗中傷性のある文書を、一般人から「こういったものが出回りはじめてます」と渡されたという事実にすぎない。

 これは、公益通報者保護法にいう公益通報の「受領」には該当しない。なぜなら、公益通報者保護法が想定しているのは、通報者本人が、一定の通報先に対して、通報対象事実を通報する行為であり、すでに市中に流布している文書を、第三者から受け取る行為は、その構成要件をいずれも満たさないからである。

 市中に流布している文書を第三者から受け取った行為を、公益通報の受領と評価することは、条文上も、制度趣旨上も不可能である。

三 元局長のマスコミへの配布行為が三号通報に該当するとしても、知事の行為とは無関係

 仮に、元県民局長がマスコミに文書を送付したこと、その行為が形式上、公益通報者保護法にいう三号通報に該当し得ることを前提に置いたとしても、それは斎藤知事が一般人から文書を受け取った行為とは、法的に全く別次元の事象である。

 公益通報者保護法が問題にするのは、公益通報を受けた事業者が、当該通報者を特定する行為である。

 ところが本件において斎藤知事は、通報者本人から通報を受けていない。当該文書を公益通報であると認識して受領していない。以上のとおり、体制整備義務や、いわゆる「公益通報者探索行為」を規制する法的枠組みが及ぶ前提自体が存在しない。

 実際、斎藤知事が一般人から受け取った文書については、現在に至るまで出所不明であり、元県民局長が自らネット上に拡散した可能性、第三者に渡した可能性なども含め、その流通経路は確定していない。

 そのような出所不明の文書と、仮にマスコミに送付された文書とが結果的に同一内容であったとしても、それだけで、斎藤知事が受け取った文書提供行為を「三号通報として取り扱わなければならない」とする法的根拠は存在しない。

 仮にこのような理屈が成り立つとすれば、内部の労働者がマスコミに文書を提供し、その文書がネット上にも拡散された場合、形式上は三号通報に該当することを理由に、ネット上で当該文書を発見した事業者は、作成者を一切特定してはならないという結論になる。

 これは事実上、「怪文書をばら撒いても、マスコミにさえ送っておけば、公益通報として保護される」という制度設計を意味する。しかし、公益通報者保護法はそのような建付けにはなっていない。

 市中に出回った出所不明文書の作成者を特定する行為が、通報者探索という違法行為になるとする条文上の根拠も、制度趣旨上の根拠も存在しない。

四 虚偽・誹謗中傷文書の作成者特定は、正当な管理行為である

 問題となっている文書は、一般職員や民間企業を実名で名指しし、虚偽の内容を含み、誹謗中傷性が極めて高く、出所不明であり、拡散経路も不明である。作成者自身が拡散した可能性も否定されていない。

 このような文書について、作成経緯や記載内容の事実関係を確認することは、組織の管理者として合理性を欠くどころか、むしろ必要不可欠な対応である。

 特に、職員や関係企業が実名で名指しされ、虚偽情報や誹謗中傷が含まれる文書が流布している状況において、管理者がこれを放置すれば、職員に対する名誉侵害、関係企業への信用低下、職場環境の悪化を招くことは明らかであり、安全配慮義務の観点からも、対応を取ることが求められる立場にある。

 したがって、このような文書の作成者や流通経路を調査する行為を、「公益通報者の探索」などと評価することはできない。

 それにもかかわらず、本件対応をもって、「公益通報者の探索だ」「公益通報者保護法違反だ」と断じるのは、公益通報者保護法を虚偽・誹謗中傷文書の責任追及を免れるための免罪符のように誤用しているにすぎない。

 この点について、斎藤知事自身も、二〇二四年八月七日の会見において、文書の内容が実名で多くの職員や企業を名指しし、真実と足りる相当な理由としての供述や根拠が記されていなかったこと、放置すれば県庁のみならず関係企業に大きな不利益が生じる可能性があったことを挙げ、調査を行う判断は正しかったとの認識を示している。

五 消費者庁の見解とも整合する

 この点については、消費者庁の見解も明確である。

 消費者庁は、「三号通報を受けた者から通報内容を聞いた者は、当該内容を公益通報として扱わなければならないのか」という問いに対し、「公益通報だとして聞いたのであれば、公益通報として扱わなければならないが、公益通報であることを聞かなかったのであれば、当該内容が公益通報だと知らないことになるので、配慮はできないと思われる」と説明している。

 この見解が示しているのは、三号通報という「事業者外部への通報」を前提とする場面において、通報者本人から直接通報を受けていない第三者については、公益通報としての配慮義務が発生するのは、当該内容を「公益通報であると認識して聞いた場合」に限られるという、極めて当然の法理である。

 本件において斎藤知事は、一般人から文書を受け取ったにすぎず、それを公益通報として聞いておらず、通報者本人からも直接通報を受けていない。

 以上の事情から、三号通報を前提とする公益通報としての配慮義務が発生する余地はない。したがって、本件において斎藤知事の行為を、公益通報者保護法上の義務違反として評価することはできない。

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