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阪神タイガースでもあった『世紀のトレード』 「小山を捨て、村山を取った」…やっぱり“恨み”はあったのか!? 当事者の本音

2025年5月19日 08時52分

小山正明さん

小山正明さん

◇コラム「田所龍一の『虎カルテ』」
 今週一番驚いたのはやはり、巨人とソフトバンクの《電撃トレード》である。5月6日の阪神戦(東京ドーム)で主砲・岡本和真内野手が左ひじ靭帯を損傷し全治3か月の重傷。右の大砲が不在となった巨人がソフトバンクの《未完の大器》砂川リチャード内野手(25)獲得に動いた。
 交換要員は松井秀喜選手の背番号「55」を受け継ぎ、「将来の大砲候補」と言われていた秋広優人内野手(22)と左腕の大江龍聖投手(26)。両球団にとってプラスになるトレードだったのだろうか。ある評論家はこう評価した。 
 「プラスになるかならないかは、これからの3人の活躍次第。リチャードも秋広もこれまで何年もチャンスをもらいながらつかみ切れていなかったし、2人にとって《最後のチャンス》になるかもしれない。球団にとっても期待期限の限界に近づいていたからね」
 リチャードといえば王貞治取締役会長の《秘蔵っ子》。「ボールを遠くへ飛ばすのは技術ではない。天性の素質。彼にはそれがある」と徹底的に個人指導を続けた。2軍に落ちた時も何度もファームの練習に出向き、手取り足取り…。それほどまでの選手のトレードを王会長がよくOKしたものだ。
「最後まで王さんは反対したと聞いている」
―ではなぜ?
 「だから交換要員に秋広なんだよ。王さんと同じ左打者。遠くに飛ばす天性の素質もある。リチャードでは花開かなかったが、秋広なら王さんの打撃理論と合うかもしれない」
 球界にはもう『王さんに与えられた次のオモチャ』なんていう陰口も聞こえ始めている。
 「そんな声を跳ね返すためにも、2人には頑張ってほしいね。成功すればいつか《世紀の大トレード》と称賛され日が来るかもしれない」
 世紀の大トレードかぁ…。阪神タイガースにもかつてそう呼ばれたトレードがあった。それは今年の4月18日に90歳で亡くなった阪神の大投手・小山正明氏(当時29歳)と大毎(後の東京ロッテ)のスラッガー・山内一弘氏(同31歳)とのトレードである。
 1963(昭和38)年オフというから、筆者はまだ7歳である。12月26日に成立し、その日のうちに大阪・梅田の阪神電鉄本社で両軍の首脳陣、両選手同席で記者発表された。
 投手力を強化し守りの野球を進めたい大毎と打線の弱かった当時の阪神。両球団の思惑が一致したトレードだった。だが、その裏では「阪神は小山を捨て、村山を取った」と言われた。小山氏より2歳年下の村山実投手が台頭。阪神には昔から《両雄並び立たず》の風潮があり、球団とそりの合わなかった小山が放出された―というのだ。
 《放出》―いやな言葉である。「追い出した」「捨てた」のイメージが強く、「不満」や「恨み」がついて回る。きっと小山氏も阪神球団に対する大きな恨みを背負って出て行ったのだろう―と思っていた。それから19年後の1982(昭和57)年、安藤統男監督のもとで投手コーチとして縦じまのユニホームを着た小山氏に、当時の心境を質問することができた。
 「11年もおった球団やからな、寂しさはあったな」
―やっぱり恨んだですか?
 「恨みはせん。実はな、当時のワシは自分の投手寿命を《あと3年》と決めていたんや。その間に200勝したいと…」
 当時の小山投手は174勝。200勝まであと26勝。
 「それを達成したら引退してアパート経営をやるつもりやった。あと3年―条件がよければどの球団でも行くつもりやった。トレードとは、整理されるんやなく、相手チームのウイークポイントを埋めにいくもの。胸を張って行ったよ」
 大投手の言葉に感激したのを覚えている。
 小山氏は大毎に移籍した1年目(1964年=昭和39年)、30勝12敗の成績で「200勝」を達成、パ・リーグの「最多勝利投手」のタイトルも獲得。3年で引退どころか、東京ロッテで9年、大洋で野球を続け、通算320勝(232敗)の素晴らしい成績を残した。そして阪神に移籍した山内氏もその年の開幕当初は不振で苦しんだものの、打率・257、31本塁打、94打点でその年のリーグ優勝に貢献した。
 世紀の大トレードかぁ…。リチャード、秋広、大江3選手には頑張ってほしい。あす5月20日から阪神―巨人の3連戦。リチャード、甲子園参上! 楽しみだ。
 ▼田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956(昭和31)年3月6日生まれ、大阪府池田市出身の69歳。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒。79年にサンケイスポーツ入社。同年12月から虎番記者に。85年の「日本一」など10年にわたって担当。その後、産経新聞社運動部長、京都、中部総局長など歴任。産経新聞夕刊で『虎番疾風録』『勇者の物語』『小林繁伝』を執筆。
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