第217話 娘との食事会
―宇垣視点―
娘とはほとんど会話らしい会話もなく、黙々と食事を続ける。
いや、会えただけでいい。会えただけで、私は死地に向かう覚悟を決めることができた。妻の好物だった漁師風の
あの幸せだったころに、できることなら帰りたい。家族三人が笑顔で、優しい理解者である親友も健在だったあの頃に。
だが、もう遅い。すべては失われてしまった。
かくなる上は、復讐をはたすだけだ。
最も、ここでことを起こすつもりはなかった。親友の忘れ形見がよりにもよって近藤議員の息子によって、悪質ないじめを受けていたと知って、以前から考えていた計画を準備が整う前に動かすしかなかった。
たとえ、総理陣営との全面戦争になろうとも、ここで近藤たちを再起不能に追い込む必要性があったからだ。総理からの命令は、「近藤はどうなってもいいから、スキャンダルを早期解決しろ」というものだった。だが、この国の最高権力者の思惑を外れて、この問題は延焼し政権の土台を揺さぶり続けている。近藤家をそのままにしておけば、青野家に復讐される恐れがあった。だから、徹底的にたたいておかなければいけなかったんだ。たとえ、それが総理の思惑に反することであっても。
ここで、すでにあの男は気づいているだろう。「どこかに裏切り者が潜んでいる」と。そして、その裏切り者の最有力者は、私だ。この事件のネタを裏でマスコミに提供し、延焼を長引かせている。
まだ、政権とは水面下で対立を深めているだけだが、そろそろ対立は表面化するはずだ。もう、後には引けないところまで来ている。だが、愛に危害を加えられる心配はほとんどないだろう。永田町では、私と娘の不和の噂は流れている。敵陣営としても利用価値がないと判断されるはずだ。
ある意味、キッチン青野がこちらのアキレス腱だったが、今回の騒動でメディアの目が青野家に関心を寄せ続けている。つまり、いくら権力者でも簡単には手は出せなくなっている。
大事な人たちは、これで安全だ。決戦を行うのには、最適な環境が作り上げられていた。
この食事は、自分の覚悟を固めて、次に動き出すために必要なものだった。
ここから、私の復讐劇は、動き始める。たとえ、刺し違える形となっても、許しはしない。
※
―一条愛視点―
食事を終えて、父を見送る。
センパイとのことを説明しようかと思ったけど、どうしても前に進めなかった。
父は知っているはずなのに、あえて、何も言わなかった。これは、許されているのか。それとも、泳がされているだけか。
「お嬢様、どちらかに寄って行きますか?」
遠くなった父の背中を見つめた後、黒井にそう聞かれたので、「キッチン青野に行きたい」と告げる。
私は、先輩に会いたかった。
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