【レポート】松本幸四郎さん、市川染五郎さん登壇!シネマ歌舞伎《歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼》公開記念
シネマ歌舞伎最新作《歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼》(幸四郎版)の公開を記念した舞台挨拶付き上映会が、1月10日(土)、東劇(東京・中央区)にて開催されました。1月2日(金)より幸四郎版が公開中です。また1月23日(金)より松也版が、東劇・新宿ピカデリーほか全国の劇場にて公開予定です
いつとも知れぬ戦乱の世。深い朧の森で魔物と出会った一人の男・ライ。シェイクスピアの『リチャード三世』『マクベス』に着想を得た本作は、「嘘」を意味する名を持つ男が、欲望のままに人を欺き、王座を狙い、やがて破滅へと向かう姿を描くダークファンタジーです。
舞台挨拶ではライを演じた松本幸四郎さん(53)と、シュテンを演じた市川染五郎さん(20)が登壇し、息のあった親子トークで作品への想いを語りました。(ライター・山本まりこ)
衣装協力 ONtheCORNER
染五郎さん/ヘアメイク・桂川あずさ、スタイリスト・中西ナオ
衣装・スタイリスト私物
“赤”に宿る嘘と美――役をまとって登場した二人
冒頭から、幸四郎さんはライの悪役イメージを崩さない、いたずら心あふれるトークを展開。「今日は、鬼平犯科帳<兇剣>をご覧いただきありがとうございました…」と、同日(1月10日)より配信がスタートした人気シリーズと勘違いしたようなおどけた発言をすると、すかさず染五郎さんが「今日は《朧の森に棲む鬼》の方の“鬼”です」と冷静に訂正し、会場の笑いを誘いました。
赤を基調にしたスタイリッシュな装いで登場したお二人。その姿は、ライの真っ赤な嘘や、血の色に染まる刀の鋭さを連想させる、クールで印象的なものでした。
幸四郎さんは「一昨日、還暦になったばかりですから…」(会場拍手)と切り出し、すぐに「違いますよ。本当は42歳です。」と続けるなど、名に「嘘」の意を持つライを彷彿とさせるジョークを披露。幸四郎さんは1月8日に53歳の誕生日を迎えられたばかりです。
染五郎さんは、シュテンをイメージした紫のアイシャドウに、顎には縦に白いラインを入れた舞台さながらのメイクで登場し、会場を沸かせました。
シネマ歌舞伎への思い―― 消えゆく舞台を、スクリーンに刻む
・松本幸四郎さん
「シネマ歌舞伎は、舞台を単に録画してそのまま上映しているものではありません。舞台を素材にした“新たな作品”として、この大スクリーンで楽しんでいただけるように仕上げています。」「シネマ歌舞伎としては過去最大と言えるほど座席をつぶし、そこにカメラを入れて撮影しました。」「歌舞伎の舞台は、その場限りで消えてしまうものですが、シネマ歌舞伎として“残る舞台”がここに生まれたという思いで、ありがたく感じております。」
・市川染五郎さん
「歌舞伎NEXTは、歌舞伎の新たなジャンルの一つだと思っています。シネマ歌舞伎では、そこへ映像作品ならではの演出や表現が加わりました。生まれ変わった《朧》として、再び皆様にお届けできることをとても嬉しく思っております。」
17年ぶりに立ち返る《朧》―― “根っからの悪”としてのライ
2007年の《朧の森に棲む鬼》初演時にもライを演じ、歌舞伎NEXTとして17年ぶりに同役を務めた幸四郎さんは次のように語ります。
「劇団☆新感線の初演は、中島かずきさんの書き下ろしでしたので、特別な思いを持って臨んだ作品でした。」「今回は松也さんとのダブルキャストでの挑戦でしたので、もう一度、新たに《朧》を作り上げるという気持ちでした。松也さんは初演時に、客席でご覧になっていたそうです。“あの《朧の森》”との、お客様や共演者からの期待が嬉しくもあり、プレッシャーでもありました。」
「劇団☆新感線で演じていた頃から変わりませんが、ライは<悪>になったのではなく、根っからの<悪>と捉えて役作りをしました。ブレーキのない車に乗って、自分でもコントロールできないような感覚で昇りつめて落ちてゆくというライだったように思います。」
親子で巡る《朧》の時間―― 憧れから現実へ
幸四郎さんは「初演時、大晦日のカウントダウン公演を新橋演舞場に観に来ていたのが、当時1歳だった染五郎です。舞台から客席に彼の姿が見えて、『連れてきて、連れてきて』と舞台に誘ったのですが、彼は“私が最初に舞台に上がるのはこれじゃない”とばかりに泣き叫んでいました(笑)」と当時を振り返ります。
一方、染五郎さんは「その時のことは覚えていません」としつつも、「《朧》は、2、3歳の頃から何度も映像で観てきた作品です。一人のファンとして、あのセリフやこの世界観の中に、まさか自分が立つことになるとは思いもせず、今でも信じられない気持ちです。」
「ライという存在には、幼い頃から憧れがありました。ライは、私が悪役を好きになるきっかけとなった役でもあります。もし次に機会をいただけるのであれば、ぜひ挑戦してみたいです。」と語りました。
幸四郎と染五郎、互いの役を語る
・染五郎さんから見たライ(幸四郎)
「段階的に悪に染まってゆくという過程はありますが、牢屋のシーンでのライが最も恐ろしく印象的でした。王になって、より重厚感のある<悪>が開花したシーンだったように思います。初演版を見た時から思っていたことですが、一緒の舞台に立った時も、あそこは本当に怖かったです。少しでも動いたら、殺されそうな恐怖を感じていました。」
・幸四郎さんから見たシュテン(染五郎)
「まず初演から大きく変わったところはシュテンが女性から男性になった点でしたが、今の染五郎を十分に生かせる演出だったと思います。ライからすると小さな存在ながら、国のトップに立っている男の覚悟やプライドというものが出ていました。」
「染五郎としては、立廻り(タテ)に大きな希望が持てると感じましたので、(悪役ライを演じた身としても)その能力を今後十分に発揮するところをみてみたいです。」
“かたつむり”の修練と、ハムレットへの挑戦
今年の抱負について、幸四郎さんは、「2026年は“かたつむり”のように籠もって、徹底的に歌舞伎を勉強しようと思っています。“かたつむり”は八世・竹本綱太夫さんのご著書『でんでん虫』『かたつむり』を意識していますが、それほど“芸の虫”だった方の姿勢に倣いたいと思っています。“おぉ、これを演じるのか”と思っていただける役の発表も控えていますので、ぜひ楽しみにしていてください」と語りました。
染五郎さんは、「決まっているものとして、5月・6月に《ハムレット》を演じます。東京・大阪・愛知と公演が続きますので、ぜひ多くの方に観に来ていただきたいです」と話し、同役を何度も演じてきた幸四郎さんも「人間のすべての部分を出せる役ですので、ぜひ楽しんでいただきたいですし、私自身もとても楽しみにしています」と続けました。
何度でも楽しめるシネマ歌舞伎の世界
・市川染五郎さん
「何度ご覧になっても、発見がある作品です。」「シュテンは紫のラメが入ったネイルをしていたのですが、その上に緑で一本一本違う模様を描いていました。舞台では分からないような細かい部分もアップで見られるところがありますので、ぜひ探してみてください。」「父と松也の兄さんのヴァージョンとぜひ両方見比べて頂きたいです。」
・松本幸四郎さん
「役作りの違いというだけでなく、松也さんヴァージョンは編集も違い全く印象が違いました。いのうえさん(演出家)もおっしゃっていましたが、この作品は、演じる人によって全く違う印象になる、とても太くて深い作品です。それは歌舞伎にも共通するところだと思います。また再演して欲しいですし、色んな方に演じて頂きたいという想いもあります。」
「ネイルの模様を見つけられるまで、ぜひ皆様、劇場に足を運んでください(笑)」
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