ロジカルシンキングの一歩先へ。社会科学方法論
みなさん、ロジカルシンキングしてますか?
論理的に考えろ、ということですよね。ロジカルシンキングに関しては、たくさんの書籍が出ており、日常生活やビジネスで広く使われていると思います。
しかし、ロジカルシンキングさえあれば十分だと思っていませんか?論理的に正しければあなたの考えは完璧だと思っていませんか?
残念ですが、論理的に正しいだけでは不十分なことが多いです。
あるいは人の話を聞いていたり、記事を読んでいたりして、ストーリーに納得したり、着眼点に感銘を受けたり、突飛なもの同士の繋げ方などに驚いたりしていませんか?
こういった点が加点ポイントとなるものもあります(エッセイとか)が、ビジネスや日常生活で「何かを知る」「依頼に答える」といった時には全く必要ありません。
本記事では、ロジカルシンキングに追加して知ってほしい思考ツール、「社会科学方法論」を紹介します。
この記事を読み、なぜロジカルシンキングだけでは不十分なのか、またロジカルシンキングに加えて、どういう要素が必要なのかを知っていただけると嬉しいです。
ロジカルシンキングや地頭といった能力ばかりが過度にもてはやされていますが、そういう能力ないんだよなー、と悩んでいる方にこそ、ぜひ社会科学方法論を知っていただきたいです。
また、これまで、いかなるトピックにも、ご自身のロジカルシンキングや地頭、あるいは納得感のあるストーリー構築力で乗り切ってこられてきた方にも、ぜひ読んでいただき、もともとのそういったスキルに追加するべき点を知っていただきたいです。
1万5千字ほどになっているので、「後で」という方は、いいねなどを押してブックマーク化して、後で戻って来てください。お願いします!読む前のSNSでのシェアも大歓迎です。
社会科学方法論とは、社会科学分野で広く使われている方法論で、以下の5つのステップで構成されます。
1.問い
2.先行研究
3.概念化、操作化、手法・調査対象の決定
4.データ・観察
5.分析・考察
社会科学:社会や社会を構成する要素(人、地域、学校など)について研究する学問分野。経済学、政治学、法学、社会学、歴史学、心理学、地理学などが含まれる。
「社会科学方法論が社会に根付いてほしい」「絶対に役に立つはず」
という熱量で書いていますので、少なくとも次の章『0.なぜ社会科学方法論か?』までは読んでいってもらえると嬉しいです。
(追記)
2025年8月29日:仮説と実践編の章を追加
0.なぜ社会科学方法論か?
ロジカルシンキング偏重
筆者は、少子化を専門とする研究者です。日頃「少子化」関連のワードが入った記事やポストを探して読んでいるのですが、誤った情報や「私が考えた」少子化論が多いことに驚きます。
なぜ専門家でもない人が、自分で考えて、少子化論を展開しようと思えるのでしょうか?
これはひとえにロジカルシンキング=論理的であることへの偏重だと考えています。論理的でありさえすれば、専門的知識はなくとも解が導きだせると思い込んでいるのです。A=B、B=C、ゆえにA=Cのように。
自分で考えること自体を否定しているわけではないですし、いろんな方が少子化を考えてくださるのは課題としての注目度の高さを表しているとポジティブに考えています。
しかし、論理的だけでは足りないのです。
ここには「専門性」(あるいは先行研究)への軽視という問題も関わってきます。専門的トレーニングを積んだ人が書いた本・論文を参考にしたり、あるいはそういった人に聞く・頼むよりも、自分で論理的に考えれば、同じ解(あるいはより優れた解、あるいは新しい解)が導ける、と思い込んでいるわけです。
実は論理的であること、は何かに取り組む際のベースであり必要十分でありません。本記事では、論理的であること=ロジカルシンキングに加えて、社会科学方法論という思考ツールをみなさんに提案したいです。
生成AI時代
こうしたロジカルシンキング偏重、あるいは専門性軽視という兆候は生成AIの発展によって加速しそうです。生成AIは論理構築を助けてくれるし、専門性を持ってなくともあなたの質問になんでも最適解を提案してくれるからです。
社会科学方法論はみなさんにとって全く新しいものではありません。
大学で卒業論文を書いた人は(明示的でなくとも)、この5つのステップに則って論文を書いたはずです。
またビジネス書では、各プロセスは単体で扱われてきました。例えば、
などです。
みなさんがビジネスにおいて、別々に扱ってきた各ステップを統合する必要があります。それこそが社会科学方法論になります。
生成AI時代には、社会科学方法論の初めの「問い」以外の各ステップは、生成AIがいい仕事をしてくれるはずです。
もう少しすると、あるいは今でもうまい使い方をすれば、筋の良い「問い」を生成AIが考えてくれるかもしれません。
しかし、生成AIが(まだ)できないことは、これらの各ステップを統合すること、つまりそれぞれの「問い」に対して適切な社会科学方法論を総合的に適用することだと思います。
逆にいうと、これから生成AIを使って、各ステップを「それっぽく」仕上げてくる人・仕上げられる仕事が増えるでしょう。実際、現時点ですでにかなりなされているはずです。こうした状況で、どの仕事が適切になされているのか判断するためにも、この社会科学方法論は効果を発揮します。
つまり、自分が「問い」を深掘り・遂行する際にも、また人が行ったものを適切にチェックする際にも、この社会科学方法論は役に立ちます。
本記事で、研究といったとき、学術研究だけでなく、あなたの「アイデア」「疑問」「上司や他社からの依頼」に対して何らかの「結論」を導くまでのプロセスを「研究」と呼ぶことにします。
それでは以下で、社会科学方法論のそれぞれのステップについて詳しく説明していきます。
ここまで読んで、面白そうだけど後で、と思ってくださった方!本記事に「スキ」やSNSでのシェアなどをしてブックマーク化お願いします。みなさまの反応で、社会科学方法論がどのくらい受け入れられているかがわかり嬉しいです。
自己紹介
スペインの大学で少子化を専門に研究しています。少子化について研究するだけでなく、少子化課題の改善につながるアクションにも力を入れていて、企業や自治体に協力いただき活動しています。
詳しい自己紹介はこちら👇
1.問い
「問い」というと堅苦しいですが、日常ですと、アイデアや仕事依頼と置き換えてもいいかと思います。〇〇って何だろう?〇〇を調べてほしい、というものですね。
社会科学の目的は大きく分けて3つあります。
探索(Exploration):まだ研究されていないトピックや事象を研究すること。比較的新しい事象に用いられます。例えば、マッチングアプリが出始めたときに、マッチングアプリを使っている人について研究する、ことがこの「探索」的研究に当てはまります。
記述(Description):ある事象を正確に、詳細に記述すること。例えば、日本の失業率に関心があるとします。日本の失業率の、時系列推移、年齢別、性別、学歴別など、目的に応じて様々なデータを用いて記述することを目指します。
説明(Explanation):XとYの関係、Yがなぜ起きているのか、について説明すること。例えば、年収と結婚について、データを用いて分析し説明することを目指します。
あなたのアイデアや受けた依頼が、上の3つのどれに当てはまるかを理解しておくのは重要です。
2.先行研究
先行研究とは、既に発表された研究から、
どういうデータを使い、
どういう手法で、
どのような結果が得られたのか
また、どういう内容はわかっていないのか
を知ることです。重要なのは、これらの情報を「信頼できる」研究(ソース)から得ることです。
学術研究においては、学術雑誌に載っている論文が信頼できるソースになります。そのため、一般書籍を用いることはほぼありません。
みなさんのお仕事ですと、過去の類似業務の成功・失敗事例が先行研究になりえるでしょう。
研究者でない方が、学術論文を読むことはあまりないとは思うのですが、生成AI時代だからこそ、ぜひ学術論文を読んでみてください。生成AIのサポートがあれば、簡単に読めると思います。特に一般の方が仕事で扱うような問いは、社会科学的なものが多いはずですので、自然科学の論文に比べて簡単に読めるはずです。
(余談1)
学術雑誌とは、各学術分野で刊行されている雑誌です。多分、研究者ではない人は目にすることはないと思います。残念ながら。
多くの学術雑誌は、査読という機能を持っています。査読とは、雑誌のエディターに選ばれた数人のレビュアーが、投稿された論文を審査する仕組みです。審査の結果は、若干の修正で出版決定の「アクセプト」、レビュアーのコメントを基に論文を修正して再投稿する「リバイズ&リサブミット」、却下される「リジェクト」という3つがあります。審査する側も、される側も、誰が審査しているのか、誰が書いた論文なのか知らせれずに、この査読というプロセスを経ます。
一回で、即「アクセプト」をもらえることはほぼないので、よくて「リバイズ&リサブミット」になります。この修正して再投稿するプロセスをレビュアーが満足するまで繰り返し、アクセプトされると晴れて論文が雑誌に載ることが決まります。
この査読という機能自体に賛否両論あり、査読を経ても質の低い論文や間違っている論文もあるにはあるのですが、一つの信頼基準として機能していると思います。
学術論文を探すには、グーグルスカラーを使ってください。
普通の検索エンジンと同じで、検索スペースに、検索したいキーワードを入れます。
例えば、「学歴(education)」と「出生(fertility)」に関する論文を調べてみます。
このキーワードに関連した学術論文がずらーっと出てきます(3,230,000件がヒット)。そのうち、一番最初のものを切り取り、この論文の情報をどう見るのか説明します。
タイトル:Women's education and fertility: results from 26 Demographic and Health Surveys
著者:TC Martin
雑誌名:Studies in family planning
出版年:1995
他の論文や書籍がこの論文を引用している数:767(Cited by 767)
最初は勘所がつかめず、あまりいい論文に出会えないかもしれません。がんばって最低10〜20本くらいは読んでみてください。すると、だいたいそのトピックについての研究知見の概要はわかってくるはずです。
日本語で書かれた論文が読みたい場合は、ciniiがあります。
使い方はグーグルスカラーと同じです。
文献を探し始めた方に多いのは、自分の調べたい文献が見当たらない、という悩みです。文献がないってことはもしかしたら、自分はすごいアイデアを思いついてしまったのではないか、、、と思われるかもしれないのですが、だいたい検索するキーワードが適切でないか、まだアイデアを練りきれていないかのどちらかです。根気強く探してみてください。
研究において、非研究者の方が最も苦手とするステップはここだと思います。苦手というか、私が知る限り、例えば少子化に関することで非専門家が先行研究をしている事例はほぼ知りません。残念ですが。
1のアイデアや経験が豊富なビジネスマンや行政パーソンはたくさんいらっしゃいます。しかし、だからこそ、「私は、〇〇にこう思う」「私の経験では、〇〇はこうだ」など、自身の意見や経験から、問いに対して結論を導くことが多いように思います。
ですが、研究において、個人の意見や経験、思想は全く必要とされていません。もちろん、意見や思想がエッセンスとして効果を持つときはなくはないですが、通常は必要ないです。
「それってあなたの感想ですよね?」(ひろゆき)
はかなり有名ですが、そうなのです。感想・意見はこの段階ではまだ必要ないのです。
ですので、一旦、あなたの周りのデータや経験に基づく意見は置いておいて、問い(アイデア・依頼)に対して、まっさらな気持ちで挑みましょう。
また、先行研究で使用した文献は必ず引用するようにしてください。研究者でない方は特に、「〇〇は〜〜と言われている」というように、誰がどこで言ってることなのかを明記せずに自分の論理のサポートとして使うことが多いです。ましな場合でも、「XX大学の研究によると、YYということが報告されている」とか多いです。
しっかりした引用は、(著者名、出版年)です。先の例だと、(Martin、1995)。
もちろん、日常会話やSNS等で、常に引用するのは難しいですが、要所要所でデータ・研究知見を持ち出すときはしっかり引用しましょう。
(余談2)
私は少子化を専門に研究しており、「少子化を研究している」というと、みなさんから「私の少子化論」を披露されることが多いです。日本だけでなくどの国でもほぼ同じ反応でした。「どういうことがわかっているの?」と聞いてくれる人は片手で数えられるくらいです。
みなさん独自の意見をお持ちなのは、少子化がみなさんに身近なことでもありポジティブな反面、「先行研究」をないがしろにしている現れです。
個人的な意見は、その事象に関する正しい知識というベースがあった上で初めて必要になってくる要素だと思います。
(余談3)
あるテーマについて学ぶ時、そのテーマに関する本を数冊読んで概要知る、みたいな勉強法があります。私もこのやり方はいいと思うのですが、どの情報をどの本で得たかを適切に覚えていないと、引用という意味では問題ありです。
「知る」という行為を妨げることとして、大きく6つ要素があります。
伝統
権威:有名な誰かが言ってるから
不正確な観察
過剰な一般化
限定的な観察
間違った推論
こうした要素を少なくするためにも、先行研究は重要です。先行研究をせずに、論理性だけに頼り「結論」を導き、知った気になるのは危険です。
ここら辺をわかりやすーく、しかも面白く描いているのが、「ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ」です。チ。やひゃくえむを書いている漫画家さんによる作品です。おすすめ。
先行研究しないで論理に頼ってると、陰謀論や疑似科学の始まりだぞ。気をつけて。
たくさん読むなんてめんどくさい、生成AIにまとめてもらえばいいじゃん。と思うかもしれませんが、生成AIに先行研究させると嘘をつきますのでこちらも気をつけてください。存在しない文献とか平気で出してきますので。
(仮説)
仮説は、必ずしも持たなくていいため括弧付きにしてあります。学術研究でもそうで、実は、仮説がない研究もたくさんあります。
もし仮説を作りたい場合は、先行研究の後に行ってください。先行研究をまとめて、そこから生み出されるのが仮説です。あなたの100%閃きではありませんので、ご注意を。
論理的でさえいればいい、と思っていると、仮説はいくらでも作れてしまいます。
例えば、SNSでまだみかける、こういう言説を取り上げてみます。
この方は色々な論理展開を考えておりますが、「働いている女性」→「結婚しなくなる」というのを取り上げてみましょうか。仮説っぽくすると、
仮説1「正規雇用の女性は、それ以外の女性に比べて、結婚しにくい」
となります。
なぜ、そう思うのか補足してもらう必要はありますが、ひとまず論理としては通じそうな(信じる人がいそうな)ものになっています。
逆の仮説も簡単に作れます。
仮説2「正規雇用の女性は、それ以外の女性に比べて、結婚しやすい」
仮説1と2はお互い対立していますが、このように簡単に作れてしまいます。ですので、重要なのは、仮説を作ること自体ではなく、なぜその仮説が生まれたのか、なぜその仮説がもっともらしいのか、なぜその仮説を検証する必要があるのか、にあります。
こういった説明は、あなたのロジック能力でも、閃きでもなく、先行研究によってなされなくてはなりません。
仮説を作った場合、その後の分析のプロセスで仮説検証を行います。あなたの仮説がどれくらい信頼できるのかを検証するプロセスです。
仮説検証では、まずあなたの仮説の逆(帰無仮説)をつくり、その帰無仮説を棄却できるかどうか、という検証をします。はい、ややこしいですね。
先ほどの仮説1を考えます。
仮説1の帰無仮説は、
「正規雇用の女性とそれ以外の女性の結婚のしやすさは違いがない」
となります。
帰無仮説を棄却できた場合、仮説1が支持される
帰無仮説を棄却できなかった場合、仮説1は支持されない。つまり、「正規雇用の女性とそれ以外の女性の結婚のしやすさは違いがない」とは言い切れない、となります。
ちょっとややこしいですが、この仮説検証のプロセスは重要です。例えば、がんに効くかもしれない新薬Aを作っており、その効果検証をするとします。
仮説はもちろん、「新薬Aは現在の薬Bよりもがんが治る確率を上げる」です。
しかし分析の結果、この仮説は支持されなかったとします。これはどう評価すればいいでしょうか?
帰無仮説は「新薬Aと現在の薬Bの間にがん治癒率に違いがない」です。帰無仮説が棄却できなかったわけですから、「新薬Aと現在の薬Bの間にがん治癒率に違いがない」とは言い切れない、わけです。
ここで重要なのは、新薬Aと現在の薬Bに「違いがない」という結果なのではなく、「違いがある、とは言い切れない」という結果を意味する点です。新薬Aが全く意味がない、というわけではありません。分析手法、データの質や量などの点を見直し、再分析すれば結果が変わるかもしれません。あるいは本当に「新薬Aと現在の薬Bに違いがない」かもしれません。つまり、研究とはこうしたサイクルの繰り返しによって知を蓄積していく取り組みなのです。
3.概念化、操作化、手法・調査対象の決定
3.1 概念化(Conceptualisation)
概念化とは、関心のある事象の定義をすることを指します。
日常では、ある言葉をなんとなくみんながふんわり理解していれば十分なことが多いです。また、時代や文化によって、その単語の共有されている理解が異なることもあります。
そこで、誰にでも明確に意味が伝わるように定義する必要があります。
例えば、「家族」とは何を指すのか、「幸福」とは何を意味するのか、について定義します。あくまで、今から行う研究における定義ですので、定義自体が100%正確でなくても問題ありません。
この定義も、あなたが勝手に行なっていいものではなく、先行研究によって行われる必要があります。
繰り返しになりますが、「私はこう思う」は必要ないわけです。
3.2 操作化(Operationalisation)
操作化は、定義した事象を測定できるようにするステップです。
ウェルビーングを例にします。ウェルビーングの辞書的な意味は英語の方がわかりやすいので、英語で紹介します。オックスフォード辞典によると「the state of being comfortable, healthy, or happy」とあります。辞書的な意味からも、ウェルビーングはいくつかの要素によって成り立っていることがわかります。
ウェルビーングを操作化する際に、この多面性を多面的なまま捉えようとすることも可能です。例えば図にあるものを全て測定し、それらの平均値を取ることで多面的なウェルビーングをそのまま操作化することができます。
また、この多面的要素の中から一つ(例えばメンタルヘルス)に限定することもできます。これは例えば、現在の主観的なメンタルヘルス度合いを聞くことで操作化できるでしょう。
多くの場合、このように操作化されたものを指標や変数と呼びます。
ここでも先行研究が効いてきます。先行研究で行われている手法を踏まえて、どのように操作化するか決定します。あなたの思いつきで行なってはいけません。重要なのは、先行研究の踏襲であり、研究者自身のアイデアではありません。自身のアイデアを出したいときには、先行研究を踏まえたサポートが必要になります。
他にも、「高齢者」を65歳以上の男女とすることも操作化です。
3.3 手法の決定
手法は大きく、量的手法と質的手法の2つに分けられます。量的手法と質的手法のどちらが良い、悪いということはなく、目的に応じて最適な方を選びます。
図にもあるように、量的手法は、主に数値データを扱い、そのデータは構造化され、大きく、また無作為抽出などにより代表性のあるデータであることが多いです。代表性のあるデータについては、次のセクションで説明します。
「誰が」「何を」「どのくらい」というような問いに適しており、統計手法を用いて、仮説検定する際に適しています。
そのため、比較的客観的な手法です。
一方、質的手法は、インタビューなどを用いて、主に文字・絵・動画などをデータとして扱います。そのため、データの量としては小さいものが多く、たいてい代表性も低いです。
「なぜ」「どのように」「どうやって」などの問いに適しており、その事象・現象を記述、要約、解釈することを目指します。そのため、説明・探索的な目的に適しております。量的手法に比べると、主観的な側面が大きいです。
最初から手法を決め打ちしているプロジェクトもみますが、その問いに答える上でベストな手法を選択してください。
3.3.1 量的手法
いわゆる統計手法です。
個別具体的な手法の解説は、たくさん本が出ているので省きます。
どれか本を紹介したいのですが、あまりにもたくさん本が出過ぎているので、アマゾンで「統計学」と調べて良さそうなのを選んでくださいませ。
3.3.2 質的手法
質的手法に適した目的
新しいトピックを探るため
人々の価値観、視点、認識、意見、感情、行動、動機などを研究するため
また、それらに至るプロセスや文脈を理解したい
プロセスを理解するため
少数派グループを研究するため
デリケートなテーマを研究するため
定量的データが得られない場合に研究するため
主な手法
in-depth interview
フォーカスグループインタビュー
グループディスカッション
観察
メディア分析(今は量的でもなされる)
があります。
インタビューとか適当にやってる機関がありますが、インタビューにも適切な手法があるので、ぜひ参照してみてください。
3.4 調査対象の決定
量的手法にせよ、質的手法にせよ、調査・分析対象を決める必要があります。
この調査・分析対象全体のことを母集団といいます。例えば、日本人について知りたい場合、日本人全体が母集団です。
ただ、当然ですが日本人全員について調査することができません。(日本に住んでいる日本人については国勢調査でできますが)
そこで、調査対象となっている人・物の中から、いくつかを取り出し調査・分析します。この取り出された人・物を標本といいます。
この標本を母集団から取り出す方法がいくつかあり、
確率標本抽出(無作為標本抽出ともいう):標本は母集団からランダムに選ばれる。そのため、標本を分析した結果は母集団全体にも当てはまる確率が高いです。これを代表性の高いデータといいます。量的手法でよく使われます。一般的な社会調査はこの方法で調査対象者を選んでいます。日本には他国に比べて、質の高い調査がいくつもあります。
非確率標本抽出:標本をランダムではなく母集団から選ぶ方法。確率標本抽出とは異なり、代表性は低いことが多いです。ただし、非確率標本抽出だからデータの質が低いとは限りません。質的手法でよく用いられます。あえて非確率標本抽出を選んでいるというよりは、確率標本抽出では難しいゆえに非確率標本抽出を選んでいることが多い印象です。質の高い非確率標本抽出データから、「渋谷で若者100人に聞きました」みたいな調査までまちまちです。
Garbage in, Garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)ということわざがあり、ゴミみたいなデータをいくら最新の、また適切な手法で分析しても結果はゴミであることを指します。
調査対象の決定は調査の質を決める重要なステップです。
4.データ・観察
こうしたプロセスを経て、初めて、調査や観察を行い、データを入手します。
むやみやたらに、調査をしたり、インタビューをしたりしても適切なデータは得られません。これまでの繰り返しになりますが、問いはなんなのか、これまでにどういうことがわかっているのか(先行研究)、などなど各ステップを経て、やっと何を聞くか、が決まってきます。
とはいえ、自分で調査をしたり、インタビューをしたりすることはなかなかないと思いますが、ここまでのステップを理解していただければ、世に溢れるデータの質を評価することはできるのではないでしょうか?
色々な機関が独自の調査をしたがります。そうした独自調査に基づく結果をセンセーショナルに発表しますが、その元になっている調査の質はどうなのでしょうか?あるいは回収されたデータに代表性はあるのでしょうか?
また、量的データに限ってですが、2種類のデータがあるのをご紹介します。1つはマクロデータ、2つ目はミクロデータです。
マクロデータとは、国や都道府県レベルなど、規模が大きいものを調査対象にしたデータです。例えば、GDPや失業率などがマクロデータに当てはまります。
一方、ミクロデータは主に個人レベルのデータを意味します。個人を対象にしたデータです。
大元のデータはミクロデータ(個人を対象にしている)なのに、公表されているのはマクロデータというものもあります。例えば、国勢調査なんかがそうですね。最近デジタル庁が、「Japan Dashboard」を公表しました。公表されている日本に関するデータがまとめられており、また一目でわかりやすく可視化されています。おすすめ👇
マクロデータ、ミクロデータのどちらが優れているとかはなく、目的に応じて最適なデータを選びます。
5.分析・考察
やっと分析です!データ分析、データサイエンティストが流行ったおかげで、分析だけすればいいような印象がついていますが、分析は最後の段階です。
データ分析すればいい論考になっていると思っていませんか?あるいはデータに基づいて説明されると圧倒されてせっとくされちゃってませんか?
データ分析は最後なのです。それだけじゃ不十分なのです。
ここもたくさんの書籍が出ているので、詳細は関連書籍に任せます。
分析の後に、考察です。あなたの問いに対する分析が、あなたの仮説を支持したのか、しなかったとすればそれはなぜか。他の先行研究と類似した結果だったのか、異なっているのであれば、それはなぜか、などについて考察します。ここら辺から、少しあなたの意見や推論、解釈が入ってきます。
最後にあなたの意見
こうしたステップを踏み、またさらに問いに戻り、というのを繰り返し、徐々に徐々に、あなたの関心のあるテーマに対する知識が増えていき、初めて「意見」のようなものが生まれてきます。
繰り返しになりますが、何かを知るプロセスには、あなたの閃きも意見も必要ありません。
初めに意見があり、それを証明するために分析があるわけではないのです。
実践編
それでは実際に、社会科学方法論を使って、「批判的に」色々な記事を読んでみようと思います。ここで言う「批判的」とは、あくまで書かれたものに対する批判であり、書いた人を批判しているわけではありませんのでご注意を。
◯先行研究の欠如
間違った定義
少子化はどうすれば解消できますか?という質問をよく受けるが、結論から言えば、最低でもあと50年、第二次ベビーブームの団塊ジュニア世代が全て死に絶えて、あの人口の山が消え去るまで人口ピラミッドは補正されないし、そうしないと人口転換メカニズムも戻らないので、どうにもならないが正解
少子化の正しい定義とは、「合計特殊出生率が長期間にわたり、人口置換水準を下回っている状態」です。
しかし多分、この方は少子化=「出生数が少なくなること」と誤解しているように思います。
定義の確認は第一にやらなければならないことですし、先行研究をすればすぐわかることなので、先行研究をしっかり行なってください。
人口推計の理解不足
日本の少子化に歯止めがかからない。最近発表された厚生労働省の人口動態統計によると、2024年に生まれた子供の数は68万6061人、前年に比べて5.7%減少した。1人の女性が生涯に産む子供の数である合計特殊出生率も1.15となり、過去最低となった。
こうした少子化=人口減少の傾向は、2023年に政府が出した推計値によると、年間の出生数が68万人台になるのは2039年のはずだった。15年も早く68万人台になってしまった。いかに、政府の予想が当てにならないものだったかがわかるはずだ。一刻も早い、実情に沿った統計予想づくりの体制を構築すべきだろう。
これは人口推計というものの理解が間違っています。人口推計は将来の人口数を「当てる」目的ではないのです。
詳しくは以下の68ページを参照ください。人口推計についての熱いメッセージが載っています。心撃たれる。
◯そもそも、、、
意見いらない1
ちなみに、私の肌感覚としては、日本の人口がもう少し減っても良いのかなとは思っています。
肌感覚!!!
意見いらない2
では、なぜ先進国は少子化になるのか。
これを語りだすと、それだけで本が1冊書き上がるくらい深いテーマなので(厳密に言えば、国によって理由もさまざまですし、、、)、ここでは、僕がリアルに感じる2つの理由について紹介したいと思います。
ブルースリーも激おこ。感じるな!先行研究してくれ!
◯手法の決定
当レポートでは、AI技術を用いて2040年の少子化に関する3つのシナリオ(楽観・中立・悲観)を予測した。
手法としてAI技術を用いた、とあるが、なぜAI技術を用いたのかの説明がない。他の出生予測とはどう異なるのか、何が優れているのか、どこに限界があるのか。なぜAI技術を用いる必要があるのか。
これはAI技術を用いることを批判しているわけではなく、なぜAI技術を用いるかが書かれていないことへの批判です。
また、出生予測を行う論文はいくつかあるが、それらの論文と先行研究とどう異なるか、書かれていない。この文章・取り組みの先行研究での立ち位置は?先行研究への貢献は?
◯データ
日本大学の末冨芳教授らが行なった調査によると、
「あなた自身は子どもを育てることについて、どのようにお考えですか。あてはまるものを1つ選んでください。」という質問に対し、52%の人が「子どもはおらず、子どもは育てたくない」と回答している
と報道されています。
結構センセーショナルな数字ですよね。15〜39歳の人の半分以上が、子どもは欲しくないと答えているわけですから。
他の調査と比較してみます。
国立社会保障・人口問題研究所が行なっている全国調査では、子どもはいらないと思っている未婚者は男性で11%、女性で13%ほど。この調査の最新は2021年なので、ここ4年で変化している可能性はありますが、4倍も増えないと思います。
また、全国調査ではないですが、私が昨年度担当した自治体調査でも、理想子ども数を0人と答えているのは10%未満となっています。
他調査とあまりにも結果が違う時は、調査の質を検討してみた方がいいです。
まず、オンライン調査です。調査対象者は、オンライン調査のモニターになっている方。つまり、インターネットを通じて行われるアンケートや調査に協力するために、あるサービスに登録している人が調査対象になっています。まず、この時点で調査対象者がかなり限定されているんだ、とわかります。
また、子どもがいない人の割合を見ると、
出生動向基本調査(日本全体調査)では、19〜39歳の女性で54%が子どもがいない
当該調査では、15〜39歳の84%の男女が子どもがいない
となっています。両者で年齢区分が違ったり、出生動向は女性だけなのに対し、後者は男女含んだり、直接比較はできませんが、やはり後者は子どもがいない人を多く含む調査になっているように思います。
と簡単に2つの視点だけ見てみましたが、「52%の人が『子どもはおらず、子どもは育てたくない』と回答している」という結果はあまり信ぴょう性が高くないように思われます。
データを出されると、むやみに信じてしまいがちですが、調査設計などをみてどういう特徴のあるデータなのか、そしてどういう調整がなされているか、などを確認するようにしてみましょう。
個人個人が調べるのも限界があると思うので、メディアのみなさん、ぜひ調査設計などからその調査の限界などもあわせて報道してくださると嬉しいです。あるいは、オンライン版だけでかまいませんので、調査へのリンクも加えるだけでもしてくださると助かります。
いかなる記事にも目くじらを立てて「批判する」ことが、社会科学方法論を身につける目的ではありません。ただ、誤った情報に基づく発信や、誤解を生む発信があまりにも多いので、読む側にきちんと判断する能力が求められています。発表された記事だからと闇雲に信じずに、社会科学方法論の各ステップから批判的精神を持って読んでみてください。
まあ、その前に発信する側が社会科学方法論を身につけ、責任持って発信していただきたいです。
終わりに
本記事で紹介した「社会科学方法論」を2025年1月〜3月にかけて、集中講義としてスペインのポンペウ・ファブラ大学で教えてました。100人以上の大学1年生に向けてです。社会科学方法論は、大学内においては、卒論を書くために必要な知識なので、大学に入ったばかりの学生に教えて、今後取る授業で有効に知識をつけ、4年後の卒論執筆に活かしてもらおう、という願いがあるわけです。学生側からすれば、大学1年に受けた授業なんて忘れちまうよ、というわけですが、、、
この授業への学生からの反応を見て、社会科学方法論って、卒論書くためだけでなく、彼ら彼女らのその後のビジネスでも、あるいは世に溢れかえるニュースや各種レポートを読み・評価するため、もっと言えば、そもそも何かを知るために役に立つのでは、と思ってきました。
そこから、この記事を書き始めて半年近く経ってやっと公開できました、、
この記事で、ずばり、「ビジネスにも〇〇の点で、社会科学方法論が役立ちます」とか「あなたの今抱えている仕事は、社会科学方法論によって劇的に改善します」とか言えたらいいんですが、なにぶん筆者は、一般企業で働いた経験に乏しく、正直ずばっと言えません。
ただ、社会科学方法論にはみなさんに知っていただく価値のポテンシャルがあるのです。それだけはわかります。
正直、こうした熱量だけあるだけで、うまく伝え切れているかわかりません。自分でもまだ言語化できていない部分もあるかと思います。
なので、この記事を最後まで読んでいただいたみなさんに、「仕事にこういう風に使えるかな」、「こういうことが言いたかったのでは」など感想や要約をしていただき、みなさんと一緒に社会科学方法論の実生活での使い方を練っていければ幸いです。
また、社会科学方法論自体はわかったけど、これを実社会で使うのは無理があるなどあるかと思います。確かにプロセスが多いですよね。そうした際にはぜひ一つのステップだけでいいので、普段のロジカルシンキングに追加してみてください。その際にはぜひ先行研究を。全部自前でやらずに、あるいは周りの「ぽい人」に頼むだけでなく、ぜひぜひ先行研究をしてみてください。だいたいのトピックに膨大な先行研究があります。そうした知見をぜひ活用してください。
と言ってもなー、という方は、関連する研究者にコンタクトを取ってみてください。解説してくれたり、関連文献を教えてくれたりするはずです。私はしますのでお気軽にご連絡ください。ryohei.mogi[at]upf.edu
社会科学方法論についてもっと知りたい、ご指摘、ご感想、ご不明点などはお気軽にこの記事のコメント欄やX等SNSでシェアしてください!楽しみに待ってます。
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コメント
3お盆休みに24歳の娘と話をした際に彼女曰く「全く結婚や出産に価値や意味を持てない」と言っていました。彼女がそう感じるのは、私達夫婦の生き様に問題があったのかと反省しております。茂木先生は、少子化の専門家とのことですが、親として、出来ることがあればと思います。何かアドバイスいただければ、幸いです。
ご返信遅くなりました。ご質問ありがとうございます。子育ての仕方や生き方と娘さんの子どもを欲しいか欲しくないかは関係ないと思います。思い悩まれないでください。子どもが欲しくない、結婚したくない(あるいは逆に、子どもが欲しい、結婚したい)は、価値観ですから、残念ながら親御さんの説得等はあまり効果を持たないように思います。
最近発表したわれわれの研究によると、交際相手がいると「子どもが欲しい」と思うようになり、交際相手がいないと、反対に「わからない」や「欲しくない」と思うようになる傾向が明らかになりました。https://www.univ.gakushuin.ac.jp/about/press/31092.html
また、出生意欲は年齢によって大きく変わることがわかっておりますので、もしかしたら娘さんの価値観もひょんなことから変わるかもしれません。
でも、子どもがいらない、というのも一つの価値観ですから、それも受け入れていただければと思います。
貴重なアドバイスを頂きありがとうございます。少し私の考え方が保守的だったようです。結婚、出産だけが「幸せ」という観念は持たず、娘の生き方を、見守って行きたいと思います。先生の最新の記事も参考にさせて頂きます。