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政府による「検閲の民営化」:なぜワクチン関連の動画が次々と消されたのか?

2021年、コロナワクチン接種が進む中で、YouTube上の動画が次々と削除されていたことを覚えていますか?実はその背景には、日本政府、YouTube、そして特定の専門家グループによる巧妙な連携がありました。今回は、その仕組みを解説します。

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7.5万本の動画を削除

これは「官民連携による検閲の代理執行」

日本政府・YouTube・専門家による三者連携は、法規制を迂回しプラットフォームの権威を利用する「ソフトパワーによる統治」モデルである。これは、「検閲の代理執行」と説明責任の不在という構造的欠陥を伴い、デジタル時代の民主主義と情報の自由に対する重大な脅威となっている。

1. はじめに

2021年、日本は新型コロナウイルスワクチンの大規模接種という歴史的事業の只中にあった。しかし、政府が直面していた課題は、生物学的なウイルスへの対応だけではなかった。SNS上では、ワクチンの安全性や有効性に関する多様な情報や懸念が拡散し、政府はこれらを「公衆衛生政策の遂行を阻害する要因」として認識していた。当時のワクチン担当大臣であった河野太郎氏にとって、ワクチン接種の推進と並行して、政府見解に否定的な情報への対処は喫緊の政策課題であった。ワクチン接種という公衆衛生政策の成否は、もはや伝統的な広報活動だけでは決まらず、YouTubeをはじめとするデジタル空間における情報統制の成否に大きく依存していた。

今回、この特異な状況下で形成された政府、プラットフォーム、専門家集団による三者間連携が、単なる場当たり的な危機対応ではなく、国家が憲法上の制約(表現の自由の保障)を回避しつつ政策目標を達成するための、体系的な間接統治モデルの事例であったことを論証する。

本稿の中心的な問いは以下の通りである:「YouTubeの『公認報告者』制度を通じた政府・プラットフォーム・専門家の連携は、いかにして憲法上の検閲禁止原則を迂回しながら、政府見解に否定的な言論を抑制したのか」

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デジタル情報統制の解剖

この問いの探求を通じて、本稿は三つの分析視角を提示する。第一に、河野大臣のリーダーシップがいかに制度構築の起点となったか。第二に、専門家集団(コロワくんサポーターズ)がいかに「科学的正当性」の外観を付与したか。第三に、プラットフォームの技術的権限がいかに実質的な削除・抑制機能を担ったか。これらの分析を通じて、国家が直接的な法規制によらず、民間アクターとの連携によって言論統制を実現する「検閲の外部委託(outsourcing of censorship)」という新たな統治パターンを明らかにする。

2. 背景:YouTube「公認報告者」制度の構造的変容

日本のワクチン政策における官民連携の特異性を理解するためには、その受け皿となったYouTubeの「公認報告者プログラム」自体が、パンデミックを契機に重大な構造変容を遂げていた事実を分析することが不可欠である。特定の専門家集団がYouTubeから特別な権限を付与されるに至った背景には、プラットフォーム側が情報管理のあり方を根本的に見直していたというグローバルな文脈が存在した。

プログラムの起源:コミュニティによる自警団

2012年に開始された当初、このプログラムは「コミュニティ・ポリシング」という思想に基づいていた。これは、YouTubeのコミュニティガイドラインに違反するコンテンツ(スパムや暴力表現など)を高い精度で報告する個人のボランティアを支援するもので、いわばコミュニティの健全性を保つための「自警団」としての役割を期待されていた。この段階では、参加者は特定の専門知識を持つ必要はなく、報告の正確性と量という実績によって評価される「有能な一般ユーザー」であった。

パンデミック期のパラダイムシフト:個人から組織へ

しかし2021年頃、このプログラムは大きなパラダイムシフトを経験する。YouTubeは、個人のボランティアへのサポートを縮小し、代わりに政府機関(Government Agencies)や専門性を有する非政府組織(NGOs)の参加を優先する方針へと大きく舵を切った。この構造変化は、以下の比較表に明確に示されている。

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Youtube公認報告者プログラムの構造的変容

この変容により、プログラムの重点は「コミュニティの自浄作用」から「権威ある組織による専門的判断」へと移行した。特に「医療誤情報」という新たな脅威に対処するため、プラットフォームは「誰が信頼できる専門家なのか」を特定し、その組織に権限を委譲する体制を模索し始めたのである。

公認報告者に付与された特権的権限

公認報告者に与えられた権限は、一般ユーザーが持つ報告機能とは質的に全く異なるものであった。それは単なる「通報」ではなく、プラットフォームの意思決定プロセスに深く関与する「優先的な執行権」であった。

  • 一括報告ツール (Bulk Reporting Tool): 複数の動画を一度にまとめて報告する機能。これにより、特定のテーマを持つ動画群を効率的に排除することが可能となる。

  • 優先審査 (Prioritized Review): 公認報告者からの報告は、一般の報告よりも優先的に審査チームに送られ、迅速な対応がなされる。

  • 意思決定の可視化 (Feedback on Decisions): 報告したコンテンツに対するYouTubeの最終判断(削除か否か)について、フィードバックを受け取ることができる。

  • ポリシー対話 (Policy Dialogue): YouTubeのコンテンツポリシーそのものについて、継続的な議論やフィードバックを行うチャネルを持つ。これは、何が違反であるかの**「基準作り(standard-setting)」**に影響を与えうることを意味する。

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公認報告者の権限

結論として、パンデミック期におけるこの制度変容は、YouTubeが公衆衛生という極めて専門的な領域において、自社単独での判断を避け、政府や公的機関が「信頼できる」と認める外部の専門家集団にプラットフォーム内の秩序維持権限を委譲する準備が整っていたことを示している。この新たな枠組みこそが、次章で分析する日本での官民連携スキームが成立するための技術的・制度的土台となったのである。

3. 事例分析:三者間連携スキームの形成プロセス

政治的起点:河野大臣とプラットフォームの対話

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河野大臣とYoutube CEOのトップ会談

この三者間連携が形成される決定的な起点は、2021年8月に行われた河野太郎ワクチン担当大臣とYouTube CEOスーザン・ウォシッキー氏によるトップ会談であった。会談の目的は若年層へのワクチンに関する「デマの打ち消し」と「正確な情報の拡散」にあったが、その実態は日本政府の政治的要請とプラットフォームの技術的権限を結びつけるための交渉であった。

河野大臣の要請に対し、YouTube側は「専門家や公的機関からの報告を重視する」と回答した。これは単なる協力姿勢の表明ではない。YouTube側は明確な「取引」を提示したのである。すなわち、プラットフォームが違反コンテンツを迅速に排除するという技術的サービスを提供する代わりに、日本政府に「誰が信頼できる国内パートナーなのか」を特定するという政治的機能を果たすよう求めたのだ。このトップ会談によって、政府の政治的意思とプラットフォームの執行権力を結びつける公式な道筋が開かれたのである。

専門知の供給者:「コロワくんサポーターズ」の選定

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コロワくんサポーターズの戦略的優位性

政府とプラットフォーム間で描かれた協力の枠組みを、現場で実行するオペレーターとして選ばれたのが、山田悠史医師が率いる専門家集団「コロワくんサポーターズ」であった。同時期には、厚生労働省のアワードを受賞した「こびナビ」など他の有力な医師団体も活動していたが、なぜ彼らがこの特権的な役割を担うことになったのか。その鍵は、彼らの持つ独自の「モニタリング能力」にあった。

コロワくんサポーターズは、LINEチャットボット「コロワくん」を運営しており、市民がワクチンに関してどのような疑問や不安を検索しているかというリアルタイムの「クエリ情報」を大量に保有していた。これは、まさに今、どのような誤情報がトレンドになっているかを把握するためのデータであり、違反動画を効率的に標的化したいYouTube側のニーズと完全に合致した。他の専門家集団が政府からの「お墨付き」を持っていたのに対し、コロワくんサポーターズは、誤情報の潮流を観測し、標的を特定する卓越したオペレーション能力において、プラットフォームにとって最も価値あるパートナーだったのである。

政府による正当化:「ソフトな関与」の実態

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政府は命令せず環境を整備した

日本政府は、コロワくんサポーターズを公的な文書で「任命」したり、直接的な業務契約を結んだりはしていない。しかし、それは政府の関与がなかったことを意味しない。むしろ、政府はより巧妙な「ソフトな関与」を通じて、彼らに正当性を与え、プラットフォームに対する影響力を行使した。

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厚労省による専門知のお墨付き

厚生労働省は、コロワくんサポーターズが発信する情報を、自らの公式見解と同期した「公衆衛生のパートナー」として認知し、その活動を公に称賛した。この政府による「お墨付き」は、グローバル企業であるYouTubeに対して、彼らが公認報告者プログラムの参加基準である「Trusted(信頼できる)」専門家集団であるという客観的な根拠(エビデンス)を提供する上で決定的な役割を果たした。これは、直接的な命令という「ハードな関与」ではなく、活動しやすい環境を整備し、権威を与える「ソフトな関与」と定義できる。

連携の確立と機能

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三者連携の全体像

この連携は、Google Japanの公式ブログによってその存在が裏付けられている。「コロワくんサポーターズ等の専門家」が公認報告者プログラムに参加した事実が明記されているだけでなく、この連携が単なる個別の動画削除依頼に留まらない、より深いレベルのものであったことが示されている。同ブログによれば、彼らとの連携を通じて得られた日本のトレンドはグローバルチームに共有され、「ポリシー開発や対策に活用」されていた。

これは、政府が実質的に推薦した日本の専門家集団の知見が、YouTubeのグローバルなコンテンツポリシーにフィードバックされる公式な「回路」が形成されたことを意味する。彼らは、単なる国内のモデレーターではなく、プラットフォームの統治構造そのものに影響を与える「リエゾン(連絡将校)」としての役割を担っていたのである。

4. 情報統制モデルとしての批判的検討

説明責任の不在

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説明責任の不在

このスキームにおける最大の問題は、そのプロセスの徹底した不透明性にある。誰が、どのような基準でコロワくんサポーターズを公認報告者に選定したのか、その選考過程は一切公開されていない。さらに、彼らの報告によってコンテンツを削除された投稿者には、その判断に「政府の影響を受けた専門家」が関与したという事実は一切知らされない。

これにより、健全な異議申し立ての機会が構造的に奪われている。仮に専門家の判断に誤りがあり、正当な科学的議論や政府方針への批判が誤って「デマ」として排除されたとしても、その決定は公的な不服申し立ての対象とはならない。なぜなら、形式上は民間企業が自社の利用規約に基づいて判断したに過ぎず、行政不服審査法の適用範囲外にあるからだ。この説明責任の不在は、権力行使のプロセスをブラックボックス化し、市民による監視を不可能にする。

「検閲の民営化」という構造

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検閲の民営化

日本国憲法第21条は、公権力による「検閲」を明確に禁じている。しかし本事例のスキームは、この憲法上の制約を回避しつつ、実質的に同様の結果を生み出す巧妙な迂回プロセスを構築している。このプロセスは、**「検閲の代理執行(Proxy Censorship)」**と呼ぶべき構造を持つ。

  1. 政府による基準設定: まず、政府(厚生労働省)がワクチンに関する「正しい情報」の基準(公式見解)を策定・公表する。

  2. 民間団体による代理執行: 次に、政府と親和性の高い民間団体(コロワくんサポーターズ)が、その基準に照らして「違反コンテンツ」を特定し、プラットフォームに報告する。

  3. プラットフォームによる形式的実行: 最後に、民間プラットフォーム(YouTube)が、その報告を「専門家の知見」として重視し、自社の利用規約に基づいてコンテンツを削除する。

この三段階のプロセスにおいて、政府は直接手を下すことなく、「政府見解に反する情報の排除」という目的を達成している。これは、本来であれば公権力が行使できない検閲という権力を、民間主体を介して間接的に行使するシステムに他ならない。

専門知の政治化と科学的議論への影響

コロワくんサポーターズを構成した医師たちの動機が、純粋な公衆衛生上の使命感に基づいていたことは想像に難くない。しかし、ひとたび彼らが政府と連携し、プラットフォームの権力装置の一部に組み込まれた瞬間、その医学的判断は必然的に政治的な意味を帯びることになる。

科学的知見とは、本来常に更新され、多様な視点からの検証に開かれているべきものである。しかし、政府と連携した特定の専門家グループに「真実の裁定者」として、異論を排除する特権を与えることは、この科学の健全な多義性を著しく損なう危険を孕む。政府方針と異なる見解を持つ他の専門家による正当な科学的議論や、政策の副作用に関する批判的な言説が、「デマ」として一律に封殺されるリスクを生み出すのである。

5. 結論

本事例研究で明らかになったのは、2021年のワクチン接種期において、政府の「ソフトな関与」の下、民間専門家(コロワくんサポーターズ)とプラットフォーム(YouTube)が連携する強固な情報統制モデルが確立されていた事実である。 この官民連携スキームの本質は、政府が法規制というハードパワーを使わず、民間のアーキテクチャと権威を利用して情報空間を管理する「ソフトパワーによる統治」にある。

このモデルは、憲法上の制約を回避しつつ政府意向の情報環境を作り出す一方で、責任の所在をブラックボックス化してしまう。市民が感知できない間に進行する「ソフトな監視国家(Soft Surveillance State)」への移行は、デジタル時代の民主主義に対する重大な脅威であり、決して看過されてはならない問題である。

引用

  1. Growing our Trusted Flagger program into YouTube Heroes, 1月 8, 2026にアクセス、 https://blog.youtube/news-and-events/growing-our-trusted-flagger-program/

  2. Shifting Focus Within YouTube's 'Trusted Flagger' Program Has Angered Some Participants, https://www.tubefilter.com/2021/10/20/shifted-focus-youtube-trusted-flagger-upset-participants/?utm_source=tbfltr.co&utm_medium=urlshortener

  3. I am really confused has the YouTube Trusted Flagger Program Reinstated Help - Reddit, https://www.reddit.com/r/PartneredYoutube/comments/1oluadw/i_am_really_confused_has_the_youtube_trusted/

  4. About the YouTube Priority Flagger program - Google Help, https://support.google.com/youtube/answer/7554338?hl=en

  5. 若者向けのワクチン情報動画、YouTubeで1億回以上再生 「人気 ..., https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2108/12/news058.html

  6. 【公式】コロワくんサポーターズサイト | コロナワクチンへの不安を減らしたい医師たちのプロジェクト, https://corowakun-supporters.studio.site/

  7. 「こびナビ」終了 新型コロナワクチン情報伝える専門家プロジェクト「目的達した」 - ITmedia NEWS, https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2312/01/news155.html

  8. The Japanese Journal of Nephrology - 日本腎臓学会誌, https://cdn.jsn.or.jp/general/congress/journal/66_4.pdf

  9. 【活動報告一覧】 #こびナビ :コロナワクチンの正確な情報で元の世界を取り戻したい(一般社団法人 保健医療リテラシー推進社中) - クラウドファンディング READYFOR, https://readyfor.jp/projects/cov-navi/announcements

  10. 最終収支報告および2022年、2023年の活動内容のご報告 2024/01 ..., https://readyfor.jp/projects/cov-navi/announcements/303947

  11. YouTube の新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する日本での ..., https://blog.youtube/intl/ja-jp/news-and-events/2021_08_jpcovidefforts/

  12. フェイクニュースや偽情報等への対策状況 ヒアリングシート(2022年3月28日)回答における - 総務省, https://www.soumu.go.jp/main_content/000802720.pdf


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コメント

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壺助

貴重な記事ですね、これは。🙏

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