light
The Works "蘇枋くんはおねーさんを癒したい" includes tags such as "WB【夢】", "WBプラス" and more.
蘇枋くんはおねーさんを癒したい/Novel by さらだ

蘇枋くんはおねーさんを癒したい

4,722 character(s)9 mins

アニメ化が決まる前からずっと蘇枋くん推しのオタクです。アニメ勢の皆さんは是非原作を読み、蘇枋隼飛という男がいかにやばいかを知ってほしいです。
WB夢増えろ〜〜〜!!

1
white
horizontal


「はぁあああああ………つかれた………」

労働。それは社会に生きる大人であれば必ず付き纏うもの。
もちろん、やり甲斐を見出して楽しく働く人もいるだろう。が、残念ながらわたしはその枠からは外れている。やり甲斐もないし楽しくもない。ただただ生きるために、給料のために働いている、悲しき社会人だ。しかも今日は休日出勤だったため、普段の2倍の疲労感がのしかかる。
同僚に「大丈夫?ゾンビみたいだよ?」と比喩された酷い顔色をそのままに自宅までの帰り道を歩く。普段より早く上がれたため、夕方前の空はまだ明るくて、こんなに明るい空の下を草臥れた自分が歩いているのが何ともちぐはぐで、なんだか笑えてきた。疲れすぎておかしくなっているのかもしれない。
乾いた笑みをこぼしながら、ふと、なんとなしに呟く。


「癒しが、欲しい………………」
「癒し、ですか?」

独り言のはずが返ってきた言葉に「ん?」と首を傾げる。何故レスポンスが。
疲労から重たい目蓋のまま、後ろを振り向く。

「あ、いきなりすみません。姿が見えたので、つい声をかけちゃいました」

にこり。わたしの目線より上に位置する端正な顔が微笑む。彼の動きに合わせてしゃらりと揺れるタッセルを目で追って──脊髄反射で叫んだ。

「す、すおうく、ッぐ、ゴホッ!ゲホッゴホッ!」
「大丈夫ですか?」
「だいじょ──ッゲホッゲホッ!」

久しぶりに大声を出そうとしたからか、わたしの貧弱な気管が拒絶反応を起こして盛大にむせた。その間にもわたしの背中をさすってくれる彼の優しさに目頭が熱くなる。
なんて情けない。相手は高校生の男の子なのに。

「………ごめんね、みっともないとこ見せちゃって」
「いえ、そんな。もう大丈夫ですか?お姉さん」

眼帯、揺れる耳飾り、風鈴高校の制服。
奇抜な風貌と端正な顔立ちで目を引く彼、蘇枋くんとは、以前不良に絡まれているところを助けてくれたことがきっかけで知り合った。わたしのような社会の荒波にのまれた汚い大人にも優しく接してくれる蘇枋くんは、わたしにとって密かなるオアシスである。
高校生の男の子をオアシスだとか、成人済みの女が言うとかなりキモいが胸に秘めているだけなので許してほしい。

「日曜日なのに、お仕事ですか?」
「ハハ……ウン、マアネ……」
「大変ですね、お疲れ様です」
「いやいや………蘇枋くんこそ、いつも街のためにありがとうね。今も見回り中でしょ?」
「はい、そうなんですけど」
「うん?」
「たった今、他の用事が出来たというか」

蘇枋くんは顎に手を添えると、わたしをじい、と見つめた。
何かを孕んだその眼差しになんとなく気まずくなって、つい視線を逸らす。上手く言えないが、蘇枋くんの瞳には何らかの魔力みたいなものが秘められていると思う。

「さっき、癒しが欲しい、って言ってましたよね」
「え?あ、あぁ、うん……?」
「それなら、」

一度言葉を区切った蘇枋くんが僅かに身を屈ませる。必然的に縮まる距離、近すぎる綺麗な顔に思わず後退ると、ずいと更に距離を埋められた。
ご、ご尊顔が近い。
なんとか意識を逸らしたくて揺れるタッセルを凝視していると、不意に吐息が耳を掠めた。びく、と肩を跳ね上がらせる情けないわたしに気付いているのかいないのか、蘇枋くんは追撃するように耳元で囁く。

「………あなたのこと、オレが癒してもいいですか? おねーさん」

新手のASMRかと思った。



「いきなりお邪魔しちゃってすみません」
「あ、いや………紅茶でいいかな?」

お構いなく、と笑う蘇枋くん。そう、蘇枋くん。
どこからどう見ても蘇枋くん………………が、わたしの部屋にいる。

いやいやいやいやいやいや。マズイだろさすがに。
高校生!!!!!だぞ!?!?!?!?

紅茶を淹れながら、今更になって事の重大さに気付く。なんか蘇枋くんに流されてぽ〜っとなってうっかり家に上げてしまったけども。蘇枋くんは、高校生、である。ピッチピチの、わたしのような社会の汚ぇもんを見て知ってしまった大人とは違う、現役高校生なのである。ざっくり言うならば、未成年、なわけでして。
大人が身内でもない未成年を家に連れ込むなんて、字面からしてもうやばい。言い逃れが出来ないレベル。完全に事案。蘇枋くんが通報してまえば、わたしは社会的に抹殺されるだろう。

「このティーカップ、可愛いですね。紅茶、好きなんですか?」
「未成年者誘拐罪………」
「お姉さん?」
「!! ア、ウン、ワタシ、コウチャ、スキ」

何故かゴーレム口調で返答するわたしに、蘇枋くんは不思議そうにぱち、とふたつほど瞬いた。あああそんな綺麗な瞳でわたしを見ないで。
挙動不審のわたしを心配してか、蘇枋くんがわたしの顔を覗き込んだ。ので、脊髄反射でズザザと距離を取る。やめてくれ、これ以上罪を重ねたくない。

「………どうしてそんなに離れるんですか?」
「え、いや、だって、わたし、大人。蘇枋くん、未成年」
「はい?」
「普通に、ふつーーーに、事案、だから。いや、わたしが家に上げといて今更なんだけど………と、とにかく、あんまりわたしに近付かない方がいいよ!もっと危機感持って!」
「危機感……状況的に、持つべきなのはお姉さんの方だと思いますけど」

ニッコリ。お手本のような綺麗な笑顔でよく分からないことを言う蘇枋くん。
いやまあ確かに色んな意味で危機感は持つべきだよな……持たなかった結果がこれ(事案)だもんな………。
蘇枋くんのことは好ましい(決して下心はない)と思っているが、大人して一線は引くべきだろう。

「蘇枋くん、ごめん、やっぱり帰った方がいいかも……さすがにこの状況は良くないというか」
「オレに、帰ってほしいんですか?」
「……う」
「オレを、帰すんですか?」
「ぐ……」
「せっかくお姉さんを癒しに来たのに……でも、仕方ないですよね。お姉さんはオレに帰ってほしいんですよね。なら帰ります、お邪魔しま………」
「あああああごめんごめん日が暮れる前までならいいからそんな顔しないでぇ!!!!!!!」

悲しげな顔で俯く蘇枋くんに様々な感情が渦巻いた罪悪感に襲われ、気付けば蘇枋くんの肩を掴み引き留めていた。
あああ何やってんだ馬鹿!!
蘇枋くんは「お姉さん……」と目を丸くして数回瞬くと、肩に置かれたわたしの手を握りニコ!と笑った。
え??

「ありがとうございます。ならもう少し居させてもらいますね」
「いや……ア、アア、ウン……」

悲しげな蘇枋くんはいずこに。切り替えの鬼か??
もしかして騙された……?とニコニコ笑顔の蘇枋くんに困惑していると、弾んだ声が「おねーさん」とわたしを呼ぶ。無邪気な声色は年相応なのに、こちらを覗き込む眼差しは妙に大人びていてちぐはぐだ。

「最近、忙しいんですか?」
「え?」
「最近はあまり見かけなかったので。忙しいのかな、って」
「………えぇと、」
「仕事のことは、オレには分からないですけど。でも、だからこそ吐き出せることもあると思うんです」
「………」
「オレにだけは、吐き出していいんですよ。そのためにオレはここにいるんですから」

ね?と微笑むかおがあまりにも優しくて、年下の男の子なのに一瞬でも縋り付きたくなってしまった。蘇枋くんは魔性だ。
社会人と学生。大人と子供。住む世界が違うからこそ、吐き出せることもある。蘇枋くんの言葉は的を得ていると思う。
わたしは日頃の鬱憤をつらつらと吐き出した。
いい加減定時で帰りたいとか、上司の嫌味がうるさいとか、観たいドラマが溜まっているとか、細かいことまでぜんぶ。
蘇枋くんはそんなわたしの話を時折うん、と頷きながら聞いてくれて、何も言わなかったけれど、それが心地よかった。

「………それで、あのクソ上司が、わたしのミスってことにして、せっかくの休みが台無しになって」
「うん」
「あ〜〜〜もう、今日こそ溜まってたドラマネトフリで観ようとしてたのに!!」
「うん」
「………………今更だけど、引いてない?」
「? 引いてませんよ。話してくれて、嬉しいです」
「………そ、そお?」

話してくれて嬉しい、なんて笑ってくれる蘇枋くんに満更でもなく思っていると。
するり、と手の甲を撫でられた。何の前触れもないそれに反応が遅れる。
一拍置いて逃げようとした手は容易く捕まり、ぎゅうと握り込まれた。

「会社のことは、オレが聞きます。毎日」
「えっ」
「それと、夜道は危ないので迎えに行きます」
「はっ?」
「溜まってるドラマは、オレと一緒に観ましょうか」
「え、えぇ?」

な、何を。何を言っているんだ彼は?なんかすごいことをサラッと言っていないか?
気付けば抱かれていた肩をすいと引き寄せられ、蘇枋くんの綺麗な顔が近付く。
あ、と思った時にはもう手遅れだった。

「大丈夫、オレだけはあなたの味方です」
「………、」
「おねーさんは、いつも頑張ってますよ」

いいこ、いいこ。
年下の、それも高校生の男の子に抱きしめられて、頭を撫でられて、甘やかされて。
一般的にはそうするべきなのは大人であるわたしのはずなのに。
年上の尊厳も恥も何もかもをかなぐり捨ててでも、今だけはこの腕の中にいたかった。

「蘇枋くん、ごめん、ごめんね……通報しても、いいから……」
「通報? ふふ、しないですよ」
「でも、だって、じあん………」
「何度も言いますけど、お姉さんの方が危ないですからね?」

なんでわたしの方が危ないんだろう。どう考えたって蘇枋くんの方が100倍危ないのに。
蘇枋くんは自覚が足りないなぁ。声、心地いいなぁ。高校生とは思えない包容力、だなぁ。
連日の疲れが一気に押し寄せてくる。ふわふわした意識の中で蘇枋くんの腕の中から一刻も早く抜け出さなければ、と思うのに、重い身体は言うことをきかない。
というのは建前で、もうこのまま眠ってしまいたかった。
自然と下りてくる目蓋に抗うことも出来ず、強烈な睡魔に身を委ねる。

………ああ、起きたら土下座して謝らないと。



「寝ちゃった」

己の腕の中で眠る彼女に思わず笑みがこぼれる。
年上で大人だと主張するくせに、その寝顔があまりにもあどけないから。
でも、無防備なのは感心しないな──なんて。
以前会った時より痩せた頬を撫でつけ、細い肩を抱き寄せる。少し力を込めれば折れてしまいそうな華奢なからだ。
それほど疲労困憊しているという証なのだろうけれど。
こんなにも非力なのに、為す術なくあっという間に捕まったくせに「危ないのは君の方」だと言う。男に捕らわれて、どう考えても危ないのは彼女の方なのに。
年上で大人だから。ただそれだけの理由で、脅威は自分にあると思い込んでいる。

「年の差………」

彼女との間にある、どうしても越えられない壁。
自分は特に気にしていないが、彼女は過剰に気にしている。ならばきっとこれからも付き纏うだろう。
彼女がしきりに言っていた「事案」というフレーズ。曰く、自分と一緒にいるだけで「大人」である彼女は罪に問われる可能性があるらしい。
自分ではどうにもならないそれらが鬱陶しい。生まれた年が違うだけで付き纏うしがらみなど、この手で壊してしまいたかった。


「邪魔だなぁ」


「大人と子供」である前に「女と男」であることを教え込まなければ。

──などと、あどけない寝顔を見つめながら、少年は静かに笑った。

Comments

  • むる
    November 20, 2025
  • 紗楽🐈‍⬛🐾🎶

    続きはないのかぁ……!😭

    April 13, 2025
  • 汐見
    December 3, 2024
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags