「ストーカー」に悩まされている被害者が最悪の事態を回避する上で欠かせないのが、自分がいま危ないのかどうかを正しく認識することです。「危ない」と判断したり「怖い」と感じたりした時に頼るべきは警察ですが、「警察は敷居が高い」と思う人は少なくないでしょう。
警察に相談する際、準備すべきことや気を付けることは何でしょうか。接触を避けている加害者が突然、目の前に現れたときの切り抜け方と合わせ、被害者・加害者双方のカウンセリング経験が豊富なNPO法人「ヒューマニティ」の小早川明子理事長に解説してもらいました。
【目次】
◇ 相談前にすべき準備
◇ 警察との縁を太く
◇ 警察に相談しにくい場合は
◇ 遭遇時にNGの言動
◇ 「ステルス」ストーカー
◇ 凶悪・スピード化の中で
相談前にすべき準備
警察や弁護士に相談する際、被害者は(1)時系列の経緯(2)背景となる人間関係(3)何が起きているのか(4)何が問題なのか(5)どうしたいのか―を整理しておきましょう。(3)については、SNSやメールの履歴など「つきまとい」の証拠を提出できる状態にしておくべきです。特に、接触を断つ旨を相手に告げた履歴は欠かせない証拠となります。(5)は警察に対する要望です。被害者の多くは、加害者が自分を求めたり攻撃したりする気持ちや手段を捨ててほしいと願っているでしょうから、警察ができる対応の中からいくつかを取り上げて要望するのが良いでしょう。
具体的には、▽加害者を特定してもらいたい(居所を知りたい)/逮捕してもらいたい▽加害者にストーカー規制法の警告を出してもらいたい/禁止命令を出してもらいたい/指導注意をしてもらいたい▽加害者がエスカレートしたときに警告を出してもらいたい▽加害者が保持している自分のプライベート情報を破棄してもらいたい▽加害者に医療機関での受診を促してもらいたい▽加害者の家族に連絡し監視をしてもらいたい▽加害者との交渉を手助けしてほしい―などがあります。要望したことをその通りにしてくれるかどうかは警察の判断ですが、「どうしてほしいか」を伝えなければ何も始まりません。
被害者は「ストーカー加害者の危険度<クリックで図解>」や、自身がどう対応すべきかを客観的に把握できていないケースが多いため、警察で相談する際はあるがままの事実を伝えるよう心がけてください。「大したことない」「大丈夫だと思う」と過小評価してはいけません。もしも警察が真に受けて危険性を正しく認識できなかったら命に関わります。
相談に応じた警察官が名乗らない場合は、必ず氏名を聞いてください。後々警察に連絡を入れる際に役立ちます。
警察との縁を太く
最も肝心なことは、被害者が気を緩ませることなく、警察との縁を太くする努力を重ねることです。「警察に相談した後は万事お任せ」と考えるのは大きな間違いです。例えば強盗事件であれば、ことさら働き掛けなくても警察は積極的に動いてくれますが、違法行為をしていない段階のストーカー相手では警察もできることに限りがあります。
相談を受けた警察は多くの場合、毎月1回、被害者に連絡を取って状況を確認します。ただ、アリバイ的にこなしているケースも散見され、目立った動きがなければ1年ぐらいで機械的に終了しようとします。しかし、ストーカーとの闘いは時に年単位で長期化することが少なからずあります。また、被害者から連絡が来なければ警察は「便りの無いのは良い便り」と安心してしまいがちです。
従って被害者は、定期的に警察に足を運んで「顔つなぎ」をすべきです。変化が無いなら「無し」と状況を報告し、変化があれば助言を求めます。次回の相談日や訪問日を決めておくとよいでしょう。その方が困っていること、恐れていることが伝わります。警察官に近況を報告している中で、「そのSNS投稿は安全ではない」など、自分では気付かない危険を知らせてくれることもあります。
警察に相談しにくい場合は
いきなり警察には相談しにくい場合、当法人などの支援団体や専門家を活用することを考えましょう。警察へ相談に行っても、「どうしましょうね、あなたはどうしたいのですか」と聞き返されて困ってしまう被害者が少なからずいますが、そうした団体や専門家に相談しておけば、警察に何を求めるかが明確になります。
「警告を出した後にストーカーが復讐(ふくしゅう)心を湧きあがらせたりしないか」「(自分の)家族に知られることなく警告を出してもらえるものだろうか」「警察に『今は何もしないでほしい』と言ってしまっても良いだろうか」。そういった警察沙汰にすることへの不安な気持ちを聞いてもらったり、警察には聞きにくいことを質問したりできます。
あるいは、警察に相談した際に、例えば「引っ越しなさい」と指示されたものの、生活の制約やためらいがある場合も、実際的な助言を受けることができます。
遭遇時にNGの言動
万一、逃げている被害者がストーカーと遭遇してしまった場合はどう対応すべきでしょうか。相手は殺すつもりでいるかもれしれない一方、「その前に話をしたい」と最後の望みをかけているケースも少なからずあります。
目の前にストーカーが現れた時、被害者はまず「話を聞くから」と言ってください。大声で叫んだり、走って逃げたりしてはいけません。「もうやめて」「絶対無理」「警察を呼ぶ」といった相手を拒絶するような言葉も、その場では決して発しないでください。
その上で、話をするときは、他に人がいる喫茶店やファミレスへ移動しましょう。二人きりになるのを避けることが肝要です。話を聞きながら隙を見て110番通報するのが望ましいですが、そのチャンスがないようであれば、次に会う予定を決めていったん別れてください。実際に、このように対応して危機を逃れた人がいます。
もっとも、こんな危険な局面は起きないようにするのが一番です。相手が切迫レベルのストーカーで、かつ隔離されていないのであれば、被害者は最低限、相手が把握している自分の立ち寄り場所には行かない自衛の策が必要です。
「ステルス」ストーカー
最後に、警察が把握できないケースもあることを紹介します。被害者が警察に相談する間もなく命を落とし、ストーカー事件と目されることすらない事件も起きているためです。実際に私が扱ったケースで、こんなことがありました。
「大学生の息子が失恋して何週間も寝こんでいる」という相談を受け、私が出向くと男性の部屋は散乱し、割れた瓶や血の付いたティッシュが転がっていました。声を掛けても返事がなく、布団をはいでみると中でうずくまっており、手首には切り傷がありました。入院を勧めましたが親は同意せず、仕方ないので「外出する気配があれば連絡するように」と頼みました。
数日後に電話が鳴りました。当法人の警備員が追尾すると、男性は失恋相手の女性がいる建物に到着しました。警備員が声を掛けると、彼は服の中に刃物を隠し持っており、そのまま入院させました。彼は女性にフラれた後、ストーキング行為を一切見せることなく、秘かに殺意を固めていたのです。「被害の程度〈クリックで関連ページ〉」は「マナーレベル」以下ですが、危険度は「切迫レベル」でした。「被害者」が認知できないまま「切迫性<クリックで図解>」を高めているストーカーも存在するのです。
凶悪・スピード化の中で
SNSの浸透によりストーキングは内在化、凶悪化、スピード化しているように感じます。それでも予兆を発見できるチャンスはゼロではありません。何週間も寝込みながら殺意を固めた男性のように、家族が異変に気付き、相談するケースも少なからずあります。
家族だけでなく、近所の住人や職場の同僚の気付きによって、凶行を防ぐこともできます。異変を感じた際は、ためらわず警察に相談してください。警察の敷居が高ければ、当法人を含む加害者対応をしている機関や、精神福祉センター、配偶者暴力(DV)相談支援センターへ、どこでもよいので相談することを考えてください。
この記事の前編〈ストーカーの凶行を防げ 危険度と切迫性の見極め方〉を読む
小早川明子(こばやかわ・あきこ) 1959年、愛知県生まれ。人材教育の会社勤務の後、独立。美術品の輸入業を経て、1999年に「ヒューマニティ」を設立し、2003年にNPO法人化。ストーカーや配偶者暴力(DV)、各種ハラスメントを解決すべく奔走している。ストーカー問題の第一人者で、これまでに3000人以上の被害者と700人超の加害者に向き合ってきた。警察庁が主催した「ストーカー規制法をめぐる有識者検討会」の委員を複数回務めた他、内閣府の「ストーカー行為等の被害者支援実態等の調査研究事業」の委員も務めた。