不適切な動物実験について謝罪する鹿児島大の橋口照人理事(中央)ら=9日、鹿児島市郡元1丁目
鹿児島大は9日、記者会見を開き、共同獣医学部の総合動物実験施設(鹿児島市郡元1丁目)で2021年7月~25年5月、肺炎症状のある牛の実験が行われ、バイオセーフティーレベル(BSL)2に該当する病原体が検出されていたと発表した。施設はBSL2の安全基準を満たしておらず「不適切だった」と謝罪。周囲への拡散は確認されていないと説明した。
肺炎既往歴のある牛などに抗菌薬を投与して効き目を調べる研究で、計34頭を搬入。病原体「マイコプラズマ・ボビス」と「パスツレラ・ムルトシダ」が検出された。いずれも感染症予防法や家畜伝染病予防法で指定されておらず、法令には違反しないという。マイコプラズマは人には感染せず、パスツレラは犬猫などの口腔内に常在する。
実験責任者の同学部教員が「農場で実施する感染対策や拡散防止措置で実験可能」と誤認したのが原因としている。搬入時に症状はなかったが、21~23年度に扱った29頭のうち約2割は搬入後に発熱があった。
大学側が承認した当初の実験計画書には肺炎既往歴のある牛を使用する記載はなく、学部に対して22年11月、「呼吸器疾患に罹患(りかん)した牛を導入しているのでは」と指摘があった。大学側は23年5月に「肺炎罹患後、臨床的に回復している牛」を使用する計画書を承認したが、実際には症状が出ていた。25年2月に告発を受理し、5月に実験中止を判断した。
会見した橋口照人理事・副学長は「心配をおかけして深くおわびします」と陳謝。郡元キャンパスには付属動物病院もあるが「手袋等の着用や飼育・実験エリアの消毒対応、他個体との隔離がとられており、他の動物に感染拡大する可能性はなかった」と説明。動物実験の自己点検票を改定したほか、本年度内には再発防止策を示す予定とした。
問題の研究は、日本中央競馬会(JRA)の畜産振興事業の一環で、21~26年度に約1億円の助成が見込まれた。
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畜産県鹿児島を支える鹿児島大共同獣医学部で、不適切な動物実験が行われていたことが分かった。農家や大学関係者などからは、適切な管理体制の整備を求める声が上がった。
北薩地区で繁殖牛や子牛を飼う畜産農家(77)は「マイコプラズマ・ボビスに感染すると、中耳炎などを発症することがある」と語る。さらに斜頸(しゃけい)と呼ばれる頭部が傾く症状を引き起こすと価格が下がってしまうという。「治療法の研究は歓迎だが、適切に進めてほしい」と注文する。
塩田康一知事は「県民の安心・安全の観点から、コンプライアンスに沿った対応を」と求めた。
鹿大のある関係者は「研究者倫理に反する。研究そのものに対する信用を損なう」と懸念する。適正な動物実験の推進を図る日本実験動物学会(東京)の外部検証委員会は「管理体制をしっかりして自己点検を行い、外部検証を受けてほしい」とコメントした。
鹿大と共同で、県立財部高校跡地に南九州畜産獣医学拠点(通称SKLV=スクラブ)を開設している曽於市は、スクラブでは不適切な動物実験は行われていない、とした上で「今後も引き続き鹿大をはじめとする関係機関と連携し、多くの人に安心して利用してもらえる施設の運営に努める」とした。