大手IT企業の課長だった神田次郎さん(仮名)は、3年前、突然のリストラを機に、44歳で人生初の転職活動を余儀なくされた。神田さんの転職活動の顛末から透けて見える「中高年転職」のシビアな現実とは――。(文=藤原 達矢)
<span class="c_b">神田次郎</span>さん(仮名)<br />国立大学を卒業後、東証一部上場の大手ソフト ウェア開発会社に入社。管理職としてチームをま とめ、年収は1000万円を超えるも、44歳で突 然のリストラ宣告を受けて、初めての転職活動を スタートする。
神田次郎さん(仮名)
国立大学を卒業後、東証一部上場の大手ソフト ウェア開発会社に入社。管理職としてチームをま とめ、年収は1000万円を超えるも、44歳で突 然のリストラ宣告を受けて、初めての転職活動を スタートする。

 44歳で人生初の転職をした神田次郎さん(仮名)。きっかけはリストラだ。新卒で大手ソフトウエア開発会社に入社。技術部門の課長としての年収は1000万円を超え、「勝ち組」人生を送っていたが、2015年5月末、事業再編を理由に突然の〝雇用関係の解消〟を言い渡される。

 「部長に呼び出された時は、そんな話だとは夢にも思わず、宣告された瞬間は頭が真っ白になりました」と神田さんは当時を述懐する。

 会社が決めた退職日は、3カ月後。転職活動に有利な「自己都合」での退職扱いとし、年収2年分の一時金を支払うという。一瞬絶望の淵に叩き落とされたが、神田さんは腹をくくって、翌日から転職活動をスタートした。

あきらめてもらった夏休みの旅行

 書店で転職ノウハウ本を買い、40代以上で転職活動を経験した人たちのブログを読みあさった。半年前に同じようにリストラされた先輩にも会いに行った。40代の転職は非常に厳しいものの、可能性がないわけではないことも分かり、少しだけ気が楽になった。

 「とはいえ、家族に伝えるのは気が重かった。息子の夏休みにどこか旅行に行きたいね、という話が出たのを機に、ようやく妻に話し、旅行もあきらめてもらえたのですが、息子にはかわいそうなことをしたなと、今でも心が痛みます」

 神田さんは、転職活動に踏み出すに当たり、自分の中で3つの目標を設定した。1つは、退職する3カ月後までに転職先を決め、退職の翌日から新しい会社で働き出すということ。「在職中に転職活動を終わらせないと成功率が下がるという話も耳にしていたし、子供が私立中学に入ったばかりだったこともあって、無収入の期間を作るのは厳しかったからです」

 勤務地にもこだわった。「家族の生活もあるので、東京近郊にある自宅から1時間で通える会社を中心に探しました」。

 妥協したのは年収だ。「3カ月以内に決めるとなると、年収アップや現状維持は難しいはず。4割のダウンまでなら受け入れようと決めました」。

即、内定が出るも「欲が出てしまった」

 6月上旬には複数の転職エージェントサービスに登録し、紹介を受けた企業の面接を受け始めた。ちなみに、最初に面接を受けた会社からはすぐに内定が出たが、辞退した。

 年収は600万円(=4割減)。「こんなに簡単に決まるなら、もっといい条件の会社に入れるのではと、欲が出てしまったのです」。だがその後、納得できる条件の内定を得るまで1カ月半もかかり、大いに苦しむことになる。

 仕事が終わると毎日マクドナルドに陣取り、応募書類を書いたりネットで企業研究をしたりする毎日。「家族に暗い顔を見せたくなかったこともあり、毎日深夜に帰宅していました」。頭の整理に役立ったのがブログだ。「同年代の人が転職ブログを書いているのを見て、自分も試してみようと思い、始めました。見ず知らずの人から励まされたりして、精神的にずいぶん助けられました」。

 応募した企業は60社。面接まで進めたのは16社だ。6月半ばからの1カ月半で、計23回の面接を受けた。「面接は平日の日中に設定されるので、外回りに行くなどとウソをつき、罪悪感を抱えながら会社を抜け出していました」。

多少の創作を交えてでもやる気をアピール

 面接で心がけたのは、退職理由をポジティブに伝えることだ。「きっかけはリストラですが、ネガティブな転職という印象を与えないように、多少の創作を交えてでもやる気があることをアピールした方がよい、とノウハウ本に書いてあった。

 確かにそうだ、と納得し、実践しました」。「○○社は今、変革の時期に差しかかっており、私が所属している事業部も解散することになった。だから、私自身は身を引いて新天地で頑張ろうと、転職を決意しました」。明るい表情でそう話すと、どの面接でも、すんなり受け入れられた。

神田さんの転職History
2015年
5月末前職の直属の上司からリストラを宣告され、翌日から転職に関する情報収集開始
6月前半履歴書や職務経歴書を作成し、転職エージェントサービスに登録(エージェントとの面談4回)。面接の練習開始
6月半ば~1社目で首尾よく内定を得るが、辞退。その後、1カ月半の間に、勤務を続けながら面接計16社・23回をこなす
8月初旬~納得できる内定を得て、転職活動終了。仕事の引き継ぎに注力し、最終日も22時まで残業した
8月末前職を退職(翌日から現勤務先に出社)
転職でこだわった点
  • 3カ月以内に決める
  • 自宅から無理なく通える範囲の場所で探す
  • 年収は4割減までにとどめる(600万円以上は確保する)

転職先で苦闘の日々

 思いのほか苦労したのが、実績のアピールだ。「10年以上に及ぶ管理職経験をアピールできると思っていましたが、マネジメントを誤解していたことに転職活動の途中で気がついた。力を入れていた〝調整〟や〝火消し〟はマネジメントではなかった。数字を作るという意識で仕事をしてこなかったことは大きなマイナスでした」。

 しかも、管理職就任後は直接手を動かす仕事をしてこなかったので、「技術力」も強い武器にはならなかった。「何の疑いもなく前職で管理職のまま定年を迎えると思っていたので、そもそも技術力を上げる必要性を感じていなかった。社内では様々な教育プログラムが用意されていたのに適当に受けたりしていて、今思うと本当にもったいないことをしました」。

 幸い、今の会社の面接者とうまが合い、年収650万円で、技術者として内定を得ることができた。だが、実は今、神田さんは転職先で苦闘の日々を送っている。

 「転職先の技術分野が、私が経験したことのない領域で、ハードルは予想以上に高かった。あまり活躍できているとは言えません」。しかし、「今また転職したら、さらに条件が悪くなる。ここで頑張るしかありません」。今は技術力のアップに励む毎日だという。

神田さんの転職活動のポイント
POINT 1
面接では転職の経緯は〝前向きに〟伝えるようにした。「少々の創作」はアリと判断
POINT 2
面接を必要以上に恐れない。素の自分を出し、言葉のキャッチボールを楽しむように心がけた
POINT 3
「短期決戦」と決めたことがモチベーションの維持にも役立った
POINT 4
転職活動の推移をリアルタイムでブログにアップし、頭を整理するのに役立てた
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