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時間の波打ち際で出会う|濵本奏インタビュー

『SENSE ISLAND/LAND 感覚の島と感覚の地 2024』(2024年10月26日〜12月15日)にて新作を発表した4名の作家、濵本奏、前田梨那、松原茉莉、山本華。今年度は、「Wrapping Buoy (ブイを包む)」をテーマに、横須賀という地に浮上する時間や歴史の絶え間ない変化の標を、それぞれの表現から示している。インタビューでは、横須賀と作品の接点、歴史と記録の関係性、そして写真とは何を表現し得る手段となるのか、話を聞いた。

(インタビュー・執筆/酒井瑛作)

出展作品

《ー・・(チョー タンタン)》
第二次世界大戦の終戦間近、野比海岸では特別な訓練が行われており、その訓練で連日海に潜った若者たちの手記には夏の横須賀の風景や音が記されていました。この夏、私はこれをなぞるように撮影とフィールドレコーディングを行い、訓練をしていた彼らが手綱を引いて海底から海面へ送ったモールス信号を受け取り、2024年の現代から応答をするような作品を制作しました。

特攻兵たちの手記をたどる

──今回の作品と似た形式で《Heimat Loss》という作品がありました。南相馬の小高で滞在制作したもので、詩をもとにしながら土地の記憶を辿り、インスタレーション形式の展示で発表していました。今回は「伏龍特攻隊」の兵士たちの手記を起点に、横須賀の歴史を紐解いています。なぜこの手記だったんでしょうか?

濵本奏(以下、濵本):伏龍特攻隊については、以前から知っていました。昔から鎌倉の由比ヶ浜が自分にとって大切な場所であり拠点なのですが、藤沢方面の稲村ヶ崎には飛び出した崖があります。引き潮のときにぽっかりと四角い長方形の穴を見つけて、明らかに人工的で不思議な場所だと思い調べてみると、伏龍に関連している場所だとわかりました。実際には使われていないのですが、敵が来るのを待つ仮の場所だったようです。16歳の頃から通っていた海で、こんなことがあったということがすごく衝撃で。沖に潜って帰ってこれなかった人がいて、目には見えないけれどもまだそこにいるかもしれないという。それ以来、何か作品を作りたいと考えていました。調べていたときに、横須賀で訓練していたことは知っていたので、制作にあたってより深くリサーチしていくことになりました。

──作品は、伏龍の兵士たちが見ていたであろう風景を辿っていくような内容でした。

濵本:生存者の手記は少ないのですが、いくつかあります。そこには例えば「海岸の裏の小高い丘」と書いてあったりして、地図で見るとここだろうと分かるんです。そういう風景の描写から撮影するものを選んでいました。読んでみて気がついたのは、音の描写がすごく多かったということ。なので、音をメインとした作品にしたいと初期から考えていました。書かれていたのは、潜るときの音や呼吸の音、耳鳴りや無音。潜水服を着て最後に覗き穴のガラスのネジを締めてもらうときに鳴るキーキーという音。それが棺桶の蓋が閉まる音のようだったと書かれていて、ショックを受けたりして。生きたままそんな音を聞くことなんて普通はないですよね。作品のタイトルになっている「ー・・」は、実戦では使われていないのですが、海上の船に向けて海底到着を知らせるモールス信号です。あとはオノマトペによる描写も印象的で。今回は写真だけではなく、はじめて音のフィールドレコーディングをやってみました。

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──テーブルの作品には、たしかに音の描写のページが引用されていました。写真のほうは、濵本さんがリアリティを感じたものを撮っていったんですか?

濵本:探しに行ったという感じで、「おそらくこうだったんじゃないか」と考えながら撮りました。ただ、当時はなかったであろうビルや、対岸の川崎や千葉の工場、その夜景が写り込んでしまうので、現在の自分と彼らが見たものと半々ぐらいに混ざり合って一致するものを探していました。手記をガイドにしながら、いろいろな場所を歩いたり潜ったりしましたね。

重ならない視点

──インスタレーションではまったく写真を使わず、スピーカーとガラスのブイで構成されています。現在が写り込んでしまうという話もありましたが、過去の歴史を再構成して見せるうえで、テーブルの展示とインスタレーションの展示はどういう関係にあるのでしょうか?

濵本:インスタレーションは、彼らが体感していたものに近いリアルさを、イメージなしで想像してほしい。一緒にテーブルの展示をしたのは、より深く知ってほしいと思ったからで、そうなるとイメージのほうが強度があると思いました。手記に戦争が終わっても何も変わらないじゃないか、と書かれていたのが印象的で、もちろん変わっているのですが、変わらないものとして風や波がある、と。頬を撫でる風は、戦争中もそのあとも同じで、そういった一瞬の出来事が現在まで引き延ばされているんじゃないかと感じることが、体感としてありました。

──インスタレーションは、過去と現在を音でつなぐような形で、そちらのほうにリアリティがある。写真のほうは知るという資料的な位置付けで、でも撮影するとなると今が写ってしまう、今しか写せないという濵本さんの音とイメージの捉え方が興味深いです。写真でも音のアプローチのようなものは、ある気がしました。二重露光というか風景が1枚のなかで反射しているようなものがありましたよね。

濵本:自分で制作した鏡の装置をレンズの前につけて撮影しているのですが、沖と岸のどちら側も同時に撮りたいと思って。沖と岸を行き来するなかで戻ってこられなかった人がいて、横須賀の海には彼岸と此岸のような関係がある。それを1枚の写真に収めてみたかったんです。それに、過去と現在と未来が全部1枚に写ってほしいという、本当にそうなっているのかはわかりませんが、そうしたいと思いました。

──複数の場所や時間を織り込むような。

濵本:それは現在の私の視点というよりも、生き物や植物の視点に近いものなんじゃないかと思います。手記には、海に潜っているときに「お前は誰だ?」という目で魚に見られたり、タコに張り付かれたりといった描写がありました。他にも「夜光虫事件」という、沖で光る夜光虫を敵と勘違いして出撃しそうになった出来事についてみなさんが書かれていて。そういう状況でなければ感じられない、人間の直感を超えたような視点があって、でもどこまで手記を読んでもそういう視点はわからないという気持ちもあって。撮っているのは自分ではあるのですが、人として撮るというよりも、何か1枚のフィルターを通して撮ろうという意図はありましたね。音を録るときもそうでした。

──撮り方を変えて、当時の兵士たちの視点であったり、自分ではない視点であろうとした。

濵本:当たり前ですが、でも違ったというのが結論ではありますね。視点を探して2024年現在の私の視点で撮ろうと試みても、そうはならない。今が写ってしまうのもそうだし、その視点ではないということが絶対にあるので、写真のほうは音よりも苦戦しました。ただ、彼らが見たものをなるべく辿っていった部分はあって、手記に書かれていた貝殻や漂流物、押し花もテーブルに置いてあるのですが、そういった過去も現在も変わらないであろうものも集めていました。

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変わり続ける波と記憶

──濵本さんにとって海や波は、これまでの作品にも繰り返し登場するものです。どこか記憶のあり方と重ねられていて、寄せては返すものであったり、固定されたものではないものとして捉えていうように思えます。今回はガラスのブイをテーブルでもインスタレーションでも使っていますが、海とブイの関係性が、記憶と記憶を指し示すものの関係性に似ていると思いました。ブイが置かれている周囲やその水面下に何かがあると示していて、作品においてはこれまで話してきたような見えないもの、過去と現在の距離といったものがあるのではないでしょうか。

濵本:そうですね。リサーチをするにも軍事機密情報だったので名簿やどのくらい人が亡くなったのかという情報が少なく、手に入らない状況でした。なので手記を頼りに、書いた方々の記憶を辿っていくのですが、どこまでが事実かは本当にはわからない、曖昧なものを撮っていくような作業でした。音については、やっぱり追体験することを意識していたかもしれません。そこに写真を持っていかなったのは、写真は体験のツールではないと思ったから。テーブルのほうには制作日記も置いていて、横須賀に通いながら発見したことを書いているのですが、過去を辿りつつ全然違う思い出が入ってきていて。過去に今が混ざっているし、たぶんそこには未来も含まれています。それが海でもあって、過去と現在と未来がすべて一緒になっている空間かなと思っているんですけど。わからなさに近いものでもあると思います。

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──濵本さんは、廃墟に写真を展示する「Vanishing Point」というシリーズも制作しています。廃墟は、今回のような具体的な歴史や記憶を辿ることのできる場所というよりは、歴史化されてない無名の場所として捉えているように思います。それぞれの場所で写真を見せることについてはどう考えていますか?

濵本:まず廃虚のほうは偶然に出会うことが重要で、場所の背景というよりもドライブしていてエンカウントする体験に振り切っています。廃墟に写真を貼るのも、たまたま誰かが「これ何?」と見つけて、また新たな出会いが生まれたらという期待がすごく大きい。今回はもともと鎌倉の由比ヶ浜に通っていたことがあって知ったというきっかけの衝撃が大きくて。空の特攻隊は有名ですが、伏龍は知らなかった。今立っている場所からは見えないけれど、彼らがここにいたという事実がある。だから誰かに見てほしいという廃墟の期待感とは違って、多くの人に目に見える形で見てほしい。というか、目に見えないけれどある、その状態を見てもらいたいと思いました。

──出会うという話があって、それは何が写っている写真かということだけではなく、出会うプロセスまで考えているわけですよね。理想的な出会い方というか。そのときに、写真との出会いにふさわしい場所は、どういう場所なんだろうかと思いました。

濵本:今回は当てはまらないかもしれないですが、一定ではない場所がそれに当たると思います。あとは写真と記憶をテーマにしているので、自然の作用と人の作用がある場所。どこでも変化があって一定ではないのですが、例えば波とか変化が体感としてわかるところですかね。もし明日大きな地震が起きたらすべてが大きく変わってしまうと思うのですが、それも含めて変わらないものはない。それらに対抗するのではなく、受け入れられるような場所で見せていきたいですね。

──テーブルの作品は、額装したり貼り付けたりせず、ただ配置されていて変わりうるものじゃないですか。写真や物の配置は、仮設的ですよね。

濵本:そうですね。お子さんがずらしちゃったり、そういうことが起きます。テーブルの写真に関しては、過去のものを探して撮った現在があそこに置いたら過去になって、でもこれから見られるであろう未来もある。ちょっと話はずれるんですが、ニライカナイ信仰で亡くなった人が沖に渡って、生まれ変わってこちらに戻ってくるという考え方があります。波打ち際みたいに、生と死や過去と現在と未来が循環していて、一緒にある。写真も、過去にも未来にもなるのだと思います。

インタビュー・執筆/酒井瑛作

濵本奏/Kanade Hamamoto
2000年生まれ。人やものや土地が持つ「記憶」をおもなテーマに、壊れたカメラを用いた撮影方法や、ミクストメディア的な手法を導入し、制作をおこなう写真家。

*展示の詳細は以下をご覧ください



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東京フォトグラフィックリサーチは、2020年代を迎えた東京を舞台に、最先端の写真・映像表現を通じて未だ見ぬ都市と社会と人びとの姿を探求し、見出されたヴィジョンを未来へ受け継ぐことを目的としたアートプロジェクトです。 www.tokyophotographicresearch.jp
時間の波打ち際で出会う|濵本奏インタビュー|東京フォトグラフィックリサーチ
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