そういう運命だから
爪切ってたら思いついた話なので、暖かい目で見てください。
腐要素はありません。が、主は「蘇枋総受け」が好きなので、意図せず入ってるかも…。
結局何が言いたいんやって話です。
あれはっ!妖怪〝オッシーダイスーキ〟!!
妖怪不祥事案件、『推しって特別扱いしたくなるよねー』を引き起こすことで有名でうぃすっ!
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とぽぽぽぽ……
茶を淹れる音がする。
ここはどこにでもある喫茶店だ。
「おはようございます、蘇枋さん」
「おはよう、にれくん。今日は早いね」
朝日が優しく射すカウンターで、蘇枋が微笑む。
「はい!なんだか今日は目覚めが良くて」
「ふふっ、にれくん、」
「?」
楡井の名を呼び、自分の頭をとんとん、と軽く叩く蘇枋。
「?」を浮かべながら頭に手を伸ばす楡井。
「あ゛っ」
楡井の頭にはもふもふとした狸の耳があった。
「もうすぐ開けるからちゃんと仕舞ってね?」
「ぅ…はい……」
楡井は立派な化け狸である。
しかし、まだひよっこなのも事実で……
「早く1人前になって、このヒヤヒヤする日常から抜け出したいです……」
「あははっ応援するよ」
蘇枋は爽やかに笑い、先程淹れた茶を楡井に渡す。
「ありがとうございます」と両手で受け取り、1口飲んで心を落ち着かせる。
息を吐けば、みるみるうちに耳が引っ込んでいった。
「ふぅ……」
「わぁ、上手になってきたね」
蘇枋は優しく微笑み、楡井の頭の上に葉っぱを乗せる。
「よし、これでお昼急に変身術が解けたりすることはないね」
「毎度毎度ありがとうございます…」
「早く1人前になろうね」
「はいっ!」
楡井は頭の葉っぱを隠すようにパンチング帽を被る。
11時00分。営業開始。
チリンチリン
風鈴が鳴る。
『𝙾𝙿𝙴𝙽』と書いてある看板を出した数分後に早速店内に客が入る。
「「いらっしゃいませ」」
「おー、おはよーさん!」
あ、常連の方だ。と楡井は思った。
楡井がここでバイトするよりも前から通っていたのか、蘇枋とタメ口で世間話ができる人の中の1人だ。
いや、人ではない。
関西弁で喋る脳筋そうな男こと、柘浦 大河。
彼は世間一般で言うところの〝鬼〟である。
「なぁ蘇枋!この後暇やったら一緒に〝まっするぱわー〟に行かへん?」
「遠慮しとくよ」
「なんでやー!」と悔しがる柘浦と、にこにこしながら茶を注ぐ蘇枋。
楡井はこの光景を毎日のように見ていた。
「あはは、飽きないですね…」
「当たり前や!いつかOKが出るかもしれん!」
「何光年後の話だい?」
柘浦の目の前にいつもの茶を出す蘇枋。
「ワシは諦めへん!」と言い、その茶を一気に飲む柘浦。
ふと、蘇枋が口を開く。
「あれ?コーヒー豆がない…」
「ほんとですね。昨日で使っちゃったんでしょうか?」
「オレちょっと買い出しに行ってくるね」
蘇枋はエプロンを解き、「お店、よろしくね」と言って出ていく。
「………なぁ、楡井くん」
「?はい、なんでしょう」
柘浦は、蘇枋が出ていくと急に声を潜めて喋り出した。
何があっても大きな声で喋る柘浦らしくないと感じた楡井も声を潜めた。
「蘇枋って、なんの妖怪なん?」
楡井は目を開いた。
「え、柘浦さん知らないんですか?」
「長いこと一緒にいるんやけど、ずっと人間の姿しか見たことないねん…」
「なんでオレに聞いたんですか?」
「だって蘇枋は楡井くんの変身術の師匠なんやろ?」
たしかに、蘇枋は楡井の師匠である。しかし、師匠といっても口頭で教えたりするものが多く、蘇枋が化けるころは見たことがないのだ。
「実は、オレも知らないんです……」
「楡井くんも知らんのかぁぁ!」
「くそー!」とやや後ろに倒れ頭をくしゃくしゃとかく柘浦。
「柘浦さん的に蘇枋さんはなんの妖怪だと思いますか?」
「そらもちろん〝鬼〟やろ!」
柘浦はどこか自信満々に答える。
「え、なんでですか?」
「ワシと蘇枋が初めて会った場所が地獄やったんや!」
「あれはざっと600年前や……」と柘浦が懐かしみだしたところだった。
チリンチリン
「あ、いらっしゃいませ」
「はぁぁ、中涼しー!」
日傘を差しながら店内に入ってきたのは、ピンク髪とピアスが特徴の男だった。
「あ、桐生さ……って香水強っ!?」
少し近づいた瞬間、香水の強烈な匂いが漂ってくる。
「しょうがないでしょぉ?こうしないと魚臭いんだもん」
「それにしても強すぎますって!他のお客様の迷惑にもなりかねますから…」
「まだ人いないじゃーん」
「ワシ居るで??」
「なんのお茶がいいですか?」
「うーん…ここは無難に紅茶にしよっかな」
「え、無視ひどない?」
楡井は蘇枋から教わった通りに丁寧に注ぐ。
「にれちゃんも上手くなってきたねー」
桐生は楡井に貰った紅茶を1口啜る。
「にしても今日暑いよー」
「まだ夏じゃないのに太陽がギラギラしてますもんね…」
朝は優しかったが、昼になると牙を向いてくる太陽に苦笑する。
「皿が乾いちゃうよぉ…」
「大変やなぁ」
この喫茶店の第2の常連客である桐生。彼もまた人でなく、妖怪である。
その名は〝河童〟だ。
「はい、桐生さん。これでも食べて元気だしてください」
楡井は綺麗に切ってあるキュウリを桐生の目の前に置いた。
「ちょっとにれちゃん!?河童だからってなんでもキュウリ食べれば元気になるとかないからね!?」
そう言いつつも、キュウリを頬張る桐生。
「説得力ないっすよ…」
楡井は苦笑いした。
チリンチリン
また風鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ」
「……」
入ってきたのは黒と白に分かれた髪色が特徴の男であった。
店の内装をムスッとした顔で見回し、カウンターに近づいてくる。
「あ、こちらメニューとなっておりまして…」
「オーナーはどこだ」
「はい??」
楡井はクレーマーかと思い、身構える。
「ほら、眼帯とシャラシャラしたピアスつけてる奴だよ」
「今は買い出しに行かれてて、いらっしゃいません」
「…そうかよ」
男はドスッとカウンター席に座り、大人しくメニューを見始めた。
楡井は、なんだったんだと思いながらも笑顔で男が注文するのを待つ。
「…なぁ、お前バイトか?」
「え、オレですか?…まぁ、バイトみたいなものです」
楡井は蘇枋に拾われた身であり、行くあてもないので蘇枋の手伝いをしているだけである。
「どうしたらここでバイトができる?」
「え?」
目の前にいる男はどうやら、この喫茶店で働きたいらしい。
「すみません、そもそもうちは今バイト募集してないんです…」
オッドアイの眼が大きく開かれる。
「そうかよ…」と男が小さく呟いたときだった。
チリンチリン
「いらっしゃ…あ、蘇枋さん!おかえりなさい!」
蘇枋がコーヒー豆が入ったエコバッグをさげて入ってくる。
「わぁ、やっぱり三大妖怪が揃ってるねぇ」
「ただいま」と言いながらカウンターまで進む蘇枋。
「え?三大妖怪…?」
「ん?今にれくんの目の前に座ってる三人のことだよ?」
「柘浦さんは〝鬼〟、桐生さんは〝河童〟……てことは…」
蘇枋は男の肩に手を置く。
「この子は桜 遥くん。〝天狗〟だよ!」
「えぇっ!?!?」
ツートーン髪の男、桜は、「離せっ!」といって蘇枋の手を振り払う。
だが、その顔は真っ赤だ。
「まさか桜くんの方から来てくれるだなんて」
「悪いかよ…」
「いや、嬉しいなって思って」
さらりと言う蘇枋を見て、ボンッとさらに赤くなる桜。
「うわわっ水!」
楡井は慌てて水を桜に差し出す。
桜はその水を一気に飲み干し、自身を落ち着かせた。
「サンキュ、助かった。えぇっと…」
「楡井って言います!」
「楡井か」
それから5人で他愛もない話をし、時には一般客への接客などをした。
そうしているうちに時刻はあっという間に15時を回っていた。
「さぁ、そろそろ忙しくなるよ」
蘇枋が軽くストレッチをする。
「ふぅ、」
チリンチリン
蘇枋が目を開いた瞬間、たくさんの一般客が入ってくる。
休憩はできないな、と楡井は悟った。
「いらっしゃいませ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「疲れたぁ…」
「にれくん、お疲れ様」
楡井ににこりと笑いかける蘇枋。
蘇枋は、楡井の倍は動いていたにも関わらず、汗ひとつかいていなかった。
「で、君たちはいつまでいるの?もう閉店するよ?」
「えぇ?こんな暑い中帰ったらオレ死んじゃうー」
「やっぱこの後〝まっするぱわー〟に行かへん!?」
「………」
「はぁ……」
蘇枋はため息をつく。
「じゃあ、オレ先に看板片しときますね」
「うん、お願い」
「よいしょ、」
楡井は外にある看板を持って入ろうとした。が、叶わなかった。
ある人物に呼び止められたのだ。
「あれ、もう閉店?」
振り返ると、黒髪の男がいた。
「あ、すみません…19時にはもう閉まってしまうんです…」
「ふーん。そっか、ざんねーん」
男が何を考えているのかさっぱり分からない顔で喋る姿を見て、楡井はだんだんとこの男のことを気味悪く感じた。
「また明日にでも……」
そう言って店内に入ろうとした瞬間だった。
「あ、待ってよ〝たぬきくん〟」
「っ!?」
楡井は無意識に男から距離をとる。
手に持っていた看板が投げ出され、ガタンッと音がなる。
「そんな警戒すんなよ」
ケラケラ笑う男を見る。
自分の腰や頭を触っても、狸のそれはない。
「なんでオレのことを……」
「そんなの今どうでもいいだろ?」
男は店内に入ろうとする。
まずい。楡井は本能的にそう思った。
ドアの前へ行き、両手を広げて通せんぼする。
「………邪魔なんだけど」
「お引き取りねがいます」
「いやだ」と不気味な笑みを見せる男。
楡井は背筋が凍って行くのを感じた。
チリンチリン
「ねぇ、何してるの?」
楡井の後ろからよく知る声が聞こえてくる。
他の誰でもない、蘇枋の声だ。
「!蘇枋さん!」
「お客様……ではなさそうだね。にれくんに何か用ですか?」
楡井を庇うようにして前に出る蘇枋。
そのため、男とゼロ距離になる。
「オレが用あんのはそいつじゃなくてさ…」
視線が店内へ行く。
ドアが開いた状態であるため、目が合う。
「ほらいた!桜、来いよ」
男は手をヒラヒラさせ、桜を誘う。
「っ誰が行くかよ」
「お前が来ないんならこっちから行くぜ」
そう言って歩き出そうとする男を蘇枋は背負い投げする。
男は倒れることなく、ジャンプして蘇枋から距離をとった。
「オレがいる限り、店の中には入らせませんよ」
「ふははっ!お前面白ぇな!蘇枋つったか?」
「オレは棪堂 哉真斗だ」と言い、手を差しだして握手を求める。
「馴れ合うつもりはありません」
「それは残念」
キッパリと断りを入れる蘇枋に棪堂はニヤリと笑うと、自身の変身術を解いた。
「あれは…!」
「どったのつげちゃん」
「大変なことになったで…」
棪堂からは角が生え、だんだんと身体が大きくなっていく。
「お、鬼……!?」
「あいつは〝酒呑童子〟や」
「「酒呑童子!?」」
楡井と桐生の声が重なる。
「あの日本三大悪妖怪の!?」
「………すまん、」
ずっと下を向き、苦虫を噛み潰したような顔をしていた桜が口を開いた。
「大丈夫だよ桜くん。オレが君を守るって約束したじゃないか」
「でも、こんままじゃお前が…!」
「大丈夫や!桜くんいうたか?ほれ、ワシらも居るやないか!」
「そうだよ桜ちゃん」
桜は隣に座っている2人を見る。
その目はみるみるうちに潤ってきていた。
「およ?泣いちゃった?」
「な、泣いてねぇっ!」
「よぉし!これが終わったらみんなで晩飯食いに行こか!」
「さんせーい」
2人は立って、桜の方を見る。
「ワシは柘浦 大河や!」
「オレは桐生 三輝だよー」
2人の変身術が解かれる。
「あんまりこの姿にはなりたくないねー」
桐生はそう言いながら水道の水を一気にだす。
「にれちゃん、すおちゃん。水道代頑張ってね」
「えー、桐生くんが払ってよ」
「お金もってるわけないでしょ」
2人の呑気な会話に、待ちきれなくなってきた棪堂こと、酒呑童子。
「なあ、終わったか?」
その顔はイライラしているのか、少ししかめっ面になっている。
「よっしゃ、3人で畳みかけよかっ!」
ダッと走り出す2人。
柘浦はどこからか金棒をだし、思いっきり棪堂に当てる。
桐生は水道の水を操り、先程柘浦が攻撃した場所に連続で攻撃する。
〝地獄の門番〟と〝水の神〟の共闘が始まった。
「ふはっ!この程度か!」
「くそ、かったいわ」
柘浦の美学は『まず相手に一発殴らせてから殴る』だが、酒呑童子の攻撃を一発でも食らったらたまったもんじゃない。
この場合は先手必勝である。
2人が何度も攻撃を試みるが、棪堂は痛くも痒くも無い様子で笑っていた。
「もう終わりか?」
その瞬間、棪堂は背後に気配を感じ、振り返る。
そこには天狗の翼が生えた桜が棪堂を蹴りあげようとしていた。
棪堂はそれを難なく避ける。
「おいおい、殺気がダダ漏れだぜ?」
「クソがっ」
「だからオレがお前を大天狗にしてやるって」
「余計な世話だな」
桜は蘇枋たちがいる方へひとっ飛びした。
「はぁ、」
棪堂はため息をつき、5人を見る。
「一気に片付けるか」
不敵な笑みの後に、桜たちは息が詰まるような圧を感じる。
「「「「!?」」」」
上から押しつぶされそうになる4人。
声をだす余裕もなく、ただ棪堂を睨みつけるしかなかった。
「あれ?お前には効かねぇの?」
棪堂は1人だけ悠々と立っている蘇枋に疑問を抱く。
蘇枋はにこりと笑い、指を鳴らす。
パチンッ
すると、桜たちを押さえつけていた圧がフッと消える。
「あ゛?」
「やるならもう少し質の高いものにしてください」
余裕の笑みで棪堂を見る蘇枋。しかし、目の奥は冷えきっていた。
「お前、人間じゃねぇな」
「おや?人間だと思っててくれてたんですね」
蘇枋はシャラリとタッセルピアスを鳴らし、ゆっくり変身術を解いていく。
「蘇枋さん……まさか貴方…!」
香ばしい香りの煙がどこからともなく現れ、蘇枋を包み込む。
頭には金色の長い耳が生え、腰からは1本、また1本と、計9本のしっぽがふわりと姿を見せる。
「天狐様だったんですか…!?」
「ふはっ九尾の狐かよ!通りで効かねぇわけだ」
凛と立つその姿は、『綺麗』とも『華麗』とも表現ができないほど神秘的である。
〝絵にも描けないような美しさ〟とはこのことを言うのだろうか。
蘇枋は眼帯をシュルリと外し、棪堂をまっすぐ見る。
その眼は真っ白で、とても冷たかった。
「この子たちはオレのお客様と可愛い弟子なんでね。指1本触れさせませんよ」
「いいぃねぇぇっ!」
棪堂は興奮で身体がゾクゾクしていた。
喫茶店に結界が張られる。
「!おい、蘇枋!1人で戦う気か!」
「すおちゃん!流石に危ないよ!」
「せやで!死んでもうたら元も子もないで!」
「蘇枋さん……」
蘇枋は振り向かない。
「命知らずは嫌いじゃあないぜ?」
「貴方にオレは殺せませんよ」
棪堂は地面に思い切り拳を突きつける。
衝撃で地面が割れたかと思うと、一気に蘇枋の足もとまでくる。
蘇枋は素早く避け、トンッと地面を蹴り、空中浮遊をする。
「割って足場を悪くしようとしたんですね。でも残念。オレは飛べますよ」
「はっ!んじゃあ空中戦になるなぁ!」
棪堂はジャンプし、蘇枋がいるところまで飛んでくる。
蘇枋は手を前にし、無数の狐火をだす。狐火は棪堂を取り囲み、そのまま爆発する。
しかし、煙の中から現れたのは、無傷の棪堂だった。
「この程度か?九尾」
「ふふ、お遊びはもう飽きましたか?酒呑童子さん」
煽り合いがスタートする。
下からは空中の様子が確認できないため、4人はヒヤヒヤしながら蘇枋の無事を祈っていた。
時々聞こえてくる強い衝撃音に冷や汗がでる。
「何も出来ないってこんなにも苦しいんですね…」
「今すぐにでもあっちに行って応戦したいけど、すおちゃんの足を引っ張りかねないし…」
辺りはすっかり暗くなり、視界不良になっていく。
棪堂は暗闇を味方につけ、蘇枋の腹めがけて突進する。
咄嗟に避けたものの、棪堂の爪が脇腹にくい込み、皮膚がえぐられた。
「っ!」
蘇枋は少し汗を流すも、平然を装う。
弱みを見せてはいけない。
「はぁ!こんなに身体を動かしたのは久々だぜ!」
「っは、よかったですね」
蘇枋と棪堂が次の攻撃をしようと構えたところだった。
突然空がピカリと光り、ゴロゴロ……と雷鳴が聞こえてきた。
今日は一日中晴れである。また、雨が降るでもなく雷鳴だけが聞こえてくることに蘇枋は違和感を覚える。
「あぁ、お別れの時間だ」
「は、?」
「楽しかったぜ、白面金毛九尾の狐」
「まだ終わってな、」
「また来るからな」
そう言って棪堂は姿を消した。
いつの間にか雷鳴は聞こえなくなっていた。
「蘇枋っっ!!!」
桜の声でハッと我にかえる。
「ごめんね、今解くよ」
蘇枋は喫茶店前まで降り、結界を解除した。
「大丈夫かいな!?」
「怪我とかない!?」
「一旦中に入って休憩しましょう!?」
口々に言葉を発する3人。
「大丈夫だよ」
蘇枋は再度人間の姿に化ける。
桜は笑顔で返す蘇枋の脇腹を掴んだ。
「!っ……」
「怪我、あんじゃねぇか」
「いや、大したものじゃないよ」
「それはオレが判断する」
服を脱ぎ、傷を確認する。
そこには、5cmほどえぐられた跡があり、血がダラダラとでていた。
「すおちゃん、これは……」
「ね?大したことないでしょ?」
「なんで隠すんだ」
「隠してなんかないさ。それにこの傷、見た目の割にそこまで痛くないんだよね」
そう言うが、汗をだし顔が青白くなる蘇枋では説得力は皆無であった。
「うっ…」
「蘇枋!血がっ…き、救急車か…!?」
「オレ、救急箱持ってきます!」
「救急車はもうオレが呼んだからつげちゃんは落ち着いて!?」
慌てる3人。
「蘇枋。聞こえるか?」
「さ…くらく、ん?」
サイレンの音がする。
「はは…、かっこ悪いね、」
そう言って蘇枋は眠りについた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、
機械音がうるさい。
重たい瞼を開ける。
ここはどこだ?
白い天井にたくさん身体につけられている線。
蘇枋はズキズキと痛む頭を回し、思い返す。
そうか、酒呑童子と戦って……それで………
ここは病院か。
ガラガラッと扉が開く音がする。
カーテンが開かれ、女性看護師と目が合う。
「あ!起きたんですね!貴方、3日間眠ったままだったんですよ!」
「え、?そんなに……すみません…」
「うふふ、謝ることないですよ!それにこの3日間、お見舞いに来てくれてたお友達がもうすぐいらっしゃると思うので、力抜いてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
看護師はにこりと笑いかけた。
「体調の方はどうですか?」
「少し、痛むくらいです」
嘘だ。本当は今にも破裂するのではないかと思うくらいの痛みがあちこちにある。が、蘇枋お得意の笑みで誤魔化す。
「それは良かったです!」
そう言って、看護師はゆっくりと蘇枋に近づく。
「?どうかしましたか?」
「やっぱり凄いですね、〝九尾の狐の生命力〟は」
「……え、?」
蘇枋の背筋がぞわりとする。
看護師の目は真っ黒で、その顔は見た事のある不敵な笑みを浮かべていた。
「っ、まさか…!」
起き上がろうとしたが、脇腹にこれ以上ない激痛が走り、そのままベッドに沈み込む。
「あんまり動かねぇ方がいいぜ?お前にくれたのは即死効果がある猛毒だからな」
「はははっ!」と声高々に笑う看護師。
間違いない。こいつは棪堂だ。と蘇枋は思う。
「またやり合えることを楽しみにしてっから、こんなとこで死ぬなよ」
猛毒をよこしたのは君じゃないか、と蘇枋は言いそうになったが、やめた。
言ったら負けな気がしたから。
「じゃあなぁ」
カーテンを閉め、手をヒラヒラさせながら歩いていく看護師姿の棪堂。
扉が閉まる音がする。
「……どうしようか」
応える人はいなかった。
数十分ほど経ち、再び扉が開く。
蘇枋は反射的に構えた。
「今日も眠ったままだったらどうしましょう…」
「おい!縁起悪いこと言うな!」
「そうだよにれちゃん、絶対いつか起きるから!」
「せやで!ワシはあいつ連れて〝まっするぱわー〟に行くんやから!絶対死なせへんで!」
「そうですよね!」
聞き慣れた声だ。
蘇枋は一気に脱力する。たった3日間会わなかっただけだが、懐かしく感じるのは気のせいだろうか。
シャッ
カーテンが勢いよく開かれる。
「やぁ、みんな」
蘇枋は優しく微笑む。
それを見て、4人の顔が明るくなる。
「蘇枋さぁ゛ぁぁぁん!!!」
楡井が泣きだす。
「あははっにれくん泣かないで」
「だって…だってぇ……」
ズビッズビッと鼻を鳴らす楡井。
「もぉぉ!すっごい心配したんだからね!?」
「蘇枋ぉ゛ぉぉぉぉぉ!!」
涙目になりながら言う桐生と、男泣きを見せる柘浦。
「うん、ごめんね」
蘇枋は眉を下げ、困り顔をする。
「………蘇枋、」
「ん?桜くん?」
桜はお見舞いの品が入った袋を握りしめ、声を絞り出す。
「お……、おかえり」
すぐにそっぽを向く桜。
その耳は湯気が出てしまうのではないかと思うくらい真っ赤だ。
蘇枋は口に手を当てる。
「ふふ、ただいま」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
晴れて退院した数日後、桜から
「ここでバイトしてぇ!」と言われた蘇枋。
また桜が狙われるかもしれないと思った蘇枋は、二つ返事で了承した。
チリンチリン
「い、いらっしゃいませ…」
「いや、もっと元気よく言ってください!」
「蘇枋!行く気になったか!?」
「なんのことかな?」
柘浦の誘いを今日もはっきり断る蘇枋。
チリンチリン
「らっしゃっせー!!」
「ここファミレスじゃないですよ!?」
「およ?すおちゃん、漫才コンビでも雇ったの?」
「かもしれないね」
「そこは否定してくださいよぉ!」
「あははっ」
☆-----------------------------
敢えて、あの病院での出来事は言わないでおくよ。もしまた来ても、オレだけが傷つけばいいからね。
君たちは知らなくていいんだよ。
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「おい、蘇枋。どうかしたか?」
「いや、桜くんってバカだなって思って」
「はぁ!?」
「ちょっ!お二人ともやめてくださいぃ!」
☆-----------------------------
〝桜くんを守る〟は言ってしまえば建前だ。
本当はずっとこのまま、君たちと平穏に暮らしたいんだよね。
あいつが来た時は命と引き換えに君たちを守るから。
だからせめて、オレが死ぬまでは君たちと笑い合っていたいな。
自分でもずるいと思ってるよ。
でもほら、狐はずるい生き物でしょう?
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とぽぽぽぽ……
蘇枋はゆっくり丁寧に茶を注ぎ、コトッと急須を置く。
☆-----------------------------
茶の葉を見る度に毎回思うことがある。
なぜ椿はあんなにも綺麗なんだろう、って。
……オレと一緒のはずなのにね。
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タッセルピアスがシャラリと鳴る。
☆-----------------------------
きっと次の戦いでオレは死ぬ。
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蘇枋は横腹にそっと手を添える。
☆-----------------------------
痛みはない。傷跡が少し残っているだけ。
でも分かってしまうんだ。
これはただの傷では無いことが。
だからこそ、全力で〝護る〟ね。
-----------------------------
ポチャン…
蘇枋が流した一滴の涙が、注いだ茶におちる。
この音に誰か1人でも気づいていたら、蘇枋が歩む運命はまた違ったのだろうか。否、そんなことはない。
END