あなたがいたから。
両片想いの高三みのはるが同棲するまで。
2023年2月25日に出した「MORE MORE PARALLEL!」という同人誌に収録していた書き下ろし話の再録です。当時と今では矛盾する設定も多いですが、お目こぼしくださいまし。
カバーイラスト・挿絵はサカキさん(user/80055532)に描いていただいたものを許諾のうえ再録させていただいております。本当に可愛い…本当に本当に可愛い…。
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特に印象に残っているライブはありますか?
サマーライブのパンフレット用にもらったアンケート用紙の質問に、私は順調に滑らせていたシャープペンシルを止めていた。
あまりにも選択肢が多すぎて──。
印象に残っていないライブが一つもなくて、どれにすればいいか困ってしまったのだ。
「……一番印象に、ではないんだよね……」
なら言葉遊びの範疇だけど、最初に思い浮かんだライブにしてしまおうとライブ名を書き記してから……流石に『MORE MORE JUMP!』の一員である今、このライブを挙げるのはダメだよねと苦笑した。
『HONEY』。
中学一年生の頃──まだ『ASRUN』だった頃、乙女なハニーマスタードという楽曲のリリースに合わせて行った全国ツアーだ。
私個人としても初のトロッコが楽しくて、怒られたことまで含めてよく覚えているんだけど……。
「今はもう、それだけじゃないもんね」
────一緒に歌おう!
トロッコの上から、そんな声を掛けた。
驚くべきことに私は、その時私の声の先にいた女の子と、高校一年生のある日に再会を果たすのだ。
……私がそのことに気付いたのは、残念ながらずっと後の話なんだけど。
胸を張って『運命の出会い』だと言いたい。
あの子は私の大ファンだから、あのライブにいたのは自然なことだ。
でも、私とあの子の間にある当然はそれだけ。
偶然、テレビで私を見つけてくれた。
偶然、宮益坂女子学園の屋上で出会えた。
偶然、愛莉や雫と巡り合えて──。
そんな風に幾重もの偶然を重ねた末に私とあの子は今、同じアイドルユニットで一緒に歌っている。
それに。
がんばろうね、遥ちゃん!
今日のステージ──最後まで駆け抜けよう。
……一緒に!
「……正確には、『HONEY』だけの思い出ではなかったみたいだね」
記憶を順々に追ってたどり着いたのは、モモジャン初のワンマンライブ前に紡がれた言葉だった。
花里みのり。
私の恩人。私の、大切な人。
あなたがくれた宝物のような言葉は、思い返すだけで自然と私の頬を緩ませた。
「……どっちのライブも書いちゃおうかな。きっとみんなも許してくれるだろうし」
二つのライブについてアンケート用紙に記しながら、あのワンマンライブから一年半が過ぎた今もあの子に真相を教えていないことを思い出した。
みのりはきっと、このパンフレットで初めて知ることになるんだよね。
反応が可愛くてつい内緒にしちゃったけど。
私も『HONEY』のことを意識して、みのりに声をかけたんだよ。
……一緒に、って。
「……どうしてトロッコに夢中になっちゃったんだろう。あの日のみのりの顔、見たかったなぁ」
あのライブ唯一の心残りだ。
みのりは『HONEY』の桐谷遥を鮮明に覚えているけれど、私はDVDの後ろ姿しか知らない。
アンケートに一式回答し終え、誤字脱字が無いかを確認したところで──ちなみに紙なのは私たちの筆跡をそのままスキャンしてパンフレットに収録するためだ──何気なく机の引き出しを開ける。
大切なものをしまった棚の中から、手紙を一枚。
大大大だーい好きな遥ちゃんへ
誕生日に貰った手紙。
彼女の無防備な好意に苦笑する。
「……私も大好きだよ、みのり」
その言葉を、本人に伝えたことはないけれど。
あのワンマンライブから私たちの距離はより一層に縮まった。そして私がみのりへの感謝や友情を恋心へ育てるのに、そう時間はかからなかった。
とはいえ想いは伝えないまま、高三になったけど。
最初から伝える気はなかった。
私もあの子もアイドルだから、別に恋人にならなくてもいいんだ。今はみのりと共に描いた夢を、一緒に進んでいきたい。
それに……もう二年以上一緒にいるのに、みのりは今でも私のことを「好き」だと言ってくれるし。
恋愛的な意味がなくても、みのりの一番は桐谷遥。
そう信じさせてくれるだけの好意を、私は彼女からずっと貰っている。
「……さて」
明日もモモジャンのみんなと一緒に、サマーライブに向けたレッスンだ。無事に回答し終えたアンケートをファイルにしまい、ホットアイピローへ手を伸ばした。
日野森雫。
桃井愛莉。
桐谷遥。
そして、花里みのり。
私たち『MORE MORE JUMP!』は結成から二年の時を経て、私とみのりは高校三年生の夏を迎えていた。
何度でも読んでも最高