第109話 留置場の近藤

―近藤視点―


 まったく退屈だぜ。留置場に捕まって1日が経過した。弁護士の話によると、3日位で出られるらしい。今頃、親父が全部、解決してくれるために動いてくれているはずなので、大丈夫だろう。


 昨日、弁護士の先生と話して、かなり精神的に楽になった。余計なことをしゃべらなければ、あとは逃げ切れるはずだ。少しの我慢で、俺はいつもの生活に戻ることができる。あとは、大学に行って、サッカーを頑張って、輝かしいプロ生活が待っているはずだ。


 この短い時間を我慢すれば、きっと親父と弁護士の先生が助けてくれる。

 さあ、ずっと黙秘を続ける。あとは、それを続ければいい。


「反省しています」

 とだけ言っておけば、いいって言ってた。大丈夫だ。


「近藤君、弁護士の先生が来ているよ」

 えっ、と思う。昨日来たばかりで、朝に来るのか。何か言い忘れたことでもあったんだろか。嫌な予感がする。


 ※


「誠二君、大変なことになりました」

 弁護士先生は、真っ青になっていた。


「なにがあったんですか」

 おそるおそる聞く。震えた声で弁護士は続けた。


「落ち着いて聞いてくれ。どうやら、キミのお父さんは、キミを助けるために、学校や被害者宅に乗り込んだらしい」

 それを聞いて、やっぱり親父は頼りになると思った。きっと圧力をかけたり、金で解決しようとしてくれたんだ。俺を助けるために……


「じゃあ、俺はそろそろ出られるんですね!! さすが、親父だ。上級国民はこうじゃなくちゃ!! あー、親父が偉くて助かったぜ」

 高笑いを必死に抑える。だが、続く言葉は非情だった。


「違うんだよ、誠二君。キミのお父さんは、学校と被害者家族を脅迫してしまったんだ。そして、その音声が流出した。今、お父さんは全国ニュースに取り上げられて炎上している。正午に記者会見するらしい。おそらく、謝罪会見だ」

 えっ、何を言ってるんだよ。なんで、上級国民のはずの俺たちが頭を下げなくちゃいけなくなるんだ。そんなのおかしいじゃん。


 俺が無言で震えていると、先生は続ける。


「悪いことはさらにある。実は、キミのことは素性は未成年だから報じられていないんだけど、すでにネットでは、特定されてしまっているようだ。議員が各種インタビューで、息子がサッカーの有力選手だとしゃべっていたから、たぶん、それで……君は、ユース代表とかに選ばれていたから、そこそこ有名だったせいで、すぐに特定されてしまった。SNSやネットの掲示板、特定サイトでは、写真付きでキミの名前がでてしまっている」

 血の気が引いていくのがわかった。


「じゃ、じゃあ、俺の今後はどうなるんだよ。大学の推薦は、大丈夫なんだよな。俺は将来、サッカーで日本代表になって、海外で……大活躍するはずなんだよね」


「正直に言おう。それは無理だ。もう誰もキミのことがをごまかせない。すでに、ネットの有名人になってしまった以上は、大学側でもキミを受け入れることはないだろう。推薦は、絶望的だし、そもそも高校側で退学処分を下される可能性も高いよ」


「嘘だ、嘘だ、嘘だ。親父や俺は上級国民で……」


「残念ながら、キミのお父さんの党は、除名処分にするらしい。議員の地位も失えば、会社を維持することも難しくなるだろう。キミたちはすべてを失う」


「どうにかしてくれよ、先生。だって、先生は、敏腕弁護士で……高い金を払って俺たちが雇っているはず……」


「だから、言っただろう。キミたちはすべて失ったって。こちらまで泥船と一緒に沈むつもりはないよ。ここで手を引かせてもらうよ。キミたちのようなバカたちから、お金や地位を取ったら何が残る。金の切れ目が縁の切れ目だろう。こちらまで飛び火されても困るからね。もう、キミたちとはこれっきりだよ」

 

「待ってくれ。あんたに手を引かれたら、誰が俺たちを守ってくれるんだ!! 助けてくれよ、もう、俺には先生しか……」


「申し訳ないけど、キミたちではもう僕の報酬は払えそうにもないよ。ただ働きはごめんだから、これで終わりにしよう。もう、会うこともないだろうけど、頑張って生きてくれ」

 俺の悲鳴を無視して、先生はすたすた歩いて部屋を出てしまう。本当の意味で俺の転落が始まった。

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