第104話 近藤議員の除名

―党支部(近藤議員視点)―


 支部長の部屋に通された。

 職員たちは緊張感ある目でこちらを見つめている。重苦しい雰囲気が、あたりを包んでいた。職員たちはまるで、罪人を見るような冷たい目でこちらをにらみつけている。ここから、始まる惨劇を感じさせる。


 うちの支部長は国会議員が務めている。忙してほとんど会えない人間が、わざわざこんな朝早くに呼び出す。ほとんど死刑宣告だ。


 秘書がドアを開けて、支部長が入ってくる。思わず起立して、頭を下げた。


「このたびは、ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 俺はひたすら頭を下げた。もしかしたら、不問に付してくれるかもしれないという甘い希望にすがるしかない。


 重い沈黙が部屋に流れる。


「キミは自分が何をしたのか、わかっているのか?」

 その言葉が、甘い期待を粉々に打ち砕く。


「本当に申し訳ございません」

 土下座するかのように、頭を下げる。支部長は、テレビをつけた。


 そこでは、俺の録音された声が怒号を上げていた。昨日の校長や青野家に対して言い放った暴言が繰り返し流されている。さらに、さきほどのマスコミに対応した時の映像もだ。


 テロップには、「話題の脅迫市議、辞任を否定」、「暴言市議、レポーターに黙れと威圧」、「全国から批難の声。○○市に苦情の電話殺到」と書かれている。


「キミに市長選出馬を勧めたのは、私の完全に失敗だったようだね。今年は統一地方選もある。我々もキミを擁護するのは厳しいんだよ。わかるね。それも、南前市長や山田県議からも抗議が届いているよ。どうしてくれるんだ。彼らは、この地域でもトップクラスの有力者だよ。彼らと敵対することは、こちらとしても自殺行為だ」

 残酷な現実をひたすら突きつけられていく。震えが止まらない。

 市長選のために、たくさんの金を集めていた。すでに、準備のために金も使っている。それが全部無駄になる。職すら失う寸前の身にとっては、絶望が深くなる。


「本当に……」

 何度目かわからない謝罪の言葉を発しようとしたが、それは止められた。


「もう君が私に謝るレベルのことではないよ。今回の件は、中央も問題視している。南さんや山田県議からも正式な場で説明責任を果たすようにと言われてしまっている。すでに、キミは問題行為で除名される見通しだ。その前に記者会見を開き、誠心誠意謝罪し、自分の非を認めろ。そうすれば、我々の傷も浅くなる」

 その無慈悲な言葉に、思わず目をカッと開いて、すがりつく。だが、昨日の少女の言葉が頭から離れなかった。党の中央や支部の反応があまりに早すぎる。これは、つまりそういうことなのか……


 俺の破滅は止まらない。


「さすがに、それは……」

 支部長は不快の表情を見せてすがりつくこちらを拒絶する。今まで以上に語尾が荒くなった。


「キミに選択権があると思うのか。これは温情だよ。拒否するのであれば、我々も敵に回るということを忘れるな」

 その気迫に、思わず「ひぃ」という情けない悲鳴をあげてしまう。

 仮に、支部長を説得できても、もっと上にいる昨日の少女の父親は黙らせることができない。


「わかったか。すでに、記者会見の会場は抑えている。このメモのホテルに、開始時間の1時間前に到着しなさい。あとは、うちの秘書がすべて手配しているから」

 全面降伏。もう、この後は全自動コンベヤに乗せられて、ただ破滅に向かうだけになるはず。もう会社もおしまいだ。俺は全部失う。


 昨日まで、俺は次期市長候補で順風満帆なキャリアを歩んでいたはずなのに。1日ですべてを失ってしまった。この後に待ち構えるのは、全国に醜態を流されて、ネットのおもちゃにされて、少しずつ全部失われていくのを何もせずに見ていることしかできない。


 富も名声も幸せも全部、なくなってしまう。残された猶予は、あと数時間。選ばれた人間だったはずなのに……その上を行く力を持った人間たちの前では、何もできない赤子みたいな存在だったことにようやく気付かされてしまう。


 いやだ、いやだ。泣き崩れていく俺に誰も手を差し伸べてはくれない。誰も助けてくれない。


「おい、逃げないように監視しておけよ。これ以上、恥をかかされたらたまらんからな」

 もう扱いが罪人のそれになっている。破滅への階段をゆっくり上がっていくのを自覚した。

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