第103話 同級生の反応
―同級生(村田)視点―
朝起きると、ワイドショーで近藤先輩のお父さんのニュースが報道されていた。
近藤さんがいつも自慢していたお父さん像が崩れ落ちていく。
「えっ」と思うすきもなく、その無慈悲な報道が真実を暴いていった。
近藤市議は、息子の暴力行為やいじめ問題をもみ消すために、学校や被害者家族に圧力をかけたが、逆にその音声が流出してしまったこと。
暴力行為を受け、いじめられていた被害者は、人命救助で表彰されたほど優しい生徒で、ネット上ではありもしない噂を流されて、誹謗中傷まで受けていたこと。
そして、朝の直撃に対して、レポーターを威圧して追い払ったことも。
もう、完全に悪徳政治家になっていた。
校長先生と近藤さんのお父さんと思われる怒声の録音がテレビから聞こえてくる。
※
「こちらが下手になって聞いていれば、調子に乗った発言ばかり。いいか、あなたは市議会議員だ。本来なら市民の模範になるべき立場の職業のはず。身内の問題に関しても、本来であれば、一番に責任を感じなければいけない人間ですよ。それが、自分のことは棚に上げて、職務に忠実に励んでいる○○先生を貶めるなど、言語道断っ。あなたは、市民の税金で報酬をいただいている責任ある立場の人間のはず。にもかかわらず、学校側に子供が行った暴力事件の隠ぺいを強要する。ふざけるな。それは、あんたに投票した市民の信頼すら裏切る最低の行為だ」
「何を……こんなことが表沙汰になれば、学校の威信がどうなるか。あんたみたいな青い正義感を振りかざす校長のせいで、歴史と伝統があるこの高校の看板が傷つくことになるんですよ」
「その程度で、傷つく威信に、何を誇ればいいのでしょうか。むしろ、その程度のことで後ろ指をさされるのであれば、私は学校長として恥ずかしい。いいですか、暴力事件やいじめを野放しにして、意味のない歴史や伝統を守ることに何の価値があるんだ。誇るべき伝統とは、この学校で学んで巣立っていく生徒一人一人が作っていくものです。その伝統を作る子供たちの未来を犠牲にしてまで、過去にこだわることにどんな価値がある。それは、教育の目的と意義を勘違いしているだけに過ぎない」
「生徒一人を守れずに、教育者など務まるはずがありません。生徒を守るためなら、その程度の傷、安いものです。近藤議員は何か勘違いなさっているのではありませんか。○○君は、法律的にやってはいけないことをしたのです。それを教えてあげることも教師の仕事です。守ることと甘やかすことは違うのですよ」
※
この校長先生の言葉は、ネットで大反響を生んでいるらしい。朝の報道番組は、SNS上でつぶやかれているリアルタイムの反応も伝えていた。
「校長先生すごい。普通、議員に怖くて言えないよ」
「いじめ事件が起きたのはたしかに残念だったけど、こういう学校には子供を安心して任せられるよね」
「学校っていじめを隠ぺいする場所だと思っていたのに」
「これが本来の教育ってやつか……」
「少し前に報道されていた別の学校の先生たちはひどかったもんな」
「ちょっと、感動した」
両親は、うんうんとうなずいていた。
「これ、律の学校のことよね。こんなに立派な先生たちがいるなら安心ね」
お母さんが普通の反応を見せる。
これが普通なんだ。でも、自分は普通じゃない。どうして、感動できないのか。それは、私がこの問題の当事者だから。
怖い、怖い、怖い。青野君のいじめ問題がここまで大事になってしまったのが怖い。私は、SNSで青野君にひどい言葉を投げつけたし、机の落書きにも協力した。
つまり、世間から見れば、私たちは……
この醜悪な議員や息子に協力した加害者ってことになる。
最初は軽い気持ちだった。だって、サッカー部の男子たちが、青野君のことをどんどん悪口を言えみたいな雰囲気を作っていたし。彼が悪いことをしたんだから、自分たちは彼を裁いても大丈夫だと思ってしまった。美雪のことを信用してたし、サッカー部の男子たちともよくカラオケに行ったりして仲が良かった。それに比べて、青野君は、少し影が薄いというか。あまり面識もなかった。
青野君が暴力を振るったことが嘘だと知らなかった。私たちはだまされたんだ。だから、大丈夫。キチンと話せば……
悪いのは、噂を流したサッカー部たちと美雪だもん。私たちは、サッカー部の男子と仲良かっただけで、あいつらと比べたら悪いことなんてしてない。
でも、本当はそれは許されないと分かっていた。ただ、自分の都合の良い考えを信じようとしていただけ。
電子音が鳴る。
それは追撃だった。スマホが鳴っていた。メッセージは同じクラスの美香からだった。
「大変だよ。この前のいじめの件で、サッカー部の相田達が謹慎だって!! 2年と3年のサッカー部員のほとんどが謹慎で、噂だと停学か退学になるって言ってる。どうしよう、私たちも、もしかして……」
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