第99話 英治の小説
俺はすぐに通知を確認する。
そこにはたくさんのコメントが書かれていた。閲覧数は、1日で4万人と表示されていた。
ビックリするとともに少し怖くなる。まさか、書いた内容がまずくて炎上しているとかないよな。すぐにコメント欄を確認した。
※
「短編小説なのに、感情がぐちゃぐちゃになった。でも、最後の読後感は清々しくて、本当におもしろかった。次回作にも期待」
「今、3回読んでしまいました。何度読んでも面白い傑作」
「すごい完成度。プロ作家の別名義だったりして?」
「レビューも書きました。優しい気持ちになれる小説で、明日も頑張ろうと思いました」
「仕事で失敗して落ち込んでいたけど、すべて吹き飛んだ。書籍化期待」
※
ほとんどのコメントが温かい感想で埋め尽くされている。それ以外は、誤字の指摘くらいで、本当に嬉しいコメントが積み重ねられていた。感動で、視界が潤んだ。高校の文芸部用に書いた小説なのに、まさかここまでたくさんの人に届くなんて……
本当だったら部長たちに捨てられていたはずの小説。一条さんのおかげで、原稿を取り戻すことができて、彼女の勧めでウェブサイトに投稿して……
もう頭が上がらない。全部、一条さんのおかげだと思う。
奥から母さんと一緒に出てきた彼女の元に走った。サトシがビックリしている。
「一条さん、これ見て!」
やっぱり、一番は彼女に教えなくちゃいけないと思った。大恩人だから。
「えっ、どうしたんですか? あっ、これ、この前の小説ですよね。えっ、えっ!? 閲覧数4万ってすごいじゃないですか。ランキングも一桁ですよ!!」
いつもは冷静な彼女も珍しく動揺している。俺が見落としていたランキングに気づいたのは、さすがというか。
「すごいじゃない。英治の小説こんなに人気なのね。ねぇ、お兄ちゃん、南さん、見て!!」
母さんは、よく分からないまま皆に広めていく。
「先輩、このお知らせって何ですか?」
俺はうながされて赤文字で書かれた運営からのお知らせをクリックする。
そこにはこう書かれていた。
※
青野英治様
こちらは小説投稿サイト、マルヨム運営のものです。
あなたの作品について、○○出版様から、ぜひとも今後発行する短編小説を集めたアンソロジー集に収録したいとご連絡がありました。また、先方は、もし書いている他の小説があれば、読ませていただきたいとのことです。
可否等について、こちらのメッセージにご返信願います。可能であれば、こちらから出版者様の方にお取次ぎ致します。
※
一瞬、書いてある内容がよく理解できなかった。
一条さんが一番に口を開いた。
「すごい。やっぱり、先輩の小説はおもしろかったんですよ。出版社が声をかけてくるくらいに!!」
その言葉に触発されて、俺たちは一斉に歓喜の声をあげる。忘れることができない幸せな時間が始まった。
※
―文芸部部長視点―
近藤君は警察に捕まったらしい。ギリギリSNSのメッセージの消去がうまくいってよかった。たぶん、この前の暴力事件や嘘の情報をネットに流して、英治君を貶めたから被害届でもだされたんだと認識している。
損切が早くて助かった。あんな馬鹿な男に入れ込んで一緒に破滅するなんてごめんだもん。そんなの、エリさんと天田さんの2人が地獄に落ちればいいだけで。
あたしは、安全地帯からそれを楽しく眺めていればいい。最高のシチュエーションを一番いいところで見学できる。
そんな時、スマホが鳴った。文芸部の後輩からだ。
「先輩、大変です。マルヨムのサイト見てください。あの小説が、あの小説が……なぜか、ランキングの上の方にいるんです!!」
「何を言っているの? マルヨムね。ちょっと待って、すぐにひら……えっ!?」
ランキングの上位に、あるはずのない小説のタイトルを見つけた。
だって、あの小説は部室に原稿があったから、捨ててしまったはず。原稿データの予備があった? でも、そもそも、あの精神状態の彼が、ウェブサイトに小説を投稿できるはずが……
他人の空似だろう。きっと、似たようなタイトルに偶然なってしまっただけで、別物のはず。自分よりも先に後輩が世間に認められるはずがない。そうなって欲しくない。
嫉妬の気持ちが心で渦のようにドロドロと動き出す。絶望的な劣等感を自覚するまで、あと少しと信じずに、私はその小説の閲覧ページを開いた。そして、絶望というパンドラの箱を開いたことに、その時はまだ気づかなかった。
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