第96話 遠藤とゆみ
―遠藤視点、自宅―
ネットニュースで、近藤たちの破滅のニュースを見ていた。まだ、実名は出てないけど、時間の問題だろう。これで、本当にある意味、俺の復讐は完了する。
この問題が広まれば、近藤の父親はもう終わりだろう。市議の仕事は辞職だろうし、本業の建築業もダメになるはずだ。近藤市議の会社は、自分の身分を活用して、市や県から仕事を引っ張っているらしい。先代からの伝統だ。それがダメになれば、あいつらの生命線が崩壊する。
今回の件で、近藤家はいじめ問題や暴力沙汰の件で損害賠償も発生するだろうし、本業の方が大きなダメージを負うことで廃業に向かうだろう。
これで、俺の復讐も……やっと……
数年間、ずっと考えていた日がやっと来たのに、心は晴れなかった。
だって、青野君の名誉が回復されていないから。俺が絶望に沈んでいた時に、ゆみ以外で初めて手を差し伸べてくれた友達だった。今になって思うけど、やっぱり本当に大事な友達だったんだと思う。彼の名誉が回復されなければ、本当の復讐は終わらない。
複雑な気持ちで、天井を見つめるていると、スマホが鳴った。ラインのメッセージだった。高校の友人かと思って、確認すると懐かしい名前が表示されていた。
堂本ゆみ:「こんばんは。突然でごめん。明日の夕方時間作れるかな。もっと話したいことがあるの。やっぱりこの前の短い時間じゃ足りなくて!」
今井に、今度ラーメンでも奢らないといけないな。そんな風に、自然と思えた。この数年間はずっと暗い気持ちと近藤への恨みが永遠にループしていたのに。今それが消えかけていると、懐かしい中学の友達と会いたくなる。
俺はすぐに返信する。
「どこで、待ち合わせしようか?」
と。もう、会うことが前提になっていることに驚く自分がいた。
高柳先生は、帰り際にこう言っていた。
「もう、自分自身を許してあげてもいい時期だと思うよ。遠藤は頑張ったんだから。自分が幸せになることも、近藤たちに対する復讐だと思う。あいつらがうらやむほど、幸せになる資格があるし、それは義務だ」
今まで、自分はそんな資格があるなんて思えなかった。
親にたくさんの迷惑をかけてしまった。高校浪人という親不孝もしてしまった。友達との縁もほとんど途切れてしまった。エリの件だって、俺がもっとしっかりしていれば、違う未来があったかもしれない。そうやって、自分はずっと最低の人間だと思っていた。
でも、その発想自体が、周囲と自分を苦しめていたと気づく。今井も高柳先生も、自分を許してやれと言ってくれた。俺は前に進んでもいいのかもしれない。だから、ずっと拒絶し、傷つけてしまっていたゆみにやっと向き合うことができる。
彼女の好意にこたえたい。もう遅いかもしれない。それなら仕方ない。俺は謝ることしかできない。でも、せめてしっかりと謝りたい。あの日、差し伸べてくれた手がどれだけありがたかったか伝えなくちゃいけない。
「じゃあ、明日の放課後に駅前で。行きたいカフェがあるから付き合ってくれる?」
俺はすぐに彼女に返信した。
「楽しみにしているよ」って。
※
―近藤家(近藤市議視点)―
秘書からすぐにネットニュースを見て欲しいとメッセージがあった。
そこには、さきほどの自分の言動が録音されて、全世界に配信されていた。おそらく、ネットの特定班がすぐにこちらの素性までたどりつくはず。
そして、一条愛による脅迫で、もう、どうすることもできない。それこそ、彼女を敵に回したら、マスコミ以上の敵ににらまれることになる。
どちらの道に進んでも、俺は破滅だ。破滅への運命を逃れることはできない。
「いやだぁぁっぁっぁああああああぁっぁぁっぁぁ!!」
広い家に絶叫が響く。この家を手放さなくちゃいけなくなるのも時間の問題だ。厳しい現実が、こちらに牙を向いてくる。
スマホが鳴った。
「近藤さんの電話番号でお間違いないでしょか。夜分に失礼します。日朝新聞の七海と申しますが……」
どうやって、この番号をかぎつけたんだ。恐怖で、電話を切る。別の番号から、すぐに電話がかかってきた。
「俺はもう……ダメだ」
スマホの電源をシャットダウンする。しかし、すぐに家の固定電話が鳴る。電源線を引っこ抜く。残酷な現実から逃げるために。
現実逃避。今の行動は、その意味しかないことに気づきつつ。
「やめてくれ。いやだぁぁっぁっぁああああああぁっぁぁっぁぁ!!」
眠れない夜は続いていく。
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