第94話 処分に動き出す学校
―高柳視点―
遠藤との話し合いを終えて、職員室で今日の総括をおこなうことになった。たくさんの先生たちが協力して、事情を確認したためそれぞれの状況の報告会も兼ねている。
俺が最初に口を開いた。
「まず、サッカー部ですが、青野の机に落書きをして嫌がらせをした相田と上田が自分たちがやったと自供しました。昨日、サッカー部1年生から提供があったSNSのメッセージ履歴や録音された音声を確認させたら、逃げられないと思ったのでしょう。嘘の情報の拡散に関与したことも認めていますし、サッカー部以外の協力者の存在も徐々に認め始めています」
ふたりは最初は強く抵抗していたが、内部から流出したデータが決め手になった。状況の確認をおこなってくれた学年主任の岩井先生によると、その写しを見せた瞬間に顔面を真っ青にして震えあがったらしい。
もう逃げられないと観念した人間は、壊れたラジオのように、すべてを話し始める。報告を続ける。
「やはり、首謀者は、近藤ですね。上田と相田は、尊敬していた先輩の言葉に従ってしまった。サッカー部のキャプテンからもそそのかされて、犯罪行為に手を染めてしまったようです」
俺の後に、近藤の近況について教頭先生が続ける。
「また、近藤は、いじめの被害者である青野英治君を学校外で直接殴った暴行の容疑と、事情を聞きに来た警察に抵抗し、物を投げつけたことで公務執行妨害の現行犯となり、警察に捕まっているようですね。さきほど、警察から正式に連絡がありました」
諸悪の根源である近藤がとりあえず、もう動けなくなったのはある意味良かった。これ以上、混乱が広まるのをある程度はおさえることができるだろう。
三井先生も続いた。
「青野君のよからぬ嘘のうわさが流れた件ですが、そちらについては、2年生の天田美雪さんも自分が関与したことを告白しています。青野君と付き合っていた彼女は、近藤君と浮気してしまって、自分の保身のために近藤君の甘い言葉に従ってしまったようです。暴力のあざを偽装して、自分が悲劇のヒロインになろうとしたと。噂が広まるとは思っていなかったようですが、このような大ごとになり、怖くなってしまって否定することもできなかったと」
優等生として知られる天田が道を踏み外してしまったことを改めて報告されると、多くの教師陣がため息をついた。こんな大事になる前に、せめてきちんと話してくれていれば……そういう後悔も含まれている。だが、彼女は別の道を選んでしまった。処分は不可避だろう。
「そして、これは未確認の情報ですが、天田さんが言っていたので、皆さんにも報告しておきます。真偽はわかりませんが、学校全体で、情報を共有しておかなければいけないことです。青野君は、浮気の件と嘘の情報が拡散されたことのショックで、自殺をしようとしていたらしいです」
その報告を聞いて、教師たちの目の色が変わった。青野が自殺しようとしていた。もしかしたら、隠しているだけで、今でも苦しみ続けているのかもしれないと思うと、胸が締め付けられるような気持ちになる。
体育教師の熊田先生も、思わず言葉が出てしまったようだ。
「もしかして、始業式の日か? 俺、状況も知らずに、学校から逃げようとしていた青野に怒鳴ってしまったんだよ。もう少し事情を聞いたりしてやれれば……くそ」
厳しい指導で有名な熊田先生だが、こういう時に善良な本性が出る。大きな身体を震わせて、後悔をにじませていた。
いや、それなら担任の俺の方がもっと責任が大きいはずだ。もう少し早く気づいてやることもできたと思う。教頭先生や三井先生に任せず、自分から青野のことを探しに行くべきだった。後悔ばかりが思い出される。
「この問題が発生してから、1週間ほどずっと青野君を見てきましたが、やはり登校初日の精神的なダメージは大きかったと思います。2日目以降はかなり安定していたように見えましたが、我慢しているだけかもしれませんし、やはり最善の注意を払うべきかと」
教師陣が暗い顔をしていると、校長先生が一番に口を開いた。
「報告ありがとう。やはり、今後も我々は被害者の青野君にしっかり寄り添う必要があると思う。大事な話だ。この会議が終わり次第、私の方から、彼の保護者に情報を共有しよう。スクールカウンセラーの方も明日、こちらに来てくれるそうなので、しっかり連携していく方針で」
校長は、本当に大事な時は自分から動いてくれている。とてもありがたかった。
「そして、明日以降、騒ぎを聞きつけたメディアなども動き出すかもしれない。ただし、今回の問題に関与し、犯罪行為に手を染めた生徒の処分は厳格に行わなければならない。そして、青野君と他の生徒を守ることが我々の責務だ。外からどんな圧力があったとしても、その方針は絶対に変えない。さきほどの三井先生の報告のように、今後は言いにくいことが判明するかもしれない。それはきちんと皆と共有して欲しい。最終的な責任は、すべて私が取るから、先生方は安心して職務に励んでほしい。以上」
校長先生は覚悟を固めたように力強く宣言する。このいじめ問題もいよいよ佳境に突入した。
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