第77話 クズたちの本質

―近藤視点―


 あーあ。めんどくせぇな。朝から臨時全校集会かよ。

 なんだ、なんかトラブルか。

 まさかとは思うが、あのホテルの件がバレたのか。いや、そんなはずがない。だって、親父はバレることはないって言ってたんだ。


 大丈夫だ。心配し過ぎているだけ。


 そう考えていると校長の話が始まった。


 ※


「良いお話と悪いお話。2つの話があります。まずは、悪い話からです。実は、警察の方から夏休みの先々週に隣りの市で起きた暴行事件に本学の生徒が関与している可能性が高いと連絡がありました。まだ、警察の方では、本当に本学の生徒か誰か特定はできていないそうです。ですが、仮に本校の生徒が間違いを犯してしまった場合は、それを正す義務が学校にはあります。この場でとは言いません。心当たりがある生徒や何か知っている者がいれば、正午までに担任の先生に申し出てください。嘘はいけません。調べればわかってしまうことですので。念のために言っておきます。これは、最後通告です」


 ※


 何を言っているんだ。校長の視線がこちらを見ているようで気分が悪くなる。

 いや、これは俺じゃない。俺の話なんかじゃない。


 誰かが「青野の件じゃないか」と言った。そうだ、これは青野の話で、美雪に暴力を振るったからそれについて言っているに決まっている。


 信じたくない。俺は王様だ。だから、何をしてもいいんだ。

 だいたい、あの場所には監視カメラもなかったはず。警察だって近くにいなかったし、誰かが通報したとしても、俺たちはすぐに立ち去ったのだから、証拠なんて残るはずがない。


 そして、校長は続けた。

 青野と一条愛が人命救助して、消防に表彰されると……


 この瞬間、俺は自分がはめられたことに気づく。

 高柳のあのやる気のない態度や適当な取り調べは、ただの演技。俺たちを油断させるための……


 そして、すべての証拠を集めた段階で、俺に最後通告を叩きつけてきたということだな。逃げたり証拠を消そうとする余裕すら与えないために。


 なぜわかったのか。それは、今回の悪い話を出した後に、青野の表彰の件を切り出す。そうすることで、生徒たちの考えもうまく誘導できるはず。


 噂の件で、青野英治は暴力男という認識が広まっている。だから、ほとんどの生徒は暴力沙汰の件を話せば、青野の顔を思い浮かべるだろう。だが、その直後に、あいつの表彰や人命救助の功績を話すことで、噂の信ぴょう性がかなり揺らぐ。


 これは演出になっていたんだ。俺が流した噂を崩すための。


「ちくしょう。なめやがって」

 こうなったら、親父に連絡して、学校側に圧力をかけてもらうしか……

 そこで気づく。


 スマホは昨日、自分で壊してしまったことに。これじゃあ、電話ができない……

 

「くそっ」

 小さな声で悪態をつくが、誰にも届かない。


 女の悲鳴が聞こえた。教師を呼ぶ声が聞こえる。誰かが貧血で倒れたようだな。生徒たちは混乱して、列を乱していた。


 チャンスだ。俺は混乱に乗じて、体育館の出口に走る。このまま学校を脱出して、親父に連絡して助けてもらう。


 逮捕なんかされたら、俺は終わりだ。サッカーの夢も女も全部、いなくなる。そうなったら、俺は俺じゃなくなってしまう。


 早く、早く、早く。

 俺はひとりで学校から逃げ出した。


 ※


―文芸部部長視点―


 校長の話と近藤君が慌てて逃げていく様子を見て、「おもしろいことになったわね」と内心でほくそ笑む。


 そっか。近藤君、バレちゃったんだ。お気の毒ね。

 でも、彼のために、私が動いたら、こっちまで破滅しちゃうかもしれないし。


「あなたはここで終わりみたいね。バイバイ、近藤君」

 彼と連絡用に作っておいたSNSのアカウントを削除する。もちろんメッセージ履歴も完全に消して。これで、私たちの関係は完全に消えてなくなった。


 仮に、英治君の件で何か追及されても、こちらも噂にだまされていた。彼には申し訳ないことをしてしまった。謝りたいとでも言っておけば、学校側は問題ないはず。他の生徒たちも拡散に協力した人間はたくさんいる。すべてを処分することなんてできっこない。


 まぁ、英治君の私物をこちらで処分してしまったのはやりすぎたかもしれないけど、部員同士でいくらでも口裏を合わせればいい。誰も自分が処罰されることなんて望まないはず。


 近藤君っていうおもちゃは壊れちゃったけど、まだ壊れる過程を見ることができる。それはそれでおもしろいよね。


 彼って悪ぶって「自分はサイコパス」なんて言ってたけど、しょせんは偽物。


「さあ、今後の物語も楽しみましょうか」


 ※


―高柳視点―


 近藤があわてて体育館から逃げていくのを横目で見ていた。

 

「バカだな、ここで逃げれば、ほとんど自供したも同然だろう。あいつらなら、これも利用するだろうな。青野が暴力事件を起こしていないと判明した上に、天田との関係が急に近づいた近藤。そして、今回の不自然な逃亡劇。噂なんて簡単に広まるぞ。まぁ、それはお前が一番よくわかっているだろうけどさ」

 クズ男に辟易へきえきしながら、俺は倒れた天田美雪のために、持ち場を離れた。

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