第76話 臨時の全校集会

―美雪視点―


 夢を見ていた。

 英治と自分が学校の屋上にいる夢。私は何度も英治に声をかけるんだけど、彼はこちらが見えていないように無視して、ゆっくりと屋上から身体を乗り出した。


「やめて、英治。ごめんなさい。謝るから、変な真似はやめて。死ななきゃいけないのは、あなたじゃない。私のほうなの。いやだ、いやだ、あなたを失いたくない。私が悪いのに、どうして自分を責めるの。ひとりぼっちにしないで。あなたがいなくなちゃったら、本当に一人になっちゃう」

 こちらの悲鳴は彼には届かない。

 そして、青白い顔をした彼はこちらをにらみつけるように数十秒見ながら、次の瞬間には宙を舞った。彼の絶望した顔がこう訴えてくる。


「お前のせいで俺は死ななくちゃいけなくなったんだ」

 鈍い音がした。グランドは真っ赤に染まっている。

 自分の中で何かが壊れた音がする。


「夢だよね」

 脂汗と共に目が覚めた。重い身体で学校まで向かう。何も食べる気にならない。

 英治が死んでいたかもしれない。その罪の重さで自分はどうにかなってしまうかもしれない。それがたまらなく怖い。


 ※


 学校に着いてからも、誰ともしゃべらずに、うつろな目で一限が始まるのを待つ。

 このまま貧血で倒れてしまえばどんなに楽だろう。死んでしまいたい。


「皆、聞いてくれ。緊急で全校集会が開催されることとなった。体育館に集まってくれ」

 高柳先生の言葉を聞いて、ゾンビのようにそちらに向かう。周囲が無理しない方がいいと言ってくれている。そんな優しい言葉をかけてもらう資格もないのに。むしろ、誰かに詰め寄って欲しかった。


 英治に怒られて、罵声を浴びて、はたかれたら少しは気持ちが楽になっていたと思う。でも、彼は「好きの反対は無関心」という言葉と共に、それを行動で示した。もう、一緒にいることはできなくなった。英治は、最低の私を前にしても、最低限の配慮を示したうえで、冷たく切り捨てた。


 それは仕方のないことだと頭で理解していても、自分にとってはショックでたまらない。


 何度も泣きそうになりながら、全校集会へと向かう。


 ※


「今回皆さんに集まっていただいたのは、2つのことをお話しするためです」

 校長先生はいつになく、神妙な面持ちでそう言った。

 普段なら長い話になるはずなのに、今回は単刀直入に彼はきりだしていく。


「良いお話と悪いお話。2つの話があります。まずは、悪い話からです。実は、警察の方から夏休みの先々週に隣りの市で起きた暴行事件に本学の生徒が関与している可能性が高いと連絡がありました。まだ、警察の方では、本当に本学の生徒か誰か特定はできていないそうです。ですが、仮に本校の生徒が間違いを犯してしまった場合は、それを正す義務が学校にはあります。この場でとは言いません。心当たりがある生徒や何か知っている者がいれば、正午までに担任の先生に申し出てください。嘘はいけません。調べればわかってしまうことですので。念のために言っておきます。これは、最後通告です」

 その話を聞いて、心臓が苦しくなる。たぶん、近藤さんと英治のことだ。ついに、なにかわかってしまったのかもしれない。学校はすでに動いている。警察? じゃあ、私たちまた捕まっちゃうの……周囲もただならぬ雰囲気にざわざわし始める。


 ※


「ねぇ、これってSNSで流れてきた青野英治の件じゃね?」

「天田さんに暴力振るった噂の?」

「ああ、ついに警察沙汰か」


 ※


 違う。そうじゃない。悪いのは私たちでそれは、真っ赤な嘘なのに。

 こちらが罪悪感で崩れ落ちそうになると、校長先生は口調を明るくして話を続ける。


「それでは、良いニュースも。おとといの土曜日。2年生の青野英治君と1年生の一条愛さんが、路上倒れていた男性の救命活動を行いました。倒れた男性は迅速な措置のおかげで病院に運ばれましたが、命に別状はないということです。近々、消防の方から2人に表彰があるそうです。私は本学の生徒がこのような立派な行動を行ってくれたことに、学校長として誇りに思います。みなさんもふたりを見習って、本学の生徒として周囲の見本となるような行動を示してください。それでは、ふたりに盛大な拍手を」


 ※


「えっ、青野英治が人助け? 暴力を振るったんじゃないの?」

「そもそも、さっきの話の後に、わざわざ青野を褒めるような真似するか? もしかして、あの噂が間違いだったんじゃ……」

「だよね。だって、警察沙汰を起こしたはずの人を消防が表彰するなんてありえない」

「じゃあ、誰かが嘘をついているってことか!?」


 ※


 身の毛もよだつ恐怖が私を包む。ろくに食事もできていなかったことで、目がかすみ、私はまた体育館の床に倒れた。

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