第72話 遠藤の計画

―遠藤視点―


 夕方の公園で、今の計画の進捗を確認する。


 サッカー部の連携には完全にくさびを打ち込んだ。あとは自然に空中分解するのを待つだけだ。あの部活の中で、一番近藤に近い満田を逆に孤立させることもできたはず。そのうち、あの写真の件が近藤の耳にまで届くだろう。そうすれば、部内でも一番信用していたはずの人間に裏切られたという絶望感でおかしくなるはず。


 そして、近藤と天田美雪の関係も崩れれば、あいつは完全に孤立する。

 これは、俺と青野君が味わった絶望をあいつにそのまま返すための作戦だ。


 青野英治という被害者に比べれば、俺が感じた苦しさ何て……幼馴染に裏切られただけでなく、罪までなすりつけられて、学校で孤立させられる。人間とは思えないほど鬼畜の所業だと思う。


 だから、あいつの居場所を完全に奪う。あいつが俺の友達にしたように。そして、孤立させた近藤は、今回の件の黒幕に接触するはずだ。すべての元凶を探し出して、そいつも一緒に叩き落す。


 その後はどんな罰でも受けてやるさ。あいつらを地獄に落とせるならどんなことでもできるからな。


「おう、遠藤じゃん。最近、よく会うな!」

 ベンチに座っていた時に、突然呼び止められた。友達の今井だった。


「ああ、少し散歩だよ。今井は、体力つくりのランニングか?」

 息を切らしているし、動きやすいジャージを着ている。まだ、9月だから暑いのに、さすがは文部両道だな。


「おう!! 遠藤もあんまり無理するなよ。何かあったらいつでも言ってくれ」

 あいつはにっこりと笑う。だが、そこには少しだけ別の色を含んでいた。

 俺を心配そうにしている色を見つけた。


 そうだよな。今井は、賢いし、行動力もある。あのサッカー部に工作を仕掛けた日にすれ違ってしまったことが失敗だったか。いや、こいつは人を売るようなことはしないし、俺の意志も尊重してくれるはず。だから、あえて見て見ぬふりをしているように思えた。


「なんだよ、それ。ただの散歩だぞ。心配性すぎないか? いくら病み上がりでもさ」

 俺は笑ってごまかした。少しだけ良心が痛む。


「そうだよな。じゃあ、これから言うことは、心配性の妄言でひとりごとだから、聞き流してくれよ」

 俺は友達の優しさに触れる。思わず冷徹な復讐者の仮面を脱ぎ捨てかけてしまう。だが、俺は必死にその衝動を抑えて、笑って頷く。


「遠藤が何をしようとしているのか、詳細まではわからないよ。何かあったというのはわかったけど、深く入ってはいけないことだと思う。でもさ、簡単に自分を犠牲にしようとするのはやめてくれよ。たぶん、お前が目指しているところって、最後に自己犠牲を含んでいると思うんだ。自己犠牲が、青野への恩返しなんて悲しいこと言うなよ」

 その言葉を聞いて、思わずドキリと心臓が高鳴る。鼓動が早くなり、少し息苦しさをおぼえるほどに。


「なんだよ、それ。何を言っているのかわかららないぞ」


「だよな。だから、ひとりごとなんだよ。でも、友達として、俺は遠藤とずっと仲良くしていたいからさ。お前には笑っていて欲しいんだよ、友達としてさ。英治だってそう思っているはずだ。遠藤が傷ついたら、たぶんあいつは悲しむよ」

 すべて理解しているように話す友人を見て、思わず絶句する。

 いや、調べようとすれば、俺が中学の時に何が起きたのか調べることもできるとは思う。そして、青野君の名前も出したということは、こいつはすべてに気づいている可能性が高い。


 俺のことを本当に心配してくれる優しさと温もり。ずっと欲しかった場所を俺はすでに取り戻すことができていたんだ。そのありがたみが本当によくわかった。


 だが、ここまで来てしまったら引き返すことなんてできない。やめるわけにはいかない。近藤と黒幕を倒すために、手を引くことなんてできない。


「ありがとうな、今井」

 かろうじて、そうしぼりだすと、彼は笑った。


「ああ、じゃあな」

 そう言って日課のランニングに戻っていく。


 明日の朝も早いからそろそろ家に戻ろう。

 そう思って、公園を出ようとすると、他校の制服を着た女子生徒の姿が目に入った。無視して、横をすり抜けようとすると……


「待って、遠藤一樹だよね?」

 懐かしい声を聴いた。

 エリとは違うもう一人の幼馴染の声だ。エリに裏切られた時、最後まで俺を立ち直らせようとしてくれていた女の子。


「私だよ、堂本どうもとゆみ。覚えてる?」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る