箱根駅伝の応援で披露された「青山ほとり(通称・大根踊り)」をめぐり、東京農業大は1月6日、「無断撮影および無断でのSNS投稿を禁止しており、投稿について削除をお願いしたい」とする声明を出した。
大学は1月8日、弁護士ドットコムニュースの取材に「『削除のお願い』は、現実的には難しく誤解を生む発信であったことは承知しております」と答えた。
一方で、「実際に学生が精神的苦痛を受けている事実があることから重大な事案と捉え、該当の動画・写真の投稿主に対して削除依頼を行っております」と強い姿勢をにじませた。
チアリーダーの容姿への誹謗中傷のほか、開脚時の動画をスロー再生するような投稿が確認され、応援の隊列に加われなくなってしまった学生もいるという。決して許容されるべき行為ではなく、大学は来年に向けて安全にできるよう対策を検討している。
●大学公式サイトのトップページに表示した「お詫びと削除のお願い」
東京農業大は1月6日、大学の公式サイトやXのアカウントを通じて、青山ほとり(大根踊り)のSNS投稿に関する「お詫びと削除のお願い」の文書を発表した。
東京農業大学の公式サイトから
新年の箱根駅伝の沿道で、チアリーダーや男子学生ら応援団による「大根踊り」が披露された。
文書では「学生保護の観点から応援活動やその模様についての無断撮影および無断でのSNS投稿を禁止しており、会場でも大きく注意書きを掲示すると共に呼びかけをしておりました」と説明。
そのうえで「全ての方の『大根踊り』に関するSNS上の投稿が悪意のある『悪質な投稿』とは考えておりませんが、削除をいただけますようお願い申し上げます」と呼びかけた。
どのような投稿が実際になされ、悪質な投稿とは何を指すのか記されてはいない。
しかし、1月7日にXで「大根踊り」と検索すると、「大根踊り チア」「大根踊り ローアングル」などのワードがともに表示されたことから、チアリーダーやローアングルに関係する投稿がされた可能性がある。
Xで「大根踊り」を検索すると、候補として「チア」「ローアングル」が表示された(1月7日午前11時45分)
大学が文書とともに添付した画像には、東京農業大学全学応援団 顧問・相談役一同として、「悪質な撮影行為」「ローアングルからの撮影」「SNSや動画サイトへの無断投稿」を禁止し、肖像権やプライバシー侵害にあたる可能性があり、場合によっては法的措置をとると警告している。
禁止事項
両手に大根をもった「大根踊り」は、東京農業大の名物だが、文書では「担い手がいなくなってしまいますと箱根駅伝のみならず様々な行事等でも披露できなくなってしまいます」との懸念まで示されている。
どれほどの悪質な行為が確認できたのだろうか。弁護士ドットコムニュースは、東京農業大学に対し、今回の発表に至った経緯や、学生から寄せられている相談の実態、さらには今後の応援活動のあり方について尋ねた。
●確認されたチアリーダーの容姿への誹謗中傷、開脚時のズームアップ、スロー再生
──「悪質な投稿」とは、卑猥な文言を添えた写真の投稿や、性的部位を強調するような投稿などでしょうか。
全学応援団顧問・相談役からの回答をもとに本学学長室企画広報課として以下の回答をお伝えします。
この度の事案について個人の特定や加害者側への刺激にも繋がる可能性があるため、詳細をお伝えしきれない事をご理解ください。
今回の箱根駅伝に係る投稿については、現在のところ、ご質問で仰るような加工画像は確認されておりません。
しかし、一般の方が撮影・投稿されたものに、チアリーダー部学生の容姿に対する誹謗中傷するコメントが複数件、確認されたため、削除のお願いをいたしました。
またこれまでの例としてお答えできる範囲で回答させていただきますが、「開脚時のズームアップ・スロー再生」、「容姿に関する誹謗中傷」、「卑猥なメッセージ」等がございます。これらは写真・映像の投稿のみではなく、投稿に対するコメント等のリアクションも含みます。
●学生が恐怖心から応援の隊列に入れなくなってしまった
──学生から撮影や投稿に関する悩みなどの相談があれば教えてください。
全学応援団(本学応援団)は東京農業大学や学生たち(選手等)を応援したいという気持ちの強い学生で構成されています。
大根踊りの大根(提供:東京農業大学)
必ずしも社会的に注目されたい学生ばかりではございません。応援したい気持ちはあるものの、「性的な視点で見られている」という恐怖心から応援の隊列に入れない(入れなくなってしまった)学生が複数名にわたって発生しています。
●「披露しない選択は簡単ですが」今後も安全に応援できるよう検討
──来年以降の大根踊りの実施について教えてください。
東京農業大学および全学応援団(本学の応援団)では、今後に向けてより学生たちが安全に応援を行うことが出来る様、方策を検討しています。
演舞を披露しないという選択は簡単ですが、それは学生たちの本意ではないと認識しております。踊る方も見る方も楽しく、記録ではなく記憶に残していただくための方策を検討しております。
最後になりますが、本学応援団は、一般社団法人 関東学生陸上競技連盟(関東陸連)作成の応援実施要領および応援団による応援実施要領を遵守し、関東陸連が定めた場所で応援活動を展開しています。公共の道路で勝手に応援しているわけではございません(一般の方の中にはそのように誤解されている方も多いと感じています)。
公共性の高い大会であることは認識しておりますが、指定された私有的空間にて行われる応援活動について、撮影等に必要範囲内の規制を行う事は、学生保護の観点から必要性・緊急性を伴う正当性があると判断しています。
●アスリート盗撮問題では対応に苦慮
以上が大学側の回答となる。
領域は若干異なるが、盗撮問題をめぐっては、競技中のアスリートの性的な部位を着衣の上から撮影する行為は、撮影罪(性的姿態等撮影罪)の対象に入らない事情がある。特に女性アスリートが撮影や投稿に苦しむ実態が続いている。
「不快」というだけで撮影や投稿を規制することは難しく、競技団体などが自主的にカメラの持ち込みなどを規制することで対応している現状だ。
才能があっても競技を離れてしまうアスリートがいることも事実だ。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)