キッチンの扉の向こう側 Vol.1 ~テーマパークの常識を超えて最高のひと皿を~
ここは、ジャングリア沖縄のメインレストラン「パノラマダイニング」。
広大なやんばるの森と空。
その景色を独り占めできる「ネスト席」に座ると、
まるで鳥の巣から自然を眺めているような不思議な感覚になります。
けれど私たちの自慢は景色だけではありません。
運ばれてくるのは、地元の恵みをふんだんに使った料理の数々。
「テーマパークのごはんっていう先入観、いい意味で裏切られたかも」
オープン直後の慌ただしい日々のなかでも、
そんな声をふと耳にすることがありました。
そのたびに、フードチームが積み重ねてきた試行錯誤が、
確かにゲストに届いていることを実感します。
実は、テーマパークという場所で、
こうした「本気のひと皿」を出すのは、とても勇気がいることです。
本来、テーマパークでの食事は、
おいしく、楽しい時間ではありながらも、
「限られた時間のなかで、いかにスムーズにお腹を満たせるか」という利便性が重視されるものでした。
しかし、私たちジャングリア沖縄が目指すのは「沖縄旅を最高にする」こと。
そして食事も、旅の記憶をつくる大切な要素だと考えています。
「沖縄で食べた、あのひと皿」として心に残る体験を届けたい——
そんな想いを形にしているのが、
フード開発のチームを率いる北村シェフです。
パノラマダイニングはもちろん、
園内のドリンクやカートフードまで、すべてのメニューを監修する、
いわば私たちの "味の司令塔”です。
『これがテーマパークの食事なの?』と驚いてもらえたら、成功だと思っています。“テーマパークの食事”という天井を外すことをずっと意識してきました。
一見、不可能にも思える「テーマパークの規模の食事量」「一切妥協のないクオリティ」の両立。
この記事では、北村シェフの視点から、ジャングリア沖縄の「最高のひと皿」が出来上がるまでの試行錯誤を辿っていきます。
「最高のひと皿」を、数千人に提供するということ
「立ち上げのしんどさは、分かっています。
それでも、ゼロから作り上げるワクワク感と、
『同じ船に乗らないか?』という代表からの声かけがあって。
60歳を目前にして、入社を決めました」
そう語る北村シェフはこれまでイタリアンを軸に、
これまで数々のホテルやレストランの立ち上げを経験してきた料理人。
2023年6月にジャングリア沖縄に合流し、
現在はパーク全体のメニュー開発を一手に担っています。
そんな北村シェフにとっても、ジャングリア沖縄という舞台は、
これまでの延長線上にはある仕事ではありませんでした。
ジャングリア沖縄のレストランでは、
一般的なテーマパークで多く採用されている「セントラルキッチン方式(工場での一括調理)」を前提にしていません。
例えばパノラマダイニングでは、街のレストランと同じように、
仕込みから調理までを現場のキッチンで行いながら、1日約700食を提供しています。
このやり方を、テーマパークという舞台で成立させること。
北村シェフが真正面から向き合うことになったのが、「量」をどう成立させるか、という課題でした。
その量を、体験の質を落とさずに提供するためには、
二つの条件を同時に満たす必要がありました。
ひとつ目の条件|同じ一皿を、何度でも
今までは、自分が厨房に立ち、自分の目の届く範囲で料理を作ることが当たり前でした。ですが、ここでは数百人ものスタッフと共に、何千人というゲストに料理を届けなければなりません
自分が作る「最高のひと皿」を、
誰が作っても、同じクオリティで提供し続けること。
そのために、北村シェフは料理を「技」から「仕組み」へと落とし込んでいきました。
2023年9月からの約1年間、
大阪のテストキッチンを拠点に、試作と検証を繰り返す日々が続きます。
「この工程は本当に必要か」
「ここは省いても味が落ちないか」
一皿一皿を分解し、
500食に耐えうる形へと組み直していきました。
ふたつ目の条件|素材が、毎日そこにあること
料理の再現性は、
素材が安定して届いてこそ、初めて成立します。
北村シェフは、沖縄の食材、特にやんばるの豊かな実りを使うことにこだわりました。
けれど、地元の農家の多くは小規模経営です。
「この素晴らしい食材を、年間通して同じ量だけ確保できないか」
交渉は、決して簡単ではありませんでした。
旬がある。天候にも左右される。
それでも「最高の食材」を、「テーマパークの規模」で安定して届けてもらうには、どうすればよいのか。
今日はAの食材が手に入らないから、別のBで代用しよう……。一軒のレストランなら、そうした柔軟な対応もできます。でも、毎日500食以上を提供するパークでは、それが許されません
「これだけの量は作れない」
「一年中、同じ品質を保つのは正直厳しい」
交渉の場で何度も繰り返される言葉でした。
それでも、地元の食材で沖縄の人たちと作りたかった理由
効率を最優先するなら、
県外の大きな業者から一括で仕入れる道もあったはずです。
それでも、北村シェフは最後までその選択肢を選びませんでした。
やんばるの土地で長く続けるには、地元の人たちの協力が不可欠。
地元に愛されてこそ、本当の意味で『いいレストラン』になれるんです。
断られても、門前払いされても、
シェフは何度も農家さんや工場の元へ足を運びました。
「ジャングリア沖縄が、ただの観光施設ではなく、この土地を一緒に盛り上げる存在でありたい」
その想いが少しずつ伝わっていきます。
「若い人たちが地元で働ける場所ができるのは嬉しい。」
「ここで技術を磨ける場所があるなら、ぜひ協力したい」
そんな声がひとつ、またひとつと増え、
やんばるの恵みを安定して届けるための「チーム」が形になっていきました。
沖縄の旅が蘇る、一生モノの「記憶」を届けるために
ジャングリア沖縄で提供されるフードメニューの開発にあたり、
取引企業における沖縄県内企業の割合は約6割です。
けれどそれは、数字を目標にして積み上げた結果ではありません。
北村シェフたちが目指してきたのは「沖縄旅のなかで、心に残る一皿」をつくること。
そのために一番おいしい形を追求し続けた結果、自然とこの数字にたどり着きました。
地元の生産者が一生懸命に育てた食材を預かり、最高の形でゲストに届ける。それが私たちの役割だと思っています。
北村シェフが目指しているのは、単に”おいしい食事”を提供することではありません。
「沖縄の旅、あの食事が最高だったね」と、旅のあともふとした瞬間に思い出してもらえるような、記憶に残る体験を届けることです。
──そして迎えた、グランドオープンの日。
慌ただしい朝、北村シェフはスタッフ全員を集めて、
「料理は情熱!」と声を掛けました。
その話を振り返ると、
「あとから思うと、ちょっとテーマパークっぽいですよね」
と、照れくさそうに笑います。
けれど現場では、その言葉が“掛け声”で終わることはありませんでした。
キッチンでは、一皿の仕上がりに最後まで目を配り、
ホールでは、料理の背景や食材のことを、
自分の言葉でゲストに伝えようとするスタッフの姿がありました。
「この一皿を、旅の記憶として届けたい」
その想いは、スタッフ一人ひとりにも浸透しています。
料理が、生産者とゲスト、そしてこの土地を静かにつないでいく。
その循環のなかで、いつか生産者の皆さんにも
「自分の食材が使われている」と誇りに思ってもらえる場所になりたい。
そして、観光で訪れる方はもちろん、
地元沖縄の方にとっても、
慣れ親しんだ食材の新しい一面に出会うきっかけにになってほしい。
そんな想いが込められたひと皿は今日も、
このジャングリア 沖縄のレストランから、
誰かの一生モノの記憶として届けられています。

