第27話 学園のアイドルとのデート

「なんでだよ!!」

「なんで、よりにもよって青野英治のことをデートに誘ってるんだ、一条愛は」

「今まで数十人の男を振ってきた失恋執行人が……」

「ありえない」

「それも、自分から誘うなんて」

「俺の方が先に好きだったのに……」


 ※


 以上、俺の周囲にいた学生たちの怨嗟えんさの声だ。

 俺はある意味絶句した状態で、固まっていると、一条さんは笑い出した。


「どうしたんですか、固まっちゃって。私だって結構勇気を出して、誘ったので、何か返してくださいよ」


「いや、だって、デートとかいうから」


「えっ、だって、男女がふたりっきりで放課後にスイーツ食べに行くって、デート以外の何物でもないんじゃ?」


「そうだけど、そうだけど。だって、時と場所を考えないと。周囲の目だってあるし」


「大丈夫ですよ。私が遊びに行きたいって思ったから誘ったんです。他人の目を気にしたり、私の気持ちを無視して他の人に邪魔されるのは、それこそ世界が間違っていると言えるんじゃないですかね。だから、付き合ってくれませんか?」

 彼女は、まっすぐ俺の目を見た。そこには力強い意志を感じた。

 ちなみに、周囲は"付き合ってくれませんか"という言葉に「おー」とか「えっ公開告白?」とか過剰に反応を見せていたが、今は置いておこう。


 夏休みの短期バイトで稼いだお金があるから、そっちは心配ないが……

 それにこれ以上、俺のために行動してくれている後輩に、恥をかかせるわけにはいかない。


「そうだな、せっかく一条さんが誘ってくれたんだから、行こうか。行きたい店とかあるのか?」


「やった。行きたいお店あるんですよね」

 学校一の美少女の年相応の笑顔を独占している。客観的に考えて、その贅沢な状況になっている自分は幸せ者だと思った。


 ※


 駅前のカフェに案内された。高校生が入るにしては、結構オシャレな場所だな。


 女子大学生や地元のマダムたちが時間を忘れておしゃべりしている感じの店だ。


 後輩は、俺よりも年下とは思えないほど、落ち着いたたたずまいで、アンティーク調のカフェになじんでいく。制服姿とはいっても、隠しきれない気品の良さというか育ちの良さみたいなものがにじみ出ているんだな。物憂げな表情でもしながら、ティーカップを持てば、本当に深窓しんそうの令嬢という言葉がここまで似合う女の子はいないだろうな。


「仲のいいクラスメイトが、週末のデートにここに来たって聞いて、少し憧れてたんですよね。ちょっと夢が叶っちゃいました」

 彼女は、微笑を浮かべて、内緒話をしているみたいに小声で話しかけてくる。口調や言葉チョイスだけで、俺を含むバカな男たちは簡単に一条さんを好きになってしまうだろうな。深窓の令嬢のような気品の中に、ちょっとだけ子供っぽい表情のギャップはすさまじいな。


「でも、ちょっと意外だな」


「何がですか?」


「いや、デートとかに憧れがあったんだなって」

 正直、彼氏が欲しいと思えば、すぐにできるほどの容姿と性格の良さだ。

 実際、高校に入ってから数十人の男子が告白に挑戦し、失敗し続けていたわけだし。


「そりゃあ、ないって言えば嘘になっちゃいますよ。私だって思春期の女の子ですし。でも、告白してくる人たちは、私のことをステータスのためのアクセサリーくらいにしか見てないのがわかりますからね。正直、結構傷つきますよ。そういうの」

 少しだけ、苦い顔をしてすぐに笑顔に戻る。たしかに、自分のことを表面的にしか見ていない、いや、そもそも物みたいに扱おうとする人間には、不信感しかないだろうな。


 じゃあ、俺はどうして大丈夫なんだ。

 そんな無粋な言葉をつぶやく気にはなれなかった。


「そうだよな。ごめん、変なこと言ったわ。とりあえず、食べよう。いろいろお世話になっているから、今日はおごりだ」


「ありがとうございます。ここは、パンケーキが美味しいらしいので、それがいいです」


「俺も同じものを。飲み物はどうする?」


「アップルティーのホットをお願いします」

 

 ※


―愛視点―

 

 注文を終えると、お手洗いを借りて、少しだけ席を外す。

 心臓の高鳴りが、彼に聞こえてしまうかもしれないと思って、少しだけ落ち着く時間が欲しかった。手を洗って、冷たい水で身体の熱を少しだけでも取ろうとする。


「気になる男の人をデートに誘うのってこんなに緊張するんだ」

 本当に自分が普通の女の子になってしまったことに驚くばかりだ。


「少しは伝わったかな。あなたが特別だって」

 思わず出てしまった弱音の部分は、水と共に流れていった。


 ※


―美雪視点―


 どうして、私の心はこんなにずたずたになっているんだろう。英治を捨てて、センパイと幸せになるために嘘をついたから?


 そんな私への罰だったんだと思う。

 今日はセンパイが東京の大学の練習に参加する一人で帰宅することになった。


 目の前に、エイジと一条さんが一緒に帰っている姿を見つけてしまったんだ。

 エイジは、後ろにいる私に気づきもせずに、一条さんと楽しく会話をしながら、駅の方に向かっていた。


 私にも見せたこともないほど、楽しそうな笑顔で。


 そして、何よりも嫌なことは――


 横にいる一条愛が、誰に対しても今まで見せたこともないほど、最高の笑顔をエイジに見せていることだった。


 嫉妬の炎にうなされながら、私は無言で自宅への道を歩いていく。

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