第26話 学園のアイドルとの下校
午後に顔を出してくれた高柳先生に、「親にも相談しようと思います」と伝えた。
先生は少しだけホッとした顔になって、「いいのか」と聞いてくれた。
俺はうなずく。三井先生から聞いた話は、俺の心に突き刺さっていた。たぶん、このまま隠し通そうとする方が、親不孝だとわかったから。
俺はもう逃げない。皆と一緒に戦いたい。
だから、頼りになる大人に相談して、戦っていかないといけない。
「そうか、ありがとう。言いにくければ、俺の方から伝えるからな。校長先生も青野の家族を入れて、今後の対応を話し合いたいと言っている」
「はい。ありがとうございます。でも、やっぱりこういうのは自分の口から言いたいです」
「そうか。本当に……半日で見違えるほど強くなったな、青野。青野の家はたしかレストランだったよな。だったら、忙しいだろう。打ち合わせはできる限りこちらで時間を調整する。可能であれば、こちらから青野の家にうかがわせてもらうから、相談してくれ。これは俺の連絡先だ。親御さんと話すことができたら、この電話番号に着信を入れてくれ。すぐに、返信するからな」
「ありがとうございます。夜遅くなってしまうかもしれませんが、大丈夫ですか?」
「ああ。俺はかなりの夜型だから、正直朝より元気だ。遅い方が助かる。学校の教師に向いてないんだよ、生活リズムが」
自虐気味に笑う先生の冗談に思わず吹き出してしまった。
安心感がある。
「頼りにしています、高柳先生」
「ああ、どうぞ担任に甘えてくれ、青野」
こうして、俺の夏休み明け2日目の学校は終わった。
※
正門を出るとハッとするくらいの美少女が、俺を待ってくれていた。
「遅いですよ、先輩!!」
そうやって少しだけからかう後輩の気さくさに少し安心感をおぼえる。
「さすがに、アウェーの洗礼を受けまくっているから、遅く出てきたんだよ。下校のピークは少し過ぎただろ。それでも、冷ややかな目線だらけだったぞ」
少しだけ余裕をもってそう返すと、後輩は笑った。
「まぁ、噂の件もありますけど、朝の私との登校の件で、違う敵も作っているんじゃないですか?」
「それは、否定できないな」
「でも、よかった」
「何が?」
「だって、朝に比べて、かなり表情に余裕があったというか……優しくなったというか。すぐにわかっちゃいましたよ。よかったです」
どうやら、本当にこの後輩は俺のことをよく見てくれているみたいだ。
「お前のおかげだよ」
「ん? 私何もしてませんよ」
「そんなわけないだろ。俺のことを最初に信じてくれたのは、一条さんなんだから」
ただ、理性的に噂に流されなかっただけで、どんなに救われたかわからない。身近な人たちは、サトシ以外、俺のことを信用してくれなかったわけだから。
「そうですか。私は"特別"ですか?」
からかうようにそこを強調するが、正直、頭が上がらない部分ではある。
「うん。正直特別だよ。だから、友達になったその日に親友になった」
「ふ~ん」
嬉しそうな少しだけ複雑そうな顔をしている。「まぁ、親友とはいえ、特別は悪い気持ちしませんけどね」と小さな声でつぶやく。
そして、俺たち凸凹コンビの下校する姿を見て、周囲はざわつきはじめた。
朝以上に噂が広まっていく。たぶん、それも一条さんの作戦なんだろな。
「大丈夫だったか?」
こっちは少しだけ不安になりながら、聞いた。
「え、何がですか? もしかして、熱愛疑惑とか噂されてないかの心配ですか?」
俺を不安がらせないように、冗談っぽく返してくれる後輩の優しさに感謝しながら、あえてしっかり聞く。
「いや、そうじゃなくて……俺と登校してるせいで、お前の評判が下がったり、悪口とか言われてないかと思って」
学校のアイドル、聖女、天使。一条さんを形容する言葉はたくさんあるが、それは周囲の期待の表れでもある。
「優しいですね、本当に先輩は。一番つらい時にまで、私の心配をしてくれるなんてなかなかできませんよ!」
「当たり前だろ。俺のせいで、親友が傷つくなんて嫌なんだよ」
「そうですよね、あなたはきっとそう言ってくれると思っていました。でも、ご安心ください。ちょっと、熱愛疑惑をささやかれているだけで、実害はありませんから」
「それも実害だろ。念のために聞くけど、好きな人とか恋人とか大丈夫なのか」
「それ聞きます? いたら、昨日の時点で一緒に逃避行なんて、ロマンチックなことしてませんよ。普通、誘う前に確認しますよね」
ぐうの音も出ない正論だ。これが、正論ハラスメントと噂される一条の告白拒否テクニックか。
「ありがとうな」
「いいえ、こちらこそです。でも、私は早起き頑張ったりしたので、少しくらいご褒美欲しいですね」
「えっ?」
「だから、これからデートしませんかって言ってるんですよ? 何か甘いもので食べませんか?」
皆に聞こえるように、大きな声で爆弾発言をしてくる後輩に、俺は思わず引きつった笑顔を返すことしかできなかった。
下校中の生徒たちの声にならない悲鳴が聞こえた。
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