第21話 クズ男の暴走
―近藤視点―
くそ、だりぃな。
もうすぐ練習試合が近いから、仕方なくいつもはサボっている朝練に参加させられて、俺は不機嫌だった。
「この程度のフェイントに引っ掛かるな、真田っ!! あと、スペース作りすぎだぞ、サイドバックの1年。こんなんで練習試合、勝てるわけねぇだろ、バカ野郎」
イライラ感をチームメイトへの八つ当たりに向ける。
まったく、こんなところで負けて、俺の輝かしいキャリアに傷がついたらどうしてくれるんだ。俺はこのチームの王様だ。
守備は免除されている。監督からもチームメイトからも、攻めの時に本領発揮してくれればいいみたいな暗黙の了解が取れているんだ。
だから、ボールを失っても特に必死になって追いかける必要はない。
俺は、ボールを持って空いたスペースに対して、芸術的なパスを送る。この繊細なタッチが俺の最大の持ち味だ。
凡人たちは、必死に守ろうとするけど、ムダムダ。才能の絶対値が違うんだよぉ。俺のボールタッチに翻弄される姿を見たら、青野英治の無様な顔を思い出す。
あいつまだ、登校できるのかな。いつまで学校に来ることができるか楽しみだぜ。
昨日は、俺の奴隷たちが、机に嫌がらせをした。あいつの暴力の噂は、学校中に出回り始めている。ここまで評判が下がれば、もうあいつは生きているだけで辛くなるはず。不登校まっしぐらだろ。
さらに、おもしろいことがあった。
どうやら、美雪が現実逃避を始めたようだ。
昨日の夜、親がいないあいつの家に招待されて、楽しませてもらった。
『すべて、忘れさせて』
『もう、元に戻ることができないってわかったんです』
『私には本当にあなたしかいないの』
笑うのをギリギリこらえて、俺たちは抱き合った。
はい、この女もアウト。よくわかっているじゃないか。お前も、青野と同じでズルズル落ちていくんだよ。
「ああ、ずっと一緒にいるよ。俺たちは運命共同体だ」
俺がこう甘くつぶやくと、美雪は嬉しそうに涙を流しながら「ありがとう」と繰り返していた。そして、今後教師との面談に備えて、あいつにはどう切り抜けるか助言しておいた。これでとりあえず大丈夫だろう。
青野が完全にダメになったら、美雪とも別れて他の女に手を出すつもりだ。
いまですら、幼馴染を裏切った罪悪感で、ギリギリのところで耐えているメンタルが完全に崩壊して、あの綺麗な顔が絶望に染まるあの瞬間が最高なんだよ。
あいつは、こういうんだぜ。
『大好きな幼馴染を捨ててまで、あなたを選んだのにぃ』
『嫌だ、嫌だ、捨てないで』
『何でもするからっ』
そう言ってすがる女にこういえば、どんな女でも泣き崩れるんだよ。
「いい加減しろよ、浮気女」
「お前みたいな女を信用できるわけがねぇだろ」
「俺、重い女無理なんだよね」
泣きじゃくりながら崩れ落ちるあの瞬間が、俺の自己肯定感を高めてくれる。
ああ、早く壊れないかな、あのふたり!
※
ダルい朝練が終わり、部室で着替えをする。
ふう。やっと終わったぜ。
「あっ、近藤先輩。見てくださいよ、こんなの回ってますよ」
2年の真田が俺にスマホの画面を見せてきた。どうやら、クラスのメンバーチャット画面らしい。
「なんだよ。って――」
画面を見ながら絶句している自分がいた。
普通ならありえないような写真が投稿されていたからだ。
そこには、俺がこの前、痛めつけてやった青野と学園のアイドルが笑って登校している写真だった。
他の3年が興味本位でそれを見て笑い出す。
「これって、1年の一条愛だよな。それがどうして、あの暴力男と一緒に登校しているんだ。こんなに楽しそうに……」
「ですよね。ウケる。一条って完璧超人とか言われているけど、弱点あるんですね。男の見る目がなさすぎる」
真田も同調して笑う。
「だよな。いくらなんでも、青野はねぇよ。趣味悪すぎだろ、この女」
そう言って、二人は外に出ていった。
だが、俺は屈辱に震えていた。
一条愛だと……
俺が一学期に遊びに誘おうとしても、「すいません、よく知らない男の人とどこかに遊びに行くのは正直怖いです」と冷たい目であしらった女がなぜ、あんな陰キャと。俺が女を奪ったばかりで、学校全体を敵に回しているのに、すぐに……
どういうことだ。
なんで、こんな屈辱を受けなくてはいけないんだ。
この学校の
あんなモブに負けるわけがねぇ。
こうなったら、もっとわからせてやるよ。格の違いってやつをな!!
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