トレーナー室の支配者と、堕ちていくウマ娘たち 作:railgunk
カツラギエースというウマ娘を形容するならば、「孤高の逃亡者」という言葉が最も相応しいだろう。
スタートの合図と共に先頭に立ち、誰にも前を譲ることなく、そのままゴール板を駆け抜ける。そのレーススタイルは、彼女の生き様そのものだった。
誰にも頼らず、己の力だけで勝利を掴み取る。その潔さと強さは、多くのファンを魅了して止まない。
だが、俺は知っている。
その強固な鎧の下に、どれほど脆く、繊細な「乙女」が隠されているかを。
「……トレーナー。本当に、これがトレーニングなのか?」
防音設備の整ったトレーナー室。その一角にある、本来は来客用であるはずの個室トイレの前で、エースは戸惑いの表情を浮かべていた。
彼女の頬は朱に染まり、視線は彷徨っている。
「ああ、そうだ。エース」
俺はあくまで真剣な、科学者のような顔つきで頷いた。
「お前の『逃げ』は完璧に近い。だが、あと一歩、限界を超えるためには、徹底的な体内管理が必要だ。食べたものを如何に効率よくエネルギーに変え、そして不要なものを如何にタイミングよく、身体に負担をかけずに排出するか。排泄のコントロールこそが、コンディショニングの要なんだ」
詭弁だ。
だが、勝利に飢えている彼女にとって、それは「藁にもすがる」ような提案として響く。
「……分かった。アンタがそこまで言うなら、信じる」
エースは覚悟を決めたように頷くと、重い足取りで個室へと入っていった。
カチャリ、と鍵のかかる音が、俺の鼓膜を心地よく揺らす。
壁一枚隔てた向こう側。
俺は壁に背を預け、腕を組んでその時を待った。
衣擦れの音。ためらいがちな息遣い。そして、彼女の身体から放たれる、生命活動の証である水音。
それら全てを、俺は管理する。
彼女の最も恥ずべき、誰にも見せたくないプライベートな瞬間を、俺だけが把握し、評価し、指導する。
この異常な関係性が、彼女の羞恥心を少しずつ麻痺させ、「トレーナーには何を晒してもいい」という倒錯した信頼へと変えていくのだ。
数分後。
水を流す音と共に、個室から出てきたエースは、顔を真っ赤にして俯いていた。
「……終わったぞ。これで、いいんだろ」
「ああ、完璧だ。音の長さ、勢い、全てデータ通りだ。今日の調子は良さそうだな」
俺が淡々と告げると、彼女は「……うっせぇな、変なとこ褒めんなよ」と悪態をつきながらも、その表情には安堵の色が浮かんでいた。
共有してしまった秘密。
それは、二人の距離を一気に縮める劇薬だ。
それからの日々、俺たちの「トレーニング」はエスカレートしていった。
トレーニング後のマッサージと称して、彼女の腹部を入念に触診する。
「腸の動きを確認する」という名目で、下腹部の際どいラインまで指を這わせる。
エースは身体を強張らせながらも、決して拒絶はしなかった。それが「勝利のため」だと信じ込まされているからだ。
そして、ある日の夕暮れ。
俺たちは街へ出ていた。新しいトレーニングシューズを選ぶという名目で。
「へえ、意外だな。アンタがこういう色を選ぶなんて」
俺が差し出したのは、鮮やかな青色のシューズだった。
彼女の瞳の色にも似た、美しく、どこか寂しげなブルー。
「お前の髪にも、その瞳にもよく似合う。ターフの緑の上で、誰よりも輝く色だ」
俺の言葉に、エースは目を見開いた。
男勝りな彼女に対して、「似合う」「輝く」といった言葉をかける者は少ない。
俺は彼女の、隠された「承認欲求」と「乙女心」を正確に射抜いたのだ。
「……そ、そうかよ。まあ、アンタが選んだなら、悪くはねぇな」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、彼女はそれを大切そうに抱きしめた。
その無防備な姿を見て、俺は最後の一手を打つことにした。
「エース。このまま帰るのも名残惜しいな。……少し、寄っていかないか?」
俺が指さしたのは、駅前の高層ホテルだった。
彼女は一瞬、呆気にとられたような顔をしたが、すぐにその意味を察し、顔を赤らめた。
「……嫌なら、構わないぞ」
俺は逃げ道を用意するフリをして、彼女を追い詰める。
彼女は俺を信頼している。いや、既に依存している。
排泄さえも管理され、身体の隅々まで触れられ、そして「女の子」として扱われた今、彼女に拒絶する理由など残されていなかった。
「……行く。アンタとなら、どこへだって」
ホテルの最上階。
夜景の見える部屋で、俺たちは結ばれた。
初めて知る男の感触、痛み、そして快感。
俺は彼女の耳元で、甘く、残酷な契約の言葉を囁き続けた。
「エース。お前は俺だけのものだ」
「これから先も、お前の全てを俺が管理してやる」
「勝利も、身体も、心も、全てだ」
激しい行為の果て、彼女は俺の背中に爪を立て、泣きながら絶頂を迎えた。
その涙は、孤高の逃亡者が、ついに安住の地を見つけた喜びの涙か、それとも支配されることへの無意識の恐怖か。
翌日からのエースは見違えるようだった。
迷いが消え、走りに鬼気迫るものが宿った。
俺の指示には絶対服従。俺の姿を見るだけで、その瞳は熱っぽく潤む。
彼女は手に入れたのだ。
「トレーナーのため」という、何よりも強固な走る理由を。
そして俺は手に入れた。
カツラギエースという、最強で、最も忠実な「最初の駒」を。
だが、これは始まりに過ぎない。
エースが輝けば輝くほど、その影で濃くなる闇がある。
俺は視線を、コースの脇で立ち尽くす、もう一人のウマ娘へと向けた。
ミスターシービー。
自由気ままな彼女の瞳に、焦燥と嫉妬の炎が灯るのを、俺は見逃さなかった。