トレーナー室の支配者と、堕ちていくウマ娘たち   作:railgunk

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第一章:エースの孤独と完璧なコンディショニング

カツラギエースというウマ娘を形容するならば、「孤高の逃亡者」という言葉が最も相応しいだろう。

 スタートの合図と共に先頭に立ち、誰にも前を譲ることなく、そのままゴール板を駆け抜ける。そのレーススタイルは、彼女の生き様そのものだった。

 誰にも頼らず、己の力だけで勝利を掴み取る。その潔さと強さは、多くのファンを魅了して止まない。

 

 だが、俺は知っている。

 その強固な鎧の下に、どれほど脆く、繊細な「乙女」が隠されているかを。

 

「……トレーナー。本当に、これがトレーニングなのか?」

 

 防音設備の整ったトレーナー室。その一角にある、本来は来客用であるはずの個室トイレの前で、エースは戸惑いの表情を浮かべていた。

 彼女の頬は朱に染まり、視線は彷徨っている。

 

「ああ、そうだ。エース」

 俺はあくまで真剣な、科学者のような顔つきで頷いた。

 

「お前の『逃げ』は完璧に近い。だが、あと一歩、限界を超えるためには、徹底的な体内管理が必要だ。食べたものを如何に効率よくエネルギーに変え、そして不要なものを如何にタイミングよく、身体に負担をかけずに排出するか。排泄のコントロールこそが、コンディショニングの要なんだ」

 

 詭弁だ。

 だが、勝利に飢えている彼女にとって、それは「藁にもすがる」ような提案として響く。

 

「……分かった。アンタがそこまで言うなら、信じる」

 

 エースは覚悟を決めたように頷くと、重い足取りで個室へと入っていった。

 カチャリ、と鍵のかかる音が、俺の鼓膜を心地よく揺らす。

 

 壁一枚隔てた向こう側。

 俺は壁に背を預け、腕を組んでその時を待った。

 衣擦れの音。ためらいがちな息遣い。そして、彼女の身体から放たれる、生命活動の証である水音。

 

 それら全てを、俺は管理する。

 彼女の最も恥ずべき、誰にも見せたくないプライベートな瞬間を、俺だけが把握し、評価し、指導する。

 この異常な関係性が、彼女の羞恥心を少しずつ麻痺させ、「トレーナーには何を晒してもいい」という倒錯した信頼へと変えていくのだ。

 

 数分後。

 水を流す音と共に、個室から出てきたエースは、顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「……終わったぞ。これで、いいんだろ」

「ああ、完璧だ。音の長さ、勢い、全てデータ通りだ。今日の調子は良さそうだな」

 

 俺が淡々と告げると、彼女は「……うっせぇな、変なとこ褒めんなよ」と悪態をつきながらも、その表情には安堵の色が浮かんでいた。

 共有してしまった秘密。

 それは、二人の距離を一気に縮める劇薬だ。

 

 それからの日々、俺たちの「トレーニング」はエスカレートしていった。

 トレーニング後のマッサージと称して、彼女の腹部を入念に触診する。

 「腸の動きを確認する」という名目で、下腹部の際どいラインまで指を這わせる。

 エースは身体を強張らせながらも、決して拒絶はしなかった。それが「勝利のため」だと信じ込まされているからだ。

 

 そして、ある日の夕暮れ。

 俺たちは街へ出ていた。新しいトレーニングシューズを選ぶという名目で。

 

「へえ、意外だな。アンタがこういう色を選ぶなんて」

 

 俺が差し出したのは、鮮やかな青色のシューズだった。

 彼女の瞳の色にも似た、美しく、どこか寂しげなブルー。

 

「お前の髪にも、その瞳にもよく似合う。ターフの緑の上で、誰よりも輝く色だ」

 

 俺の言葉に、エースは目を見開いた。

 男勝りな彼女に対して、「似合う」「輝く」といった言葉をかける者は少ない。

 俺は彼女の、隠された「承認欲求」と「乙女心」を正確に射抜いたのだ。

 

「……そ、そうかよ。まあ、アンタが選んだなら、悪くはねぇな」

 

 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、彼女はそれを大切そうに抱きしめた。

 その無防備な姿を見て、俺は最後の一手を打つことにした。

 

「エース。このまま帰るのも名残惜しいな。……少し、寄っていかないか?」

 

 俺が指さしたのは、駅前の高層ホテルだった。

 彼女は一瞬、呆気にとられたような顔をしたが、すぐにその意味を察し、顔を赤らめた。

 

「……嫌なら、構わないぞ」

 

 俺は逃げ道を用意するフリをして、彼女を追い詰める。

 彼女は俺を信頼している。いや、既に依存している。

 排泄さえも管理され、身体の隅々まで触れられ、そして「女の子」として扱われた今、彼女に拒絶する理由など残されていなかった。

 

「……行く。アンタとなら、どこへだって」

 

 ホテルの最上階。

 夜景の見える部屋で、俺たちは結ばれた。

 初めて知る男の感触、痛み、そして快感。

 俺は彼女の耳元で、甘く、残酷な契約の言葉を囁き続けた。

 

「エース。お前は俺だけのものだ」

「これから先も、お前の全てを俺が管理してやる」

「勝利も、身体も、心も、全てだ」

 

 激しい行為の果て、彼女は俺の背中に爪を立て、泣きながら絶頂を迎えた。

 その涙は、孤高の逃亡者が、ついに安住の地を見つけた喜びの涙か、それとも支配されることへの無意識の恐怖か。

 

 翌日からのエースは見違えるようだった。

 迷いが消え、走りに鬼気迫るものが宿った。

 俺の指示には絶対服従。俺の姿を見るだけで、その瞳は熱っぽく潤む。

 

 彼女は手に入れたのだ。

 「トレーナーのため」という、何よりも強固な走る理由を。

 そして俺は手に入れた。

 カツラギエースという、最強で、最も忠実な「最初の駒」を。

 

 だが、これは始まりに過ぎない。

 エースが輝けば輝くほど、その影で濃くなる闇がある。

 俺は視線を、コースの脇で立ち尽くす、もう一人のウマ娘へと向けた。

 

 ミスターシービー。

 自由気ままな彼女の瞳に、焦燥と嫉妬の炎が灯るのを、俺は見逃さなかった。

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