自分の曲を著作権フリーにした理由
――中北さんは著作権フリーの曲を販売しているのが特徴的ですよね。ホームページで販売している曲も著作権フリーであることを大きく掲げていますね。
中北さん「『著作権フリー』という言葉は、僕が作ったんじゃないかと思っています。インターネットが少し流行りだした頃に、その言葉で検索してもまだ何も出てこなかったんですよ」
――そういう言葉自体がなかったんですね。
中北さん「その言葉を使っていて『著作権フリーという言葉はありえない』と言われたこともありました。『ライセンスフリーとかいう言葉ならわかるけども、著作権は絶対にフリーにはならない』と」
――ああ、著作“権”だから、それがフリーというのは変だと。
中北さん「その通りなんです。でもわかりやすいように“著作権フリー”という言葉を使ったわけなんです」
――そのように考えたのは、利益を得たいというのではなく、少しでも広まってほしいという思いがあったからですか?
中北さん「そうですね。それもあるし、教師をしてましたので。公務員法では、作曲したものとか執筆した本を売ったりというのはOKなんです。ただ、公務員としての給料をもらっているのに、と、気が引ける部分もあって、もう自由に使ってもらおうと」
――なるほど。そこでいよいよ気になるところなのですが、「もうすぐ春」という曲がホテルで流れていたんです。それも著作権フリーゆえだと思うのですが、あれはいつぐらいから使われているのかわかりますか?
中北さん「あの曲はね、弾いているのは僕じゃないんですよ。僕の弟子が弾いてるんです」
――え!そうなんですか、お弟子さんがいらっしゃるんですね。
中北さん「そうなんです。『こんな感じで弾いてみて』といって僕が見本を弾いて、あとはそれをもとに即興で演奏するようにと。それで弟子がピアノを弾いて録音したものがあれなんですよ」
――そうなんですね。
中北さん「僕のアルバムの中に入っている曲ですけども、厳密に言うと弟子が弾いてるんです。『MAKOTO』っていうのが弾いてるんですよ」
――あ、「MAKOTO四季」というシリーズの中の一曲らしいと動画の概要欄で知ったのですがその「MAKOTO」がお弟子さんのお名前だったんですか。
中北さん「そうなんです。あれ、MAKOTOが弾いてるんですよ。説明が面倒くさい時には僕が弾いてるって言いますけど(笑)厳密にはそうなんです」
自分の曲が病院で流れている
――あの曲を聴いたのが私が中北さんのことを知ったきっかけだったんです。ホテルでずっと流れていて、すっかり覚えてしまって。あの曲が録音されたのはいつ頃ですか?
中北さん「もう25年以上前ですね。それが僕の『著作権フリー508曲』っていう作品集に入っているんです。それを買われたお客様がたまたまホテルの、ああいう風なシステムを作っている会社の人だったんでしょうね。こちらには連絡も何もなかったんですよ。僕自身びっくりしましたもん、ホテルで鳴ってたんで(笑)」
――ははは。中北さんもいきなり出会ったんですね。自分の曲が急に流れてきたら驚きますよね。
中北さん「相当びっくりしましたよ。最近、色々なところで僕の曲が流れてるんですよ」
――著作権フリーだから、色々な使われ方をしてるんですかね。たとえばどんなところで使われていますか?
中北さん「病院の待合室とか、リラクゼーション施設とか、喫茶店とか。この間行ったお弁当屋さんでも鳴ってたし……いちいちこっちに連絡をする必要がない形で販売しているので、だからもう日本のあちこちで、これからも鳴っていってくれたらうれしいなと思ってます」
――自分の曲が聞こえてくるとうれしいっていう感覚なんですね。
中北さん「うれしいですね。お金にはなりませんけどね(笑)」
――中北さんの曲がたくさんある中で「もうすぐ春」がVOD画面に選ばれた理由はなんなんでしょうね。癒されるような雰囲気の曲だからとか、そういうことなんですかね。「もうすぐ春」というタイトルはどのようにしてついたものなんでしょうか。
中北さん「録音した時にね、『今から僕がタイトルとメロディーを伝えるから、それをレコーディングしてみるように』と、そういう課題を出したんです。1時間で10曲を録音してみようと。タイトルと楽譜を見せて、MAKOTOがワンテイクでポーンと弾いたのがあの録音なんですよ。だから『MAKOTOの四季』というシリーズは、1時間でできあがっています」
――そのコンセプト自体が変わってますよね。あえて即興で、短時間で録音してみようという。しかもご自身じゃなく、別の人に弾いてもらう。だからメロディーの断片っぽい感じがして面白いのかもしれないですね。
中北さん「遊びのつもりでやりましたんでね。でもそれはすごく大事なことなんですよ。MAKOTOは僕よりピアノがうまいです」
――あれはそうやってできあがった曲だったんですね。
中北さん「あの曲がうどん屋さんで鳴っていた時は笑いました。それからあるユーザーの方のコメントで、学校の保健の授業のビデオのBGMに使われているという報告もあって」
――あの曲の落ち着くトーンゆえかもしれないですね。かといって暗くはなくて、明るい方向に進んでいくような雰囲気もあって。癒しという要素は中北さんにとって大きなものですか?
中北さん「はい。僕の主軸は癒やしで、その軸はブレることなくずっとやってきています」
今まででも特にお気に入りの曲
――ホームページに書かれていたことですが、中北さん自身もちょっと体調を崩されたりしたことがあったとか。
中北さん「自分自身もメンタルが弱い方なので、自分を励ますつもりで曲を作ったりとか。そうやってできたものを他の人にも使ってもらえたらいいなと思って」
――素晴らしいことですね。
中北さん「『待合室の癒しのピアノ』というシリーズがあるんですが、それはね、僕がノコギリで手をケガしてしまったことがあったんですよ。痛くて痛くて病院に行って、そしたらその病院でジャズが鳴ってたんですけど『わー、こんなジャズじゃなくて、もっとこういう曲が鳴ってたらいいのにな』と思って。1時間ほどの待ち時間に、イメージした曲のテーマだけをとりあえずスマホにハミングして録音しておいて、ケガが治ってからレコーディングしたものなんです」
――すごい!本当に待合室で待っている時間に生まれた曲なんですね。愚問と思いつつ、たくさんの曲がある中で、ご自身でお気に入りの曲をあげるとしたら今、何が浮かびますか?
中北さん「2曲ありまして、一曲は『ひとつの箱』という作品ですね」
中北さん「音楽の先生をしていた時、左手しか使えない生徒がいたんです。リコーダーの授業で、その子がすごく悲しそうな顔をしているのを見て、左手だけで演奏できる曲を作ったんです。そしたらその子が『これなら演奏できる』って喜んでくれて、そんな思い出がある曲なんです」
――すごい話ですね。中北さんだからできたことですね。
中北さん「もう1曲は『夢の扉』ですね」
中北さん「この曲は、自分が鬱っぽく落ち込んだ時に、自分を癒そうという意味合いもあって作った曲だったんです」
――自分の曲で自分自身を癒すこともできるというのがすごいです。後ほど改めてじっくり聴かせていだきます。最後にお聞きしたいのですが、最近はどういうことを中心に活動していますか?
中北さん「大きなところでは、60歳の時に還暦コンサートをやりました。作曲は日々湧き出てくるので続けています」
――中北さんのYouTubeチャンネルを拝見したのですが、能登半島地震を受けて応援の曲を作ったりもされていますよね。中北音楽研究所のYouTubeアカウントをチェックしておくと今後の最新の情報がわかりますか?
中北さん「そうですね。YouTubeを見てもらうのが一番いいかと思います」
――予定より長い時間になってしまってすみません!ありがとうございました。
中北さんとの電話はこうして終わった。面白い話をたくさん聞くことができた。自分の曲が知らず知らずのうちにどこかで使われて誰かの耳に届いていることを想像しながら、日々、新しい曲を作る。そのような音楽との触れあい方もあるのだな。なるほど、と思いながら私はYouTubeで検索して出てきた「中北利男癒しのピアノアルバム MAKOTO四季 40曲」という動画(1時間以上ある)を小さな音量で再生し、再び布団に潜り込んだのだった。
