特定層狙いで反転攻勢へ
では、量と質でネットとテレビの関係性が変容する中、テレビは生き残ることができるのか。
筆者の答えはYesだ。テレビ局が放送にのみこだわるなら、今後も先行きは細るばかりで「終わる」だろう。ただし躍進するネットを活用すれば、ビジネスとしての活路は十分にある。
例えば、TBSドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(火曜夜10時~)は、個人視聴率が4%なので、リアルタイムで視聴する人は400万人ほどしかいなかった。ところが第7話の無料配信回数は、522万を突破し歴代最高を記録した。より長期の配信やSVOD展開を入れれば、視聴者数は放送を大きく凌ぐ。
フジテレビは2025年、「アドレッサブルCM」の実験放送に成功した。ターゲット別に視聴者へCMを届ける技術で、広告効果が高まるのでCM単価の上昇が視野に入る。これが一般的になれば、放送以外でも大勢にリーチする番組制作のニーズが高まり、テレビ局の収入増にもつながる可能性がある。
こうなると最大公約数を狙ってきたテレビ番組は、発想を転換して柔軟なビジネス展開ができるようになる。マス対象の放送パートの後に、ターゲットやニーズ別に多様なコンテンツを作り分け、ネットで特定層を効率的に刈り取る発想だ。
「そんな何通りも制作するのは大変」という反論が出そうだが、実は生成AIなど技術の進化は、それを安価で迅速に可能とする。例えばニュース番組。1時間で20項目とすると、1項目平均2~3分となる。ただし視聴者によっては、関心のないニュースが幾つも含まれ、リアルタイム視聴が厭われる要因だった。
ところが各項目30秒ほどのヘッドラインをまず放送し、視聴者はその中からニーズに応じて詳細情報をネット経由で視聴すれば、便利なシステムとしてより多くの視聴者を獲得できる。まさにアドレッサブル広告の番組本編版だ。
どれほどの詳報か、どの切り口が必要か等のニーズに応じて、同じ項目を何通りも作り分ける。生成AIを活用すれば、コストは1.2倍程度に抑えることが可能だ。一方で売上や利益は、テレビ広告とネット広告をあわせて1.5倍以上に膨らむことも視野に入る。
テレビ局の反転攻勢
このやり方は、生活者のテレビ視聴時間を短くする副作用を持つ。それでも従来は最大公約数の視聴者にリーチするだけだったテレビが、多数派の他に少数派もきめ細かく取り込むことで、一人当たりの単価を上げ総収入増が可能になる。
しかもこの方式なら、アニメ・ドラマ・バラエティ・情報番組にも応用できる。総リーチと総収入で見れば、コスト増より収入増が上回るような仕掛けは十分に発明可能だ。
インターネットが登場して以降、放送陣営はその価値を見誤り、結果として大きく後れをとってしまった。その周回遅れのタイミングで訪れた生成AIの進化。今度こそ可能性を最大限に活かす知恵を発揮し、新たな地平を切り拓いてもらいたいものだ。