事前ブリーフィング
城島に先導され部屋の中に入るとその中にいる人影を詳しく観察することができた
事前に知らされていたように人数は四人、三人の外人と日本人らしきアジア系の男が一人いるのが確認できた
それぞれ歳は四十ほどだろうか、外人の年齢は外見から判断しにくいために正確には把握できないが少なくとも自分達より倍以上の年齢であることは佇まいと雰囲気から察しがついた
「お待たせしました、喜吉学園二年A組三班引率の城島です、今回はよろしくお願いします」
城島が頭を下げるのと同時に静希達も四人に向けて頭を下げる、立場がどうあれ若輩者が捜査に加わろうというのだ、彼らとしてもいろいろと思うところがあるだろう、こうやって第一印象を良くしておくのは必要なことだというのは理解できた
「では早速始めようと思うが・・・まぁ座りなさい、ところで『ジョーカー』はどちらかな?」
席の真ん中右側にいる金髪の男性が静希達を見比べながらそう聞く、言語自体は日本語ではないが、静希がいれば言葉が通じるという事は恐らく情報として流れているのだろう
こちらとしては問題はない、そして彼の質問に鏡花たちの視線が静希に集中する
隠すような事でもないと静希は自己紹介でもしようかと口を開いた
「俺が『ジョーカー』五十嵐静希です、今回はよろしくお願いします」
できる限り丁寧に、全員に自分の声が届くように挨拶をすると、自分達とは向かい合う形で座っている男性陣は静希の一挙一動を見逃さないように視線を向けていた
静希は一見すればただの学生にしか見えないのだ、これが悪魔の契約者である『ジョーカー』なのかと疑いの目を向けている者もいる
当然と言えば当然だが、見た目ただの学生が悪魔を従えているとは思えなかったのだろう、その思考は静希も理解している
静希は今回、意図的にただの学生を演じていた、ただ戦えばいいような今までの現場と違い、今回は隠密活動がメインになる、身を隠して行動することは静希も得意だが、集団でそれを行うとなると静希は、いや鏡花たちも経験がない
だからこそまずは相手の出方をうかがおうと思ったのである、集団で行動し戦闘を行うだけなら多少の勝手もできたが、身を隠し見つからないように行動するうえで勝手な行動をすればすべてが露見しかねないのだ
どのような行動をするのか、どう動くのか、気を付けるべき点は何か、その点をまずは知る必要がある
だからこそ静希は一旦強い圧力などは出さずに、ただの学生として挨拶していた
そして近くに座っている鏡花や城島もそれを察したのか、今回は静希主動ではなく、まず班の長であり、引率である自分たちが話を進めるべきだと考えたのだろう、互いに視線を交わしながら咳払いをする
「ではまず、今後の予定と方針、そして目的をお聞かせ願えますか」
引率である城島がまずは口火を切ると、一番端に座っている黒髪の男性が資料を読みながらこちらに視線を向ける
「今回の目的は大まかに分けて三つ、誘拐犯及び実行犯の拘束、誘拐された研究員たちの保護、そして資金を流していた企業の人物、及び証拠の確保です、今回はチームを大きく三つに分けて行動することになります」
その後大まかな説明がされることになり静希達はそれぞれメモを取ることになった
誘拐犯がどこにいるかは現在現地のチームが捜索中、誘拐された研究員たちが監禁されている建物はすでに把握済み、現在その建物に立ち寄る人物から関係者の割り出しをしているそうだ
現地にいる捜査員からの報告によると、見張りが数人いるらしいが犯人の総数は不明、建物内には常に四人の見張りがいるが一日に三度ほど入れ替わりがあるらしい
現在も金の流入はあるようだが三月以前に比べると格段に低くなっているらしく、受け取りは毎度場所を変えて行われているようだった、金を渡している企業の人間は決まってジャン・マッカローネ、彼は重要参考人として確保の対象であるらしい
現地のチームはすでに三つのチームに分かれている
背後関係を割り出すために見張りの人間を割り出し追跡するチーム
企業からの金の流れとその証拠をつかむために情報を集めているチーム
誘拐された研究員の救出を第一に考え建物の見取り図や見張りの人数などを随時確認するチーム
それぞれ先にあげた目的のために捜査員を分け、それぞれが適任と思われる場所に配置されているようだった
こうなってくると静希達の配置も大まかにではあるが予想できる、まず間違いなく誘拐犯の拘束、あるいは誘拐された研究員の救出のチームに入れられることになるだろう
実際に悪魔の契約者がいると仮定した時、いそうな場所といえばそこしかない、なにせジャン・マッカローネの所属する企業は表向きはただの株式会社だ、そんな場所に契約者や悪魔がいるとは思えないのだ
静希もそれを理解しているために表情を曇らせていた
こちらの目的はあくまでジャン・マッカローネからリチャード・ロゥの情報を得ることなのだ、捜査チームと協力体制をとっている以上、問題なく拘束自体はできるだろうがその後に静希達の下に情報が届くかは怪しいものだ
確実に情報を手に入れるためには静希たちかエドたちのどちらかが直接ジャン・マッカローネを捕えるしかない
とはいえ自分たちがどのような配置になるかはほぼ確定的、今回はエドたちに動いてもらったほうがいいかもしれない、情報を渡すだけ渡して先回りしてもらうしかなさそうだ
静希がそう考える中、鏡花も同じような思考にたどり着いていた、そして次に彼女が言葉にすることはすでに決まっていた
「確認したいのですが、私達は三つのチームの中でどこに配属されるのでしょうか?」
静希が一番確認したいことを代表して班の長である鏡花が問いかける
今回は静希はとにかく目立たないようにしているというのがわかっている以上、自分たちが積極的に聞かなくてはならない
「まだ確定的ではないが、犯人拘束、あるいは研究員の救出のどちらかに配属されると考えていてほしい」
予想通り、静希と鏡花が同時にそう考える中、鏡花はさらに質問を続けることにした
「その理由をお聞かせ願えますか?」
「誘拐された人間の近くにそれを守る人間、そしてそれを逃がさない人間がいるのは一種のセオリーだ、そこに障害となる危険があると思われるのが一つ、そしてもう一つは企業のある場所が都心であるという点、そして企業の人間の周囲に怪しい人物がいないという点だ」
街中で悪魔を暴れさせるようなことは避けたいというのももっともな理由だろうが、今回捜査チームがマークしているジャン・マッカローネの周囲にそれらしい人物が確認できなかったというのが一番の理由だろう
普通に生活している人間の動向を探るくらいなら造作もない、幸か不幸か彼の周りには不審な人物は見受けられなかったのだ
唯一それらしい人間がいるとすれば、定期的に資金を流す際に接触する運び屋らしき人物くらいのものである
「まだすべて確認はできていないが、見張りの中には能力者も確認されている、すべてうまく運ぶわけではないだろうから戦闘があるというのは念頭に入れておいてほしい」
能力者の確認は済んでいる、恐らく顔から判別して割り出したのだろう、それが犯罪者かどうかはさておいて自分たちの行動の障害になるのは間違いない
能力者がいるとなるとまず間違いなく戦闘になる、運が良ければ完全な不意打ちで相手に攻撃の隙を与えることなく制圧も可能かもしれないが、彼の言うように全てうまくいくわけではない、戦闘はあると考えておいていいだろう
「誘拐された研究員の総数は確認できていますか?差し支えなければ教えていただきたいのですが」
「のちに資料を見せるけれど、現在確認されているだけで四十三人、国を問わず奇形研究で名の通った研究者たちだよ」
四十三人、言葉にすると大した数では無いように見えるが、それだけの人数を誘拐し、なおかつ足取りをとられないように一カ所に集め、更に何かの研究をさせていたとなると流石に規模が大きい話になっているような気になる
四十三人となると学校のクラスひとつより少し多いくらいだ、クラスひとつを誘拐して行方をくらませるというのと同義だ、簡単にできることではない
「それだけの規模となると、多くの協力者がいそうですね、そちらの確認の方はどうなっているんでしょうか?」
「各地で捜査は進んでいるが、実行犯のほとんどは現地で雇われた人間ばかり、移動に使われた手段も一貫していないし何より犯人につながるようなものが少なかった、規模は大きいが大きな組織が関わっているというわけではなさそうだというのが我々の見解だ」
規模は大きいが、大きな組織は関わっていない
証拠を残さないために、そして足取りを掴ませないために幾つかの手順を踏んであらかじめ雇っておいた人間を使う、確かに大きな組織が関わっているにしてはやり方が回りくどい
テオドールにさらわれかけた時もそうだったが、大きな組織が関わっているのであればその末端が動くのが常である、捜査チームとしてもそう言う大きな組織が動いていないというのが共通の認識のようだった
「実行犯・・・今回の場合は確認できているのは見張りだけとのことですが、彼らを確保した後はどのような流れになりますか?私達に何か協力できることは?」
「いや、確保までが君たちに協力を要請する条件でもある、それ以降は我々の仕事だ」
つまりは確保した後、情報を流す義理は無いという事である
こうなってくるとますます情報を確保するためには積極的に動かなくてはならないことになる、見張りの方は捕まえたら尋問することになるだろうが、そこで得られた情報は決して静希達の下には届かないだろう
そして静希達の目標でもあるジャン・マッカローネに対しても同様だ、確保したらそこから先は静希達は完全に蚊帳の外へと追いやられるだろう、それは静希達の目的を考えると望むところではない
確実に情報を得るためには、捜査チームよりも先に目標であるジャン・マッカローネを確保する必要がありそうだった
「実際は君たちの活躍の場がないのが一番いいと思っている、こちらとしてもそのほうが楽だし、何より君たちのような学生を危険に晒すというのもあまり気持ちのいいものではないからね」
その言葉に静希と鏡花は同時にある思考にたどり着いた
静希達の前に並んだ四人、その中の何人かは恐らく軍人よりは警察に近い考え方を持っている、要するに一般市民は守るべき対象という一種の正義感を有しているという事だ
これは利用できるかもしれないと静希は思考を繰り広げたうえで鏡花に一瞬視線を送る
そして彼女もそれを理解しているようだった、この状況でどちらかでも目標に近づくために必要な事と、それを可能にするために今するべきこと
「あの・・・だったら一つ提案・・・というよりお願いがあるんですけど」
「ん?なにかな?」
学生を危険な目に遭わせるわけにはいかない、そう言う思想を持っている人間がいるのであれば、恐らくこの提案を邪険にするという事は無いだろう、そう確信しているからこそ、鏡花は言葉をつづけた
「私達の中の非戦闘員を企業の方に回してほしいんです」
一応予約投稿は今日までにしておきます
少しは落ち着いている頃だと思うので
これからもお楽しみいただければ幸いです