「国保逃れ」疑う事業主 届いた資料と勧誘「維新議員もやっている」

 日本維新の会で浮上した、いわゆる「国保逃れ」疑惑。それが明らかになった発端は、ある「交流会」での勧誘だった。

 大阪・関西万博が盛り上がりを見せていた2025年夏、大阪市内のホテル。仕事のつながりを広げる目的の「ビジネス交流会」が開かれ、フリーランスや個人事業主たち約100人が集まっていた。

 大阪府内に住む30代の個人事業主の男性に、スーツ姿の男性が近づき、国民健康保険料(国保料)の話を切り出してきた。

 この事業主が男性の名刺に目を落とすと、こんな言葉が躍っていた。

 「個人事業主向け社会保険サービス」

 「いくら稼ごうが国民保険+国民年金=34000円/月固定」

 事業主は普段、上限額いっぱいの国保料を納めている。「正直、国保料は高い」と不満をもっていたが、保険料が低減されるような文言をみて直感的に「ほんまにそんなことができるんか」と怪しんだ。

 そんな気持ちを感じ取ったのか、男性はこう語ったという。

 「維新の議員さんもやっていますから問題ないですよ」

 事業主は「信頼性がある事業だということをアピールしたいのだろう」と受け取った。

 その日は名刺交換しただけだったが、後日、どんな仕組みなのか興味が湧いたため、男性の名刺にあるメールアドレスに資料請求してみた。

日本維新の会が所属議員の調査を進めている「国保逃れ」の疑惑。朝日新聞が入手した関係団体のものとされる資料には、国保料の支払いを回避する詳細な手法が記されていました。大阪府議会で「制度の悪用」とも指摘された保険料「削減」の手法。この団体や、資料に登場する関係者、維新の地方議員らを取材しました。

社会保険料の負担を「最低水準に」

 1日も経たないうちに返信があった。メールに添付されていた資料のタイトルは、「コスト削減の提案」。一般社団法人の理事に就くことで高額な国保料を回避する仕組みが31ページにわたって書かれていた。

 国民健康保険などの公的医療保険は、給与や報酬に応じて保険料を納める仕組みだ。一方、一般社団法人に所属して社会保険(社保)に加入していると、保険料の算定は法人の報酬や給与が基準になり、国保の保険料は払わなくてよくなる。つまり報酬を低く設定すれば保険料を安く抑えることが可能になる。これはSNSなどで「国保逃れ」とも指摘されている手法だ。

 資料は、まさにその手法を踏襲するような内容だった。

 具体的には、①個人事業主らが社団法人の理事に就任②法人が「役員給与」を支払う③事業主らは法人に「会費」を支払う――というもの。資料には、法人が「会費」から社会保険料を支払うような図が描かれており、「『弊社試算上の最適給与設定』を適用することで、皆様の社会保険料負担額を最低水準に落とすことが可能」と記されていた。

 一例として年間約86万円の「削減」が可能になったとされる事例紹介や、府内の税理士が「安心してサービス活用できる」とするコメントもあった。理事の業務は「社会制度や年金制度などの知識向上に研鑽(けんさん)いただくこと」などとなっていた。

 資料の問い合わせ先には、京都市の一般社団法人とする「栄響連盟」の事務担当名が書かれていた。

 資料をみて事業主の疑念は深まった。「倫理的にまずそうだし、どう見ても『気持ち悪い』感じがした」

 その後、事業主は自民党の占部走馬・大阪府議に事情を説明。このことで問題が表面化する。

「制度悪用」「脱法的運用」 大阪府議が指摘

 25年12月10日の府議会本会議。占部府議は、栄響連盟の理事に日本維新の会の所属議員と同姓同名の人物が就いていると指摘した。

 さらに、連盟には600人を超える理事がいると説明。社団法人の手法について「実質的な制度の悪用」「本来の趣旨を外れた脱法的運用と(識者から)指摘されている」などと訴えた。

 これを受け、維新の吉村洋文代表(大阪府知事)は同17日、記者団の取材に、兵庫県の地方議員4人がこの法人に所属していたことを確認したと説明。維新は事態を重く受け止め、20日には中司宏幹事長に全ての党所属議員らを調査するよう指示したと明らかにした。

 この地方議員4人のうちの1人は、朝日新聞の取材に法人の理事に就任していたことを認めた。理事の仕事について、この議員は「勉強用の資料が送られてくるから、それを見て勉強していた」と語った。その上で、「保険料をごまかせるなんて知らなかった。知っていたら(法人に)入っていない。人脈作りのために入っただけだ」と説明した。

法人「疑義の指摘は事実に反する」

 朝日新聞は昨年12月下旬、メールと電話で法人に取材を申し込んだが、1月6日までに返答はなかった。登記されている事務所も複数回訪ねた。ポストからは、12月中旬に最初に訪ねた時には貼られていた法人の表札ラベルはなくなっていた。

 この法人が運営しているとみられるホームページでは「当法人の活動実態に関する一部報道・ご指摘について」というコメントが12月18日付で掲載された。

 法人はコメントで「当法人の運営実態や設立目的に関する疑義が指摘されている」とした上で、法人の設立は社会保険や年金など公的制度に関する理解や知識の向上を図ることを目的にしていると説明。「疑義の指摘は事実に反する」として、遺憾の意を表明した。

 また、朝日新聞は昨年12月下旬、ビジネス交流会で個人事業主に接触した男性に、社団法人との関係などについて電話で尋ねたが、男性は「回答は差し控えさせていただきたい」と話した。法人のものとみられる資料にコメントのあった税理士も朝日新聞の取材に「自分がコメントを出した覚えはない」と話し、資料についても「知らない」としている。

 維新は昨夏の参院選で、支払い能力に応じた応能負担の徹底を図る「社会保険料を下げる改革」を最重要政策の一つに掲げ、連立政権を組む自民党と具体的な協議を始めている。それだけに、党の姿勢の整合性が問われる事態となっている。党は所属議員の調査を進めており、1月中にも結果を公表する方針。吉村代表は1月5日、記者団に「厳しく対処する」と述べた。

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