超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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前編と後編を同時投稿しています。
こちらは後編となります。


第19話後編 シャアにとっては長い夜

 

 

 数時間が経過し、太陽が沈み切った頃。

 ニューヤークにあるジョン・F・ケネディ国際空港に俺たちは無事到着した。

 

 基地に直接着陸しなかったのは、この機が民間機を偽装しているからである。

 ここから、ガルマとは別行動になる。

 キシリア少将との直接通話のために、基地へと向かう必要があったからだ。

 

 別行動前にガルマは命令を出していった。

 俺に対してはニューヤークにある高級ホテルに宿泊し、そこで疲れを癒すようにと。

 シャアには、その護衛としてホテルに滞在するようにとのことだ。

 ハッキリ言ってしまうと、友人たちへのねぎらいなのだろう。

 

 

 部屋は自由に選んでいいとのことだったので、部屋の位置は()()()()()()()()()

 俺の部屋とシャアの部屋は、数部屋程度は離れているが、同じフロアである。

 まあ、名目上護衛だしね。

 

 そのシャアの部屋に、俺は立ち寄っていた。

 シャアは先ほどまでシャワーでも浴びていたのだろう、軍服ではなく、カッターシャツにスラックスという私服姿だ。

 いつものバイザーも外し、サングラスを付けている。

 士官学校時代みたいだ。

 

 そんなシャアと、部屋のテーブルを挟んで俺は乾杯していた。

 まあ、俺は相変わらずのオレンジジュースだが。

 

「作戦の成功を祈って乾杯だ。

 まあ君の作戦に抜かりはないだろう。

 ジャブローの位置はもうすぐ丸裸になる。

 戦場の主軸も、北米から大きく動くことになるな」

 

 いつになく饒舌なのは、無意識のうちに抱いている俺への苦手意識の現れに見える。

 シャアは、自身が主導権を握れない状況だと、割と本領が発揮できないタイプからな。

 

 だからこそ、このタイミングが最適と考える。

 

「ああ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お前には悪いがな」

 

 シャアの動きが完全に止まった。

 様々なことを考えているようだが、思考の混乱が見事に伝わってくる。

 

「……何を言っているのか分からないな」

 

 そうだな。

 お前はそう答えるしかない。

 

 だがなシャア。

 ここで冷や汗一滴でもかいた時点で、お前の負けだよ。

 

 俺は()()()()()()()()()()()()()ボイスレコーダーのスイッチを入れた。

 

「帰って来てくれたんだね! キャスバル!」

 

 ボイスレコーダーから声が流れる。

 懐かしい声だ。

 暁の蜂起で戦死した、リノ・フェルナンデスの声だった。

 

 シャアの顔は能面のように無表情だ。

 

 なぜバレた。

 なぜあのタイミングで録音など。

 こいつの口を封じるしかないのか。

 いや白兵戦で勝てる相手ではない。

 

 様々な思念を感じる。

 その間にも録音された音声が進み、()()()()()()()()()

 

「リノ、あの61(ろくいち)を奪い取れ。

 君は特殊車両操縦評価Aだったはずだな。

 僕は司令塔へ急ぐ」

 

「分かった。任せろ!」

 

「頼む、2人の専用通信チャンネルは010(マルヒトマル)だ」

 

 シャアの顔は既に白を通り越して真っ青だ。

 

 当然だろう。

 寮の階段でのリノとの会話なら、まだ録音されていても理解はできる。

 

 ただ、暁の蜂起の真っただ中での会話など、()()()()()()()()()()()()()()()()()()絶対に不可能だ。

 そうなると、「いつから?」と「何故?」という答えの出ない思考の迷路に行きつくしかない。*1

 

 シャアの混乱の間も、音声の再生は進む。

 

「聞こえるか、リノだ。味方が俺を狙っている!

 どうした! 応答してくれ、キャスバル!」

 

 虚しく絶叫を繰り返すリノの声が部屋に響く。

 

「何故だ、キャスバルゥゥゥゥッッ!!」

 

 そして爆音が響き、再生が終わった。

 再生の停止したボイスレコーダーを拾い上げて、俺は告げる。

 

「さて、これを前提とした話をしようか。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 シャアはサングラス越しに、こちらを睨み付けることしかできない。

 それはそうだ。

 

 リノの時とは話が違う。

 リノ・フェルナンデスは稚拙な推論と論理の飛躍をもとに、シャアをキャスバルと()()()()()()()ので、まだ否定する余地が残っていた。

 とはいえ、あのまま放っておいてはキシリアに察知され、身元の再調査の結果、露見していただろう。

 だが、あの時点では言い逃れの余地はあった。

 

 だが今回は違う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()という証拠付きだ。

 言い逃れなどできはしない。

 

 しかも、目の前にいるのは、士官学校時代からシャアが実技戦闘で勝てたことのない首席卒業の化物(バグ枠)だ。

 戦うにしろ、逃げるにしろ不可能だ。

 どう考えても詰んでいる。

 シャアはそう悟っている。

 表情は既に、何もかもを諦めたような笑みに変わっていた。

 

「まずは話の第一歩として――」

 

 俺は手に持っていたボイスレコーダーを無造作にシャアに放り投げた。

 

「なっ!?」

 

 さすがに予想外過ぎたのか、シャアはそれをキャッチできず、ボイスレコーダーはシャアの足元に転がった。

 

()()は特製の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 接続端子が無いことをお前の手で調べてから、()()()()()()()()()

 

「……どういう、つもりだ?」

 

 完全に詰んでいる状況で、その詰ませた相手から無造作に命綱を渡される。

 まあ意図が読めるはずもないよな。

 

「言っただろう?

 キャスバル・レム・ダイクンの側面を()()()お前と話し、()()()()こと。

 それが俺の目的だ」

 

「交渉……だと?」

 

 まだ混乱から立ち直ってはいないな。

 シャアという仮面が完全に外れて、キャスバルとしての素が思いっきり出ている感じがする。

 

「そう。

 面倒だから、とりあえず、お前がキャスバルという前提で進めていいか?

 この部屋番号は()()()()()()

 少なくとも、ジオンの耳はここにはない」

 

 まあ、俺が盗聴器を持ち込んだらその仮定は成立しないが、そもそも俺が盗聴器を持ち込むくらいならさっきの音声データだけで十分だ。

 それはシャアにもわかるだろう。

 これは俺からの礼儀であると。

 

 考え込むシャアに、俺は告げた。

 

「とりあえず……さっさとそのレコーダー踏み潰せよ」

 

 

 

 

 

 数分後。

 レコーダーを踏み潰したシャアが多少落ち着くのを待ってから、俺は話を始めた。

 この状況で、さっきまで飲もうとしていた酒を飲む気にはならないだろうし、シャアが落ち着くまでの間に紅茶を淹れて出してやった。

 

 俺ってお気遣いの紳士だよなぁ。

 

「それで、交渉と言ったがエルンスト。

 君は何を私にさせたいのだ?」

 

 さすがに数分あればある程度は落ち着いたのか、シャアが紅茶を飲みながら聞いてくる。

 この局面で、俺の入れた紅茶を躊躇なく飲める図太さ。

 これこそがシャアって感じがする。

 

「まず最初の確認だ。

 お前はザビ家に復讐するために士官学校に入学した。

 ()()()()()()()()()()()()と入れ替わる形で。

 ここまではいいな?」

 

 シャアは「ああ……」と頷いた。

 ここで「私はキャスバルではない」と否定されると話が進まないからな。

 初手であのレコーダーを聞かせておいて正解だったわ。

 

「ならその前提で確認する。

 お前の復讐対象は()()()()だ?」

 

「どこまで、だと?」

 

「ああ、ジオン・ズム・ダイクンが死んだのはザビ家による陰謀。

 それ自体も、お前に()()()()()()()()()()()()ことだろうが、その是非は別に構わん。

 ジオン・ダイクンの死をザビ家が()()()()のし上がったのは変わらんわけだからな」

 

 そう。

 今更ながら、シャアのこの復讐心。

 ジンバ・ラルが言っていた以外の、証拠が無いのである。

 

 媒体によっては本当にザビ家の暗殺だったりするし、本当にタイミングの悪すぎる病死だったりする場合もある。

 公式でも解釈が分かれているが、多分そのうち声の大きい方が勝つだろう。

 

 それはともかく。

 

 吹き込んだジンバ・ラル自身、ザビ家との政争に負けた事実はどの媒体でも大差ないと推測できる。

 結局、こいつの証言はザビ家への逆恨みが大量にこもっているため、横から見ると信憑性はゼロなのだ。

 

 まあそれはどうでもいい。

 

「で、ジオン・ダイクンの死に関わっていた、もっと正確に言うと、ジオン・ダイクンの死を利用してのし上がったザビ家の面々は誰だ?」

 

 俺は右手を拳の形に握り、目の前に立てた。

 そのまま人差し指を立てる。

 

「まずは公王、デギン・ソド・ザビ。

 最有力の容疑者だな」

 

 続いて中指を立てる。

 

「次にギレン・ザビ総帥。

 まあデギン公王が黒だとするなら、こちらも黒でないとおかしいな」

 

 続いて薬指。

 

「次にキシリア・ザビ少将。

 当時はムンゾ保安隊隊長だったか。

 そもそもあの人にとっては、謀略も暗殺も十八番で常套手段だ。

 これも黒と見ていいだろう」

 

 今度は指を立てずに続ける。

 

「次にサスロ・ザビ。

 デギンとギレンが黒ならば、その右腕とも言えるこいつが黒でないわけがない。

 だがこいつは既に故人だ。お前の復讐対象には入れようがない」

 

 シャアは真面目な顔でこっちを見ている。

 異存はないようだ。

 俺は続ける。次も指は立てない。

 

「次にドズル・ザビ。

 当時はムンゾ防衛隊所属だが……正直に聞くぞシャア。

 この人に暗殺や、ダイクンの死を利用するなんて器用なことできると思うか?」

 

 至極真面目に聞いたつもりだったが、シャアは苦笑して首を横に振った。

 

 まぁそうだよなぁ。

 

 俺ほどではないにしても、シャアもこの人とは長い付き合いだ。

 この人、暗殺するぐらいなら「俺が拳でダイクンを叩き伏せてくれるわ!」ってダイクン邸に突撃するタイプだよなぁ。

 

「最後にガルマ・ザビ。

 お前と同じ歳だ。当時の彼が暗殺に関わっていると思うか?

 いや、俺が言っても説得力が無いだろうが」

 

 シャアが真顔で首を振った。

 すごい勢いで振っている。

 

 やっぱりお前、何気に失礼だな。

 

「つまり、俺がお前に求めることはただ一つ。

 ()()()()()()()ということだ」

 

 ようやくシャアも俺の意図が掴めたのだろう。

 紅茶を一口飲んだ。

 

「つまり、ガルマとドズル中将は見逃せということか?」

 

「有体に言うとそうなるな」

 

 シャアとしても微妙なラインなのだろう。

 もしかしたら、本人にもこの2人をどうすべきなのか答えが出ていないのかもしれない。

 

 まあドズル中将はともかく、ガルマに関しては出来心で偶然死んでくれないかなぁと画策したら本当に死んでしまい、後で酒を飲みながら本気で後悔していた奴だ。

 葛藤があるのだろう。

 

「しかし、ザビ家の一党を野放しにするなど……」

 

 俺は静かに聞いた。

 

「ならば、ミネバも殺すか?」

 

「…………」

 

 シャアは答えられない。

 まあ当たり前である。

 

 万が一にもあり得ないことではあるが、ここでミネバを殺すと言うまで外道に堕ちるのならば、この戦争の中で俺がシャアを殺す。

 そこまで堕ちたシャア・アズナブルなど見たくはない。

 

「直接的には無関係の奴まで復讐に巻き込むのなら……。

 ジンバ・ラルを殺すためだけに、マス家全てを殺そうとした彼らと何が違うんだ?」

 

 シャアはいまだ沈黙を貫いたままである。

 自分が信じる大義、そして敵と同じ穴の狢になるという事実との葛藤。

 簡単に飲み込めるのなら苦労はしない。

 

 だから、俺は逃げ道を用意する。

 

「それにだ、この2人を復讐対象から除外するのは、お前にとっても大きなメリットがある」

 

 本来はそこが焦点ではないものに、新たな価値を付けて存在意義を高める。

 ホワイトベースに対して俺が取った作戦と、本質的には変わらない。

 

「メリット……だと?」

 

 シャアが怪訝そうな顔をする。

 友情・恩義と復讐・義侠を天秤にかけている中で、そんな言葉が出てくるとは予想していなかったのだろう。

 

「ああ、シャアよ……。

 一応聞くが、仮にすべての復讐が遂行できたとして、()()()()()()()()つもりだ?」

 

「その後……?」

 

 あ、これは分かってない奴だな。

 さすがア・バオア・クーでも「タイミング的に殺れそうだから」でキシリアを殺っちゃった奴だ。

 復讐が全ての行動原理だったから、その先のことまで頭が回らないんだろう。

 

 まあ、シャアとして全てが上手くいった()()()()()今後の展開(Zガンダム以降)を話してやるとしよう。

 

「賭けてもいいが、お前は『ジオン・ダイクンの遺児にして、ザビ家を打倒した存在』として、完全に祭り上げられるぞ?

 

 理論の飛躍があったにせよ、リノですらお前の正体にたどり着いたんだ。

 シャア・アズナブルがキャスバル・レム・ダイクン()()()()()()

 その程度のゴシップ未満の情報であっても、指導者を失った民衆はそれを事実と断定する。

 

 結果として、お前はジオンの新しい指導者として、その役柄を求められ続ける」

 

 あ、心底嫌そうだ。

 

 そうだよな。

 お前そういうの「道化」って言って、未来(逆襲のシャア)で無茶苦茶嫌ってたもんな。

 

「ならば、どうすればいいというのだ?」

 

「簡単な話だ。

 ()()()()()()()を用意すればいい」

 

「スケープゴート……ッ!?

 そうか、それがガルマというわけか!?」

 

 ようやく合点がいった様子。

 いやまあ、シャアの正体暴露の時点から、強烈な情報を叩きつけてきたのだ。

 さすがの奴でも、頭の回転が鈍っているのかもしれない。

 

「ご明察。

 知っての通り、ガルマには軍人の才能はあまりない」

 

 友人に何て言い草だ、とシャアが笑う。

 うるせぇ。

 これに関してはお前も共通認識だろうが。

 

「かわりに、政治家としての才能は多分この世界屈指だと俺は思う。

 デギン、ギレン、キシリアを全て失った場合、混乱するジオンを()()()()()()()()()()としたらあいつしかいない」

 

 ガルマの政治的才能については異論はないのだろう。

 素直に頷いた上で、聞いてくる。

 

「ドズル中将はどういう意図で残した?

 まさか貴様が恩があるというだけではあるまい」

 

 ここで恩があるからだけだと言ったら、シャアがどんな顔をするのだろうか、と少し気になったが、ここでふざけている場合じゃない。

 真面目に答えるとしよう。

 

「恩があるのは間違いないし、なるべく命を救いたいと思っているのは間違いない。

 ただ実利はある。

 

 お前が首尾よくデギン公王、ギレン総帥、キシリア少将を排除した場合、ジオンはほとんどの統制を失う。

 将来的にガルマが立て直すかもしれんが、この戦争では()()()()()()()()()()、せいぜいが講和によるジオンの敗北となるだろう。

 

 ならば各地のジオン軍は残党という形で残されることになるわけだが、それの受け皿となる旗頭には、ガルマよりもドズル中将の方が適任と思わないか?」

 

「この戦争中にあの3人の排除がかなわなかったら?」

 

 俺は口角を上げた。

 

「それこそお前がゆっくり浸透していけばいい。

 お前の刃が公王や総帥の喉元に届くまで」

 

 シャアは納得したようだ。

 紅茶のカップを俺のグラスに近づけて、乾杯をする。

 どうでもいいけど、紅茶のカップとジュースのグラスで乾杯って、絵的にはすごく間抜けだな。

 

 とはいえ、これで交渉は成立だ。

 

「ならば、私はまずドズル中将の軍から、キシリア少将の軍へ移るべきだな」

 

「そうだな、その方が良いだろう」

 

 キシリアを狙うにしろ、ギレンを狙うにしろ、キシリアのもとで出世するのが一番早い。

 展開次第では、普通にギレンに敵対しかねない人だ。

 そうなったとしても、ギレンと戦えるのでシャアとしては悪くない展開となるだろう。

 俺はさらに続けた。

 

「丁度いいタイミングなことに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その意味を察したであろうシャアが、ギョっとした顔でこっちを見た。

 

「エルンスト、君はまさか……」

 

 まあ、これ以上は俺は何も仕込んではいない。

 ここから先の展開をつかみ取れるかは、シャア次第と言えるだろう。

 

「後はお前の自由にすればいい。

 俺は邪魔しないし、あの2人に害が及ばない限りは、できる範囲で協力してやる」

 

 シャアの表情が、引きつった笑顔から苦笑へとゆっくり変わった。

 

「やはり君だけは敵に回したくはないな」

 

 本当に失礼だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、交渉成立の祝いに情報をやる。

 アルテイシア・ソム・ダイクンことセイラ・マスは、ホワイトベースに乗ってるぞ」

 

 シャアは紅茶を吹き出して盛大にむせた。

*1
答え:前世知識なので生まれたときから。クソゲーにも程がある。




読んでいただきありがとうございます。


書きたかった展開の1つがようやく書けた感じです。

多分これでシャアの物語としては明確に展開がズレるかな。
お前はただのエースパイロットか、MS土方やってる方が絶対幸せなんだよオラ! って感じ。

原作では、ザビ家暗殺の初手で、ガルマ殺れそうだからと試したら成功しちゃったのがこいつの最大の不幸だと思っています。
私的なシャアの見方として、これ以降『ガルマの死に見合う何か』を求めてニュータイプ論に傾倒していったイメージがあるのです。



それと、5話でやってた録音がようやく出せました。
秒でシャアに踏みつぶされましたけど。
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